またもや発動
やっと試験勉強を始めた新と夕弦。
時々新が難しそうな顔をすると、夕弦はそれを察してすっと解答への手ほどきをしていく。 夕弦にとっては今日やらなければいけない勉強はないのだろう。 自分の復習をしながら新に気を配っているという感じだ。
途中一度だけゲストの使用人から『私のお嬢様に触れれば志望校が死亡高になる』、と熱いメッセージが届いたが、新は『勉強中です』とこれを撃退。 更に三時頃わざわざ買いに行ったであろう甘味を持って再登場した母を最小限の口数に抑え退場させた。
そして、無事二日目の勉強会に区切りがつき―――
「ふぅ、ありがとう夕弦さん。 おかげで明日は自信を持ってテストに挑めそうだよ」
「そんな、私の方から無理言ってお邪魔したんですから」
近頃勉強不足だった新は、みやび、夕弦という学年上位の秀才達によってその穴を十分過ぎる程埋める事が出来た。 この勉強会が二日間開催されると決まった時はどうなる事かと心配したが、終わってみれば苦労はありながらも実のある二日間になったのは間違いない。
( ふぅぅ、何とか乗り切ったなぁ………ん? )
祭りの後、といった心境だった新を呼ぶ着信音。 また沙也香かと思い、うんざりと手に取ったその画面に表示されたのは―――
「ちょ、ちょっとごめんね!」
携帯を持ってそそくさと部屋を出る新。
もう少し上手くやれれば、
( あんなに慌てて………連城さん、かな…… )
部屋に残った女の子にこんな顔をさせずに済んだのだが。
「も、もしもし」
『あっ、あらたくん、ごめんね、電話平気だった?』
「えっ、あ、うん、どうしたの?」
『どうしたの?』までに驚き、考え、返事と三つもリアクションを声に出す全く平気じゃない新。
『お父さんが北海道から帰ってきて、この前、えっと……おばさんに色々迷惑かけちゃったから、お土産持っていこうと思って……』
迷惑の内容を言い辛そうに話すのは凪。
事故により恥ずかしい格好になってしまい、羞恥に泣き出した自分を慰めてくれた新ママこと恵美子に土産を届けたいようだ。
「そ、そんな気にしないでいいのに……! それにほらっ、もう夕方だし……今度でいいよ!?」
一階と二階の階段の途中で話す狼狽えた少年は、まるで彼女に内緒で行った飲み会を一時抜けて言い逃れしているように見える。
考えてみれば新に彼女はいないし、ここは自宅。 それも夕弦は男友達としてやって来ているのだが、彼にとっては告白を受けている二人の女子。 気持ちもわからないではない。
『……そう、わかった』
聴こえてきたのは、明らかに沈んだ女の子の声。 だが、夕弦と凪のバッティングを避けたい新にはどうする事も出来ず、
「う、うん、明日はテストだしさ、終わって落ち着いてからでも――」
『連城さん……でしょ?』
「っ!?」
違うが、ほぼ正解だ。
「ち、違うよっ?!」
『……いい。 ごめんね、困らせて……』
その震えた声が一層困らせる。
「本当に違うって……! 友達……――そうっ! 男友達が来てるんだっ……!」
ここでやっと夕弦の設定に気付いたようだ。
しかし、この展開はここまで自分を苦しめてきた悪い癖、『泣かないで』が発動している事に彼は気付いているのだろうか。
『……本当?』
「本当だよっ、き、来てみる?」
自らの首を絞める台詞の後、心臓はバクバクと早鐘を鳴らす。
凪の返事は、それなら邪魔しない、になるのか、真実を確かめに来るのか―――
『……うん』
―――後者だったようだ。
「……じゃあ、待ってるね」
その返事に瞬きを忘れて応えると、
『うん、もう近くだから』
という慈悲無き声が鼓膜を振動させる。
瞳の乾いたまま新は「わかった」、と言って電話を切った後―――
( 近いんかーーーいッ!! )
―――と心中で絶叫した。
どうやら会いたい気持ちが先に足を動かし、近くに来てから電話で在宅を確認してきたようだ。
残された時間は僅か、新は急いで部屋に戻って事情を説明しなければならない。
今、一人部屋で表情を曇らせる
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