アンフェア
―――その日、泰樹の件で新から泣き付かれて以来、初めてみやびは泰樹、いや夕弦と二人きりで生徒会室に居た。
「……森永くん」
「ん? なんだい?」
隣に座る泰樹に意を決して話し掛けると、普段と変わらない様子で顔を向けてくる。
「この前、新と何があったの?」
内容は新から聞いているが口止めされているのもあり、知らないでいて欲しい事もあるだろうと考えたみやびは、何も知らない
「ああ、ちょっと揶揄い過ぎちゃってね、驚かせてしまったよ」
泰樹もある程度の事は聞いていると予想はしていたのか、特に慌てる様子もなく対応してくる。
だが―――
「私は森永くんとそれなりに付き合いがあるつもりだから、ぼかしても無駄だよ」
新に対する好意を認めるのならそれでよかった。 同性への気持ちであってもみやびはそれを差別するつもりはなかったし、一人のライバルとして認識していただろう。 だが、欺くようなら容赦はしない。 彼女はそういう顔をしている。
新に対しては無防備だが、本来は隙のない頭の切れる女なのだ。 それに対する泰樹も同様に切れる人物。 少し目を閉じた後、好戦的な目を向けてくるみやびに目を細めて口を開いた。
「そうか、ごめん。 連城みやびにこんな子供騙しは通じないよね」
大多数の女子生徒に好意を抱かれる泰樹。 彼が言う事ならその女子達は疑う事無く信じるだろう。 しかし、目の前に居るのは自分と同格の存在。 そして、今まで一番近くに居たにも関わらず、自分に惹かれなかった相手だ。
みやびには偽れない。
そう思った泰樹が続けた言葉は、
「悔しかったんだ」
「……どういうこと?」
「君は誰にも惹かれない、そう思ってた。 だから僕も急がなかった……後悔してるよ」
それから、泰樹はみやびに顔を寄せて囁く。
「手遅れじゃないと思ってる。 連城さん―――君が好きだ」
優しく、慈しむような瞳で見つめる泰樹。
一体どれだけの女性がこの視線に耐えられるのだろう。 それはもし、今心に想う人がいても気持ちを揺がしてしまうような、そんな危険な瞳だ。
「……私、結構モテるのよ、あなたと同じぐらいね」
泰樹の視線を受け止め、距離を取る事無く言い放つみやび。
「相手の好意が本物かどうかくらいわかるつもり。 いいわ、フェアにやるつもりが無いならそれでも」
言い終わるとみやびは立ち上がり、出口に向かって歩き出した。 そして、ドアに手を掛けたところで振り返り、冷たい目を向けて言葉を投げつける。
「私はフェアにやってあげる。 新とは幼馴染だし、家も隣だからね、ハンデがあるでしょ? 私、週末は新と会うつもりだから。 あとね……」
正々堂々、新と自分の関係、そしてこれからの行動を伝えた後、みやびは悔しそうに顔を歪めて言った。
「新が見てるのは――――私だけじゃないから」
そう言い捨てて、みやびは生徒会室を後にした―――。
◇◆◇
「……もぉ、いつまでそうしてるんですか?」
ベッドに突っ伏した少年に飽き飽きした声で話し掛ける使用人。
「私は……卑怯で、汚い女です……」
―――女。 そう、この光景も二度目になるが、涙声で話す少年は着替え前の夕弦。 そして声を掛けているのが破天荒使用人の沙也香である。
「恋に卑怯もへったくれもないですって。 勝てば官軍っ! 恋は戦争ですよ?」
性格通りの持論を展開する沙也香。
当然夕弦にそのアドバイスは届かず、後ろ向きな言葉が返ってくる。
「私は、恋敵を無くそうと、演じている男を利用して彼女に言い寄りました……もし心を奪えても、応えられない女でありながら………自分可愛さに……」
「まぁ、たいしたもんですよその子。 お嬢様が堕としに掛かっても堕ちないとはね」
アンティーク調の椅子に跨って座るお行儀の悪い使用人は、惚けた顔で “その子” を称えている。
「新さんを取られたくないからって、自分が醜くなっては選ばれる筈がない……」
後悔と絶望を滲ませる夕弦。
沙也香は大きな溜息を吐いた後、楽観的な声で話し出した。
「そんなに心配することないんじゃないですかぁ?」
「………どういう、ことですか?」
希望を持たせる言葉に、身を起こして見てくる夕弦。
「だって、間宮くんはお色気ワンピを着たお嬢様にデっレデレだったじゃないですかぁ」
「そ、そんなこと……」
「そのお嬢様に好意を告げられて、他の女の子にいきます? 無いな、まず無いです」
夕弦の容姿に絶対の自信を持つ沙也香は、対抗出来るような女性は皆無だと思っているようだ。 しかし、その楽観的な意見を否定するように夕弦は瞳を伏せる。
「沙也香さんはご存じない事ですが、私の恋敵である連城みやびさんは、女の私から見ても可憐で、聡明な
「まったまた~」
「学校の男子生徒達の憧れの的で、正直私も……勝てる気がしません……。 それに、私達以外の女性に新さんが惹かれていると彼女は言っていました。 恐らく、その方も新さんのことを………」
大袈裟だと笑い飛ばす沙也香に、夕弦は弱々しい表情で言葉を紡ぐ。
「………お嬢様がそこまでおっしゃるなら信じますが、どうしてもわからない事があります」
とても嘘には見えない沈んだ顔を見て沙也香は納得したようだが、腑に落ちない部分もあるようだ。
「なんでしょう?」
首を傾げる夕弦に沙也香は言い放つ。
「
―――当然、と言えば当然の疑問だ。
悪意すら感じる強い口調で
その事は新本人が一番良くわかっているとは思うが、自分から作り出した訳ではないこの状況を非難され、どこかでくしゃみの一つでもしているかも知れない。
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