桜の魔女は黎明を告げる

萩原なお

序章


傷付いた魔女は安寧あんねいを求めてこの地に降りたちました。

しかし、この地には魔女が求めていたものはありません。あるのは目が覚めるような絶望です。自然は淘汰とうたされ、人々がえる様を見た魔女は、この地にも希望は存在しないのを知りました。


この地を去ろうとした魔女は、一人の青年と出会います。

心優しい青年は魔女の傷を癒すため、食を与え、家に住まわせてくれました。貧しいはずなのに己を甲斐甲斐しく世話をする青年に魔女は恋心を募らせます。はじめて受けた愛情と優しさにむくいりたい、と魔女は考えるようになりました。


しかし、自分に返せる恩はありません。長く悩んだ末に魔女はある決心をします。


それは、自分の身に宿る魔力を大地に張り巡らせ、死する大地を蘇らせるというもの。愛する青年の喜ぶ顔が見たくて魔女は魔力を解放しました。


すると、絶望は希望へと変わります。


枯れた大地は命を育み、よどんだ空は高く美しいものへと変わり、渇いた風は清らかな空気を運び、死んだはずの水は冷たく人々の喉を潤しました。

生まれ変わった大地を前に人々は喜びます。


人々が喜ぶ傍らで力尽きた魔女は眠りにつきました。

人々はすぐに魔女が目を覚ますと思っていました。

ですが、何年が経っても魔女が目覚めることはありませんでした。


魔女はこの大地を生き返らせる代わりに、永久の眠りについたのです。


悲しんだ青年は魔女が寂しくないように彼女のそばに桜の木を植えました。


魔女が暇にならないように沢山の草花を植えました。


魔女がいつ目覚めてもいいように城を建てました。



青年は王となり、魔女の目覚めをいつまでも待つことにしました。



これが魔法と自由の国、桜皇国の始まりです。




『桜皇国建国神話〝約束の大地〟 簡易版』より

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