手のひらの雑感たち
tkrt@くれ
図書館
私が人生で最も図書館に通ったのは小学生時代であった。毎日図書館に通っていた。小学校の規則として、2時間目と3時間目の間の休みは必ず校庭で遊ばなければ行けなかったが、時として図書館に隠れたものだった。もちろん、昼休みには当然のごとく図書館に行った。
当時の私は今とは比べものにならないくらい読書をしていた。休み時間には友人が私の席を訪れるとき以外は読書をしていたし、登下校も時々本を広げながらした。祖母の送迎する車の中では酔うことなく見事に読書をし、家に着いても車に残ったまま一人何時間も読書をした。そういう生活を続けているうちに、私は他の子が持っているありとあらゆる本を見て瞬時に返却場所が思い浮かぶほど、小学校の図書館に詳しくなった。実は今でも当時どこに何があったか再現することができる。
それでも、本好きはとどまるところを知らず、6年生時は図書委員長になった。図書館の本の返却は図書委員が日付の入った判子を押すことで成り立っていたため、私は今何の本が借りられ、何の本が返ってきているのかを可能な限り把握していた。また、人におすすめの本を聞かれた場合には今どの本が人気かとか、似た好みの人はどういう本をいつも借りていっているか、ということを伝えた。つまるところ、私は小さな図書館司書だったのである。
当時、自身をそう標榜していた私は実際に勤務している図書館司書の先生とも親密だった。外出を強制される2時間目の後の休みには校庭に出ず、図書館で先生と二人きりでいることもあった。一緒に新しく仕入れる本を選んだり、おすすめの本を教えてもらったりしていた。全校生徒が消えた校舎は酷く静かで、2階に位置する図書館はまるで浮いたアトリエのようだった。私と先生だけが秘密の空気を作り出す、存在しないはずの不思議な空間。一方、人々が多く訪れる昼休みの図書館は午前のそれと打って変わって賑やかだった。私はそれを見ながら、図書館の二面性を知っているのは私だけだと心の中で得意げに笑った。
図書館の本に影響された部分は多く、例えば、忍者の話にはまっては九字を覚えたり、水遁の術の方法を考えたりした。ナルニアの話を読んではどこかに異世界への入り口がないか探したり、シートン動物記を読んではウィキペディアで調べた動物たちの資料を印刷しファイリングしたりしていた。小学校当時の私は母が作ってくれたキティちゃんのかばんに大切な本達を入れていた。それを毎日登下校中ぶら下げては、自分がまだほんの小さな小学生であることを知りながら、それでいて、いつか大人になるであろうことも知りながら、ぼんやりと小学校時代を過ごしたのだった。
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