Oxidize world

@aluminium-oxide

第0話 つまらない仕事

 ああ、終わった……。


 どうしようもなく行き詰まった。俺は明日には事故にでも遭うんだろう。俺の身の潔白なんて誰も証明してやくれない、弁護士だって金を握らされたらすぐに鞍替えしやがった。

 そもそもの始まりは居合わせてはいけないタイプの現場に運悪く居合わせた事だ。

 始まるも何も居合わせただけで何もしていないが、相手にはそんなことは関係なかった。そこにあったのは死体、死体、死体の山……。

 何でこんなところで、と思った時には明らかに日の当たるところで生きてはいないような男たちに囲まれていた。あれはそう……、ヤのつく仕事をしている男たちに違いない。こんな毎日安月給で忙しなく働いているごくごく普通のサラリーマンの俺には無縁の相手だ。

 それが何故だか俺と彼らの道が交わった。迷惑な話だ。ただその場に居合わせただけで、勘違いによって、俺は殺されるのだ。この惨状を作り出した張本人として。


「……なんでも屋?」


 精魂尽き果てた目に映るのはなんでも屋“異界堂”の文字、聞いたことのない店の名だが、そういえばなんでも屋と言うものを頼ったことはなかった。

 もう誰でもいいから助けてほしかった。なんでも屋と言っても本当に何でもやってくれる訳ではないだろうが、俺を裏切ったいや……、金に目がくらんだ弁護士よりはよっぽどいいかもしれない。

 このときの俺はおかしかったと自分でも思う、追い詰められていたんだ。


「……行ってみるか、駄目元で」


 俺は歩き出した、猶予はもう迫っている。今すぐ向かおう。どうせ駄目元だ、駄目なら全財産打ち込んでなんでも屋に何かさせてみようか……。ああ、どうしようもなく悲観的になっている。


 このときの俺は本当におかしかった。だからその店に足を踏み入れたとき俺は後悔した。絶望した。


「ここ……、か?」


 なんでも屋と言うより、メルヘンな世界から迷い込んだのではないか、という程の石やレンガでできた家だ。古い西洋の建築物が唐突に現代建築あふれる街の中に現れた。何故だか気持ち悪くなる程にそこだけ別世界なのだ。正しく“異界”……、“異界堂”だ。


「……入るか」


 ここで止まっていても仕方がない、この西洋の文化の博物館なのではないか、と疑いたくなる建物が紛れもなく目的地“異界堂”だから。


「いらっしゃい!」

「いらっしゃいませ……」


 二人の子供だ、親の手伝いだろうか……?

 そんな淡い期待は二人の子供によって容易く打ち砕かれた。心の何処かではもう分かっていたのかもしれないが……。


維桜いおう……、今日、は、仕事、まだある?」

「ないよりん

「ん、そっか……」

「え?なんで!そのおじさんの依頼受けるから確認したんじゃないの!?」

「別に……?」


 急にコントでも始まったか……、分からないがもう駄目な気がしてきた。

 橋詰藍太朗、享年三十七歳……。


「おじさん!依頼は?何か困ってここに来た、そうだろ?」


 だが、この出会いが俺の人生を大きく変えることになった。今日明日が人生の終着になるはずだった俺が、ここに来てこの“異界堂”と関わり、自他共に認められていく、そんな物語が……。


「違う、ね……」

「違うだろ」

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