ぬりつぶし

エッセイ

寿命


小説サイトを読んでいて、電車を降り損ねた。


こんなことがたまにある。のめり込むように文章を読むから、アナウンスも電車の速度が緩むのも気付かないんだろう。馬鹿だなあ、と思いつつ、苛々しても仕方ないから取り敢えずケータイをしまった。


文章を読んでいる時は、時間が経つのが早すぎる。長い電車の乗車時間も一瞬で使い切る。いつもこれくらい早ければいいのに。


と、考えて思った。


文章ばっかり読んでいれば、早く死ねるんじゃねぇか?


別に死にたい訳じゃないんだ。でも、何となく昔に細々と編み上げた希死念慮がまだ浄化されきってない感じがしていて、気分が沈むとつい、早く死にたいと口遊んでしまう。何となく、死を到達点にしていた自分が忘れられないのだ。


思えば文章を書き始めたのだって、表向きの上手い理由なんていくらでも思いつくが、結局、あまりにも空っぽな時間を埋めるために始めたものではないだろうか。

やるべきことから逃げて、逃げて、文章の中に逃げ込んで。


いや、文章だけじゃない。よく考えれば私は、自分に向き合う時間を極力避けようといつも必死じゃないか。仕事も、人間関係も、ネットも、運動も、創作も、会話も、全部、全部、全部。ほら、逃げてばっかりじゃないのか?この死にたがりめ。自分自身をちゃんと見ろ。


と、ここまで書いて、自分で自分の落とし穴を作っていることに気付く。こんな文章、創作の場に投稿したら、逃げられなくなるのは自分じゃないか。せっかく逃げて来たのに。


だからこそ、結局残さないといけないという気になって、私は投稿するんだろうな。このよくわからない文章。


今、この文章で、私の寿命はどれだけ縮んでしまっただろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る