夜空に佇む月は、太陽のような君に恋した。
グレースバーク・ヘンドリック
第1話 夏の到来
うだるような暑さが続くと、嫌でも夏の到来を感じてしまう。
僕は仕事柄部屋に篭もりがちで、出不精。
仮に出ても最低限の用事で終わる。
例えば辺境伯への挨拶や城外調査がほとんどだ。
そもそもあまり人と関わるのが苦手で、なにより一人で篭って作業するのが性に合っている、
ただ、どうしても夏の暑さには慣れない。
というかここエクセンハルトの夏の暑さが僕にとっては死活問題だ。
暑すぎる。
正直今は政務をやる気力が起きない。
午前中に辺境伯から碑文が書かれた石版の解読を依頼されたが、それも今は机の上に置きっぱなしにされたままで、部屋の肥やしと化した。
僕は暑さから逃れようと右頬をそれに当てて少しでも涼しさを感じようとする。
「少しだけ冷たい。はぁ....早く秋にならんかなぁ〜。」
首都シュテルンブルクの魔術学校を卒業してここに着任して早5年は経った。
兼ねてより宮廷魔術師として働くことを考え、今までやってきたが、いくら魔術を身につけたところでどうにもならないことがあることが分かる。
とりわけ体力の無さには自信がある。いや、誇るものではないけど、だからこそ、この職をめざしたのだが、そんな不純な動機は口が裂けても辺境伯には言えない。
「どっかに体力が騎士みたいに付くような魔術書、ないのかな〜?」
そんなありもしない幻想に縋りつきながら、しばしばの現実逃避。
僕は趣味の読書の世界へのめり込む為、重い腰を上げて、本棚へ向かう。
「そういえばこれ、もうそろそろで読み終わってしまうな。面白いから続き読みたいけど、本屋に行くのはちょっとなぁ.....。」
沢山の蔵書が所狭しと収納されている本棚の前で考えていると。
--コン、コン、コン、
不意にドアがノックされた。
それと同時に時計を見る。
針は丁度3時を指していた。
「もうそんな時間か。」
--コン、コン、コン、
またノックされた。
「ベン様?いらっしゃらないのですか?」
まだあどけなさが残る声が僕を呼ぶ。
「あー、ごめん、ごめん、居るから。勝手に入ってきていいよ。」
「もう!居るなら早く返事して下さいって言ってるじゃないですか!じゃあ、入りますね!」
そう言うと少し不機嫌気味の茶髪の少女がポットとクッキーが並んだ皿を台車に乗せて入ってきた。
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