最終防衛線


 情勢は悪化の一途をたどっているようです。

 イスラエル南部軍の主力が展開する防衛線が崩壊、大虐殺が起こったようです。

 続いて民間防衛軍が死守する第二防衛線も崩壊、ここでもジュノサイド。

 最終防衛線をしいて、最後の部隊が抵抗を始めたところに、『US―3不死鳥』が到着したのです。


「荷電粒子砲、敵の中心部に向かって発射!前後のビーム砲、最終防衛線に近づく敵を掃討せよ!」

 

 敵陣にクレーターが出来たようで、とりあえず敵の戦意はなえたようです。

 一旦退却を始めました。


「エイラート防衛の最高司令官、こちらはナーキッド派遣先遣隊指揮官、着陸許可を願う」

「許可する、どこでも着陸できるところへ」


 US―3不死鳥はホバリング、ナオミは一人でエイラート最終防衛陣地に降り立ったのです。


「お待ちしておりました、私はエスティ・ラファエロです」

「ミトリ・ハゲルです」

「状況は?」


「もう戦力は、ここにいる第33独立軽歩兵大隊だけです、といっても、部隊の男性兵士は第二防衛線の戦闘指揮官として全員戦死、七十五パーセントの戦力です」


「噂のカラカル大隊――第33独立軽歩兵大隊の別称、女性兵士の直接戦闘への参加機会を減少させる目的で組織され、集中的に配属されているらしい――ですか、もう女性兵士しか残っていない?」


「はい、私たちは最終防衛線の指揮官として、市民を率いて戦うために残されました」

「明日早朝には輸送船がやってきます、五千名収容ですが、詰めれば五倍は運べるとのことです」


「たしかこの町は五万名ぐらい、二回で運べます」

「とりあえずナーキッドのデヴォン島へ運びます、それまでの辛抱です」

「海軍はどうなっていますか?」


「もうガンボートも、ほとんど燃料弾薬がありません、明日一日で動かなくなるでしょう」

「沖にはサービア教徒のダウ船で、埋もれているようです」


「到着次第、すぐに市民を避難させてください」

「市民といわれても、本来のエイラートの住民はいません、とうに避難していました」

「イスラエル南部軍は、各地の生き残りの女性を守りながら、ここまで後退してきたのです」


 聞けばサービア教徒は、各地で四十以下の女性を奴隷として残し、残りを皆殺しにしており、南部軍はその女性たちを解放しながらエイラートまで撤退、ここに立てこもって、海からの救出を待っていたのでした。

 全員で二万六千名弱、とにかく一回で運ぶことにしました。


「あの飛行艇は帰ったのですか?」

「あれは撤退まで哨戒飛行をします、ビーム砲は全自動で、オートパイロットで飛んでいます」

「太陽光受電装置を搭載していますので、燃料不足の心配はありません、この防衛線を監視しています」

 

 ミトリの返事で、安堵した顔になったエスティ・ラファエロ、少佐だそうです。

「撤退の手順の話をしましょう」


 宇宙船は港の上空で、浮遊することになりました。

 タラップをおろし、市民を収容する。

 その間、軍は時間稼ぎをする。


 市民が収容されたら、まず海軍が撤退、その間に陸軍は徐々に後退、飛行艇は海軍の代わりに海を哨戒、最後はタラップを守るように撤収し、最後の最後は飛行艇がこれを守る。


 翌日、昼前に空を覆うような宇宙船がやってきました。

 集まっていた市民の近くに、タラップが下ります。

「皆さん、順番に乗ってください!」


 叫んでいる女がいますが、よく見るとナオミさん。

 さらに隣にはミコさんが……

「皆さん、順番に乗ってください!」

 なんて、云っていました。 


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