18話:俺の女神

「――ラヴクラフティ……ラヴクラフティ…………知らん!」


 知らへんのかーい!


 そりゃ~あたしは神位かむい序二段じょにだんに昇進したばかりの新米しんまい女神だし、攻略した世界はナグルマンティ一つだし、つかさど属性ぞくせいの一つもない底辺てーへん女神。

 でもさ~?

 宇宙おおぞら女神名鑑めいかんにも端然ちゃん掲載けいさいされてる女神だよ! 女神養成員ようせいいんも女神なの!

 あたしってこう見えて、究極女神拳フェイタリティ正統せいとう伝承者でんしょうしゃだし、女王音盤クイーンレコード所属の偶像集団アイドルグループ女神かみジーベン”の一員メンバーだし、全力ぜんりょくがけにも出演た事あるし、読者モデルだし、二次元闖入者コスプレイヤーだし、そこそこ踊れるし、そこそこ歌えるし、ちょっとした声真似できるし、赤丸あかまる急上昇きゅうじょうしょうちゅうだと思うんだけどな~?

 どーして知らないの? なーんで知らないの?

 まったくさ~? これだから、辺境どいなかの異世界は嫌いなのよ!


「知らなくて当然だ」

「当然?」

「ああ――」

何故なぜ? その理由わけは?」

「――ラヴクラフティはまだ、の女神」

、の?」

「ああ、――だが、やがて、の女神にもなる」

、の? ふふっ――どうやって証明しょうめいするつもりだ? そんな聞いた事もない、超無名どマイナーな者を?」

「俺の存在が、その証明」

「ふっ、だから、どうやって証明するんだ、女神だと?」

「俺が信じる女が、女神でない理由わけがない」


 ええーっ!?

 やっべ! やっぱ、風雅ふうが、ちょ~恰好かっけぇー!

 まぁ? 正真正銘しょうしんしょうめい本物ガチの女神なんですけどね、あたし?

 このさい出娑張しゃしゃるのはめて、風雅にまかせちゃお!


「ふふっ、いいねぇ~、悪くない。悪くないよ、あんた……個人的には俺、そー云うの、嫌いじゃ~ない」

「――では、紹介してもらおうか。客家ハッカ・靈懺泊エインヘリアル、とやらを」

「気が早いな、あんた? 嫌いじゃぁない、ってのは俺個人の感想。仲間達を納得させるには、それなりの証明が必要だ。分かるだろ?」

「――どうすればいい?」

「そーだな~、一匹いっぴきでも倒してきて貰おうか」

魔術師まじゅつしり、か。造作無ぞうさない」

「ふふっ、魔術師じゃ~ない、、だ」


 魔術師と魔法遣まほうつかい、なにが違うのよ?

 魔術師と魔道士まどうしが違うのは、あたしでも知ってる。

 異世界ごと若干じゃっかんの違いはあるものの、魔術師は広義こうぎ自称じしょう、魔道士は狭義きょうぎ公称こうしょうの、どちらも魔術の玄人プロ

 例えば、魔術師の場合、精霊せいれい使いや呪術師じゅじゅつし妖術師ようじゅつしほか僧侶そうりょ陰陽師おんみょうじなども含む、魔術体系たいけいが異なる多岐たきわた術者じゅつしゃ全般ぜんぱんを指し、その専門家や生業なりわいにしている者をいう。

 逆に魔道士の場合、国や地域、その世界において支配的な特定の魔術体系をおさめた者を指し、資格や階級他、特定の社会において深いむすきがある場合が想定そうていされる。

 これとは別に、魔術は外的因子がいてきいんしの知識や技術の集大成しゅうたいせい的意味合いがあり、魔道は内的ないてき因子の深奥しんおう境地きょうちへの研鑽けんさん的意味合いがある。

 この矛盾むじゅんしたかたなお、術者として存在しるのが魔術師と魔道士であり、普遍的ふへんてきまでえないけど、大方おおかたどの世界であっても共通認識たりる。


 以前、風雅が言魂ことだまを使った時、魔術師/魔道士かいなたずねた事がある。

 風雅が魔術を否定する理由として、異世界毎に存在し得る各々おのおのの魔術体系に依存いそんし、その効果が区々まちまちとなってしまうため危殆あやふやと云っていた。

 これは事実で、特定世界に結び付いた魔術や魔道は、別世界において類似るいじする、あるいは近似きんじな固有の魔術体系に置きわってしまう。

 だから風雅は、世界に依存しない、つまり、風雅個人に由来ゆらいする力“権能フィーバー”を使った。

 これは魔術や魔道というより、あたし達、神々の力に似ている。

 もっとも、神々の力も常に一定というわけではなく、異世界毎に馴染なじんで変化するし、近しい効果に置き換わる。

 まあ、抑々そもそも、風雅の云う“権能けんのう”ってのを今一つ、あたしが理解してないんだけど。


「――魔術師と魔法遣い……違いは?」

「ふふっ、いいねぇ~、その質問。じつに、召喚勇者ブレイヴらしい、余所者よそものならではの質問だ」

初々ういういしさ、それも俺の魅力だ」

「……ふっ、面白い男だな、あんた? まぁ、いい。違い、だったな」

「そうだ。具体的に、、違う?」

「魔術師は、魔法ワード以外の魔術を使う者。魔法遣いは、魔法も使う術士じゅつし

「――魔法、とは?」

「“魔王法典コデックス・ヰヱス”の実践じっせん。その信奉者しんぽうしゃ達。すなわち、敵鬼てき、だ」


 魔王法典まおうほうてん

 魔導書まどうしょたぐい? それとも、その名の通り、魔王統治下とうちかにおける法規ほうき

 どちらにしても魔法遣いってのが魔王の配下ってのは分かった。だったら、倒すしかないよね!


 あっ! そう云えば、あの名無しの魔族、魔法を使っていた!

 権能けんのうみたいな底知そこしれない力だったから迂濶うっかりしてた。

 もしかして――

 ――魔法遣いって、魔族の事じゃ……


「魔法遣いとは、魔族を指すか?」

するどいねぇ~? 確かに、全ての魔族は魔法遣いだ。だが、全ての魔法遣いが魔族とは限らん」

ほど。つまり、敵鬼とは、魔族だけではない、という事だな?」

「ご名答めいとう


 流石さすが、風雅!

 あたしが知りたい事を難無すんなりと聞いてくれた。


「――で、その魔法遣いとやらはどこにいる?」

「どこにだっているさ」

「どういう意味だ?」

「魔法遣いは、官人胥吏かんじんしょり、だ」

役人共やくにんども、というわけか。それなら、どこにでもいそうだな」

「ふふっ、そうだろ?」


 分かってはいた。

 蝕魔界ケイオスダムドは魔王に支配された世界。

 当然、支配層しはいそうは魔王のいきが掛かった連中れんちゅう。その統治をにな官吏かんり達は魔王の臣下しんかに決まっている。

 維新いしんだの革命かくめいだの、みょうな言い回しをする男だな~って思ってたけど、それがこの世界シャクンタラカーカでの常識。

 魔王の脅威きょういから世界を守るんじゃなく、魔王の支配から世界をうばうってのが正しい。

 魔王側に視点を向ければ、侵略者しんりゃくしゃまさにあたし達のほうなんだ!

 これは――厄介やっかい


さて、ある程度状況も分かったろ? そこであらためておう。役人殺しをしてまで、犯罪者になってまで客家ハッカ・靈懺泊エインヘリアルに興味があるかい?」

「ない!」

「――……」

「俺が興味あるのは、魔王に対抗たいこうるかいなか。俺にとって必要か否か、それだけ。君らにためされるまでも、たのまれる迄もなく、魔王の臣下は皆殺みなごろす」

「――ふふっ、あんた、かすねぇ~?」

「云ったろ。の女神ラヴクラフティはやがて、の女神になる女。その俺の女神がこの世界を救えと云っている。それが“答え”だ」


 ええー!!

 風雅って、そんなにあたしの事、買ってくれてたのぉ!

 マジかっけ~、風雅!

 やっぱ、しゅき!


「ふふっ、けるねぇ~、あんた。全く、妬けるよ。そんだけおもえる女がいるって事にさ。

 いいだろう――二週間、だ。二週間後、此処ここで待っている。魔法遣いの首を持ってな。役人でも三下さんしたでも何でもいい。魔法遣いであれば誰であろうと認めてやんよ」

「いいのか?」

「……なにがだ?」

「二週間なんて悠長ゆうちょうな事を云って?」

「ふっ、悠長と云う程、長くもないぞ?」

「そうか? 二週間もあったら、魔王をたおしてしまっているかも知れんぞ?」

「!? ――ふっ、ふふっ、ふはっ、ふははははっ! いいねぇ~、いいよ、あんた! なら、一週間……いや、三日、だ! 三日後、此処に首を持って来い! そしたら俺があんたを証明してやんよ! 本物、だと」

「それでいい。ザッツ・オール!」


 ちょ、ちょっ、ちょっとぉ~!?

 風雅ってば、めプ過ぎるよぉー! ビッグマウス過ぎんよー!

 なんでこの人、あおっちゃうのよー!!

 な~んにも知らない土地で魔王の臣下一人を倒すのなんて二週間だって短いのに、三日って!

 ――あたし、知らないよぉ~……もぅ。

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出会い系異世界、転生して4秒で勇者爆誕! 武論斗 @marianoel

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