恋子の恋☆(あの日からずっと)

遠野 彬

第1話 吹雪を避けて

秀一と恋子は、

高校のテニス部の北海道地区協議会のセッションに参加する為に、

部長とマネージャーという立場で札幌に来ていた。



札幌は、ちょうど「雪まつり」の時期で、

「恋ちゃん、帰りに 雪まつり 覗いて行こうよ。」

と秀一と話していた。



セッションが終わり、二人は「雪まつり」を堪能し、秀一が

「恋ちゃん、もうこんな時間だ。駅に向かわなきゃ!」

と、そう言って二人は歩き始めた。



北海道のブリザード(吹雪)は突然 酷くなる事も珍しくない。二人の視界がブリザードで急に閉ざされ、街中なのに どちらが駅に向かう道なのか見失うような降り方になった。



「ヤバイな!」

秀一は、遭難を逃れて、店の看板の灯りを頼りに、一件の店に飛び込んだ。少し雪が小降りになるのを待たせてもらうつもりだった。



「すみません、・・・」

秀一が大人びて見えたのか、店の女将らしき人は、

「あれまあ、とんだ雪になっちまいましたねえ。」

と、要領を得た挨拶をした。



「さあ、風呂も沸いてますし、少し休憩されたら、雪も上がっちまいますよ。」



秀一も恋子も、こういう処は 初めてで、

そこがカップルの休憩宿だと理解したのは、

交代でお風呂の湯を使った後だった。



わざわざ用意してある浴衣に手を通して「ちょっと恥ずかしいね。」と修学旅行気分になっていた。



せっかくだから・・・と別々に敷いていた布団にも寝てみた。


秀一は布団に入りながら、

「恋子☆・・」と言った。


恋子は掛け布団で顔を少し隠しながら、

恥ずかしさを秀一に悟られないようにしている。



秀一は、

《こういう時は、男のほうから女性の布団に

入っていくのだろうか?》

と高校生らしからぬ事を考えていた。



しかし、ブリザードで飛び込んだ店が、たまたま休憩宿で、女将の思い込みで こうなってしまった事が可笑しく思えた。



恋子のほうは、1年間想い続けてきた部の先輩の秀一と、こうなった事に 戸惑いと幸せを感じていた。



『恋ちゃん、おいで☆・・・』

その一言を言われたら・・・


恋子の胸は高鳴るばかりだった。

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