第8話 死者の森
ズッ…ズッ…
剣を引きずりながら聖剣士だった者、魔剣士だった者が近ずいてくる。
「凄い数だな…紫淵、この中に堕天士は居るか?」
俺は刀を構えながら周りを見渡す。
(微かに気配は有るのですが、この中にはいませんね。)
「そうか。なら全部斬り捨てて構わないな。」
俺は刀を横一文字に構える。
「解放。二式 乱火(らんか)」
高速で刀を抜き放つと鉄鞘と刀身に火花が散る。
散った火花は敵の近くまで舞うと火の勢いが増す。
そのまま無数の相手を一気に焼き尽くした。
オルムの周りには剣士だった者達の肉の焼ける臭いがした。
「こいつらは何なんだろう。この瘴気に当てられてアンデッド化したのか?でも、この森は戦以前から死者の森と呼ばれていたし…。」
俺は刀を鞘にしまうと死者達を見る。
(恐らくはこの森の主。堕天士の妖術かと思います。妖術の中には魔剣や聖剣の意思に身体を与える妖術があるのでその依代に死者の身体を使ったのではないかと。)
紫淵は状況を見極めながら妖術について話してくれた。
「剣の意思?お前みたく具現化でいいんじゃないのか?わざわざ依代を使わなくても…。」
(主よ。普通の魔剣士や聖剣士は剣と対話など出来ません。)
「そうなのか?」
(はい。ですが、剣にも意思はあります。召喚される際には、剣が主を選ぶのです。己が刃長の合う持ち主を選ぶのです。)
なるほどなあと理解している風を装いながらもきっと理解していないオルムに紫淵は溜め息をつく。
(きっとこの妖術は剣の意思を身体に憑依させ、堕天士の力で兵とし操る事のできる術でしょう。堕天士はあらゆる刀剣を使役出来ますから。)
「て事は、相手の刀剣も奪えるのか?」
そうなら紫淵も…。
(いいえ。使役できるのは所有者の居ない刀剣だけです。銘のある名剣は所有者と契約を交わします。自分の銘を相手に伝えるのです。言葉ではなく意思で。)
「だから審判の時に銘を聞かれたのか。」
(それも有りますし、審判員達は村正の存在を恐れて居ますから。自分達が造り上げた世界を壊される可能性を。)
「…堕天の王か。」
舞う死者の灰の中で紫淵と話していると
「おや?こんな森の中に人が居るとは。」
木の影から人影が近ずいてくる。
「誰だ!?」
刀を構え、人影に向かい殺気を放つ。
「凄い殺気だね。僕はヴァナル=フェンリ。聖剣国ミカエラの騎士団長を勤めている者だ。戦の後、この森の中にアンデッドが発生するって報告を受けて調査に来たんだ。で、君は?」
ヴァナルと名乗る男はフルプレートの白い鎧を纏い、腰には鞭と刀を提げていた。
(刀…聖剣国の堕天士か…。)
「俺はオルム=ミドガルズ。旅の剣士だ。自身の力を磨く為旅をしている。この森で迷って居たら、さっきアンデッドに襲われたから排除した所だ。」
刀から手を離し警戒しながらも話しを進める。
「なるほど。さきほどの力の波動は君か!かなりの力を持っているみたいだね。どうだい?この森の調査の間だけでも僕に雇われないか?王の勅命で秘密裏に調査に単騎で来たから人手が足りなくてね。」
ヴァナルはやれやれと言う感じにおどけて見せる。
「悪いが、旅の途中なんだ。それに、誰かに仕えるのは柄じゃないんだ。」
(こいつに関わるとまずい気がする。俺の殺気を簡単に流した。それに、こいつの刀から今にも俺に斬りかかりそうな嫌な気配がする。)
「そうか。残念だ。では、僕は調査に戻るよ。オルム君、また会おう。」
そう言うとヴァナルは手をヒラヒラと翻しながら森の奥へと歩いて行った。
「あいつ、そうとう強いな…。聖剣国ミカエラ騎士団長ヴァナル=フェンリか。あんな奴らが各王国に居るのか…。」
俺は自分の手が汗ばむのが解った。
「世界は遠いな…。」
俺はヴァナルが消えた方を見つめた。
(……………)
紫淵は何も言わず沈黙していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます