第23話蛇の弥五郎17
七右衛門は文と祖父の善兵衛にも相談した。
事ここに至っては、文の事を善兵衛に黙っていられなかった。
善兵衛を通じて、父の徳太郎や叔父達、兄達にも伝えてもらいたかった。
真実を知れば、善兵衛に何かあっても父達が驕り高ぶることがないと考えたのだ。
七右衛門は家族想いだった。
善兵衛も神使の件を察していた。
だからあまり驚かずに話を聞いてくれた。
と言うか、樋口市之丞姿の文を見た時点で、全てを理解していた。
七右衛門が不安に思っている幕閣の方針も理解していた。
だから善兵衛は今後の方針も含めて、全てを記した文を一族一門全てに送った。
善兵衛の策は、火付け盗賊改め方にも孫を送り込むと言うものだった。
前回の冤罪事件では、与力が召し放ちになっている。
その代わりの与力家を、無役の御家人を送り込むのではなく、七右衛門の従弟を一代抱席与力として召し抱えさせ、就任直後に七右衛門の手先によって手柄を立てさせる。
火付け盗賊に汚名を返上させて、幕府の威信を取り戻すと言うものだった。
「肥前守。
なかなかよい策に思うが、手柄は一度限りなのか?」
老中は肥前守に聞いているように見せかけて、本当は命令をしていた。
老中の願いは、火付け盗賊改め方に定期的に手柄を立てさせることだった。
だが肥前守にも町奉行として欲があった。
自分の配下が立てるはずの手柄を、全て他人に渡すのは納得できなかった。
「全ての手柄を火付け盗賊改め方に渡せと申されますか?
そんな事になれば、町奉行所は火付け盗賊改め方の後塵を拝する事になります。
それは幾らなんでも納得しかねます。
御配慮して頂きたく存じます」
「ふむ。
その方の気持ちも分かるが、手柄欲しさに同じような事をやられては困るのだ。
蛇の弥五郎を抑えるには、火付け盗賊改め方が六組必要だと申したのは其方だ。
六組に手柄を立てさせるとなると、町奉行所が上げる手柄は減るのが当然だ」
肥前守も老中の考えは理解できた。
江戸の町の事だけでなく、幕府の事を考えるのも町奉行の重要な役目だ。
だが、火付け盗賊改め方に七右衛門の縁者が与力家として入るのなら、火付け盗賊改め方を二組に戻しても大丈夫だ。。
「以前とは状況が変わりました。
七右衛門の手先は六百を超えております。
七右衛門の縁者が火付け盗賊改め方の与力になるならば、その内の三百人を火付け盗賊改め方に移籍させる事も可能でございます。
その手先を火付け盗賊改め方の同心に預ければ、火付け盗賊改め方を二組に戻す事ができます。
そうなれば、火付け盗賊改め方長官の負担も減りましょう」
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