殺し屋

アール

殺し屋

とある所に腕の立つの殺し屋と呼ばれた男がいた。


彼には目標と呼べるものは何もなく、頼まれたら誰だろうと構わずに殺していた。


仕事を失敗した事もなければ、捕まりそうになった事もなかった。


仕事だけが彼の生きがいであり、とくいでもあった。


しかしある時、彼は街で美しい女に一目惚れをした。


若く、それでいて上品な彼女を手に入れる為、彼はそれから毎日彼女の元へ通い続けた。


そして念願が叶って、2人は交際を始めた。


その際、彼は勇気を振り絞って彼女に自分の仕事について打ち明けた。


話を聞いた当初はとても動揺していた彼女であったが、すぐに落ち着いて静かにこう言った。


「……私は貴方を愛しているわ。

だからこそ今の仕事はもうやめて。

きれいさっぱり足を洗って、私と一緒に暮らしましょう……」


彼はゆっくりうなづき、そして涙を流した。


「……人殺しとしての俺ではなく、人間として俺を必要とし、そして愛してくれる女性がここにいる。

これを幸せと呼ばずにしてなんというのだろうか」


その後2人は夢のマイホームを購入し、幸せな生活をスタートさせた。


彼は今の仕事をきっぱりとやめ、工事関係の職へと転職した。


新しい生活を始めた当初は常に銃を持ち歩かないと安心できないという、変わった考え方を持つ彼に戸惑っていた彼女だったが、今はすっかりそんな奇妙な彼との生活にも慣れ始めていた。


彼も生活を始めて1年が経った今、ようやく暮らしにも慣れ、銃を持っていなくとも安心して生活が出来るようになっていた。


2人の生活は決して楽なものではなかったが、いつも笑顔で溢れていた。


彼も、今の暮らしがいつまでも続いていけばいいのにと思っていた。


そして2人はついに結婚。


新婚旅行は海に行く事が決まり、その旅行前夜。


妻の携帯電話がポケットの中で突然震え始めた。


旅行の準備に疲れ、ベッドで寝ている夫を起こすまいと妻はゆっくりと足音を立てずに寝室の外へ出ると、携帯電話の通話ボタン押した。


「はい、私です。

大丈夫、彼は仕込んでおいた睡眠薬のおかげでぐっすり寝ています。盗聴の心配はありません。

…………はい、計画は順調です。

明日の深夜、実行に移します。

…………はい、彼を始末した後、その死体は海に遺棄するという事でよろしいですね?

…………ええ、彼には私が殺し屋であるということは勘付かれてはいません。

この生活を始めて約4年、すっかり彼は私に心を許しています。

…………ええ、かつて最強の殺し屋と呼ばれた彼も幸せな結婚生活のせいですっかりとなっていますわ…………」


今の会話の中で1つの誤りがあった事に彼女まだ気づいていない。


彼女は、男の事を腑抜けと言ったがそれは違う。


彼のとしてのスキルはいまだ健在だったのだ。


その証拠に、笑顔になりながら夢中で雇い主と会話をしている彼女の背後に、足音1つ立てず彼は接近し、今の会話を全て聞いていた。


そしてである男は近くにあった硬い花瓶を静かに掴むと、通話中である殺し屋の後頭部へと振り下ろした。


目から大粒の涙をこぼしながら……………………。






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殺し屋 アール @m0120

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