わたしをさがして

竜牙

第1話 『わたし』の存在意義

暗く、狭い部屋。

部屋の片隅は濡れていた。

月は誰一人居ない部屋を照らす。

その部屋に1人、彼女が座っている。

すすり泣く声は部屋を伝い、廊下へと響いていく。


誰も気づかない。気づくはずがない。

非情な現実が彼女の心を押しつぶす。

涙の水たまりはゆっくりと広がっていく。

彼女の時間は着実に、しかしゆっくりと過ぎていく…


彼女は諦めなかった。

道行く人に声をかける。

その声は返って来ない。

手を叩き、『パンッ』という音を立てる。

「誰かいるのですか?」

『ここにいます。気づいてください』

「…気のせいか?」

足早に去ってしまう。

ああ。また。

どうして?

なんでなの?

自問自答が始まる。

時間が流れるほど頬は冷たくなる。

『辛いんだよな。悲しいんだよな?』

声が聞こえた。

『どこ?どこにいるの?』

『アンタの身体なかさ』

『私の?』

『アタシで良ければ付き合ってやるよ。安心しな。いつか報われる』

『それはいつなの?』

『分からない。だけど何となくそう思うんだ』

『……』

『独りの辛さは私もよく分かる。なにせアタシはアンタの1だからね』

別人格。

彼女の精神が作ったもう1人の彼女。

『アタシと一緒に解決法を探そうぜ?』

彼女にとって初めてだった。

『はじめて…話せたら…私以外の人と…』

『厳密に言えばアタシはアンタだけど…ちょちょっと!?泣くなよ…しょうがないなぁ。よしよし』

赤髪の彼女(別人格)が白髪の彼女(表人格)を抱く。

『うあぁ…うわああーーん!!』

もちろん現実はそんなことは無い。

ただ独り彼女が座っているだけ。

でも彼女は幸せだった。

孤独。


彼女は色んなことを試した。

それはすべて失敗に終わった。

だけど彼女は泣かない。

『彼女』がいるから。

『しっかし…なかなか見つけて貰えないねぇ』

『いいんだよ。わたしにはあなたがいる』

『な…なによ急に』

『ううん。なんでもない』


わたしはなんでここにいるの?

アタシがなんでここにいるかって?

わたしに何ができるの?

アタシに何が出来るのかって?

それは──

そりゃあ──

私の未来の為、かな。

アタシのため、だな。

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