少しの寄り道

 カラカラとカートの車輪が回り、音を立てる。

 無事、真由美から了承を得られた愛莉と葵はスーパーまで来ていた。了承を得る最中に今度は葵が愛莉の家に行くという約束を取り付けられてしまったのだが、仕方ないことだろう。


 「葵くん。今お家の冷蔵庫に何が入ってるかってわかる?」


 「あー、分からん。最近愛莉が来てくれてなかったから、あんま冷蔵庫開いてないんだよ」


 「だよねぇ……葵くん料理上手なんだから自分でも作ればいいのに」


 「そりゃあ作れるけどさ、愛莉の作ってくれる美味しいご飯に慣れちゃったからな。もう自分で作ろうとは思えないな」


 葵の言葉に愛莉は嬉しそうに顔を綻ばせる。


 「葵くんはまたそーゆーこという。でも最低限私のサポートのために、冷蔵庫の中身位は覚えててほしかったな~」


 愛莉は嬉しそうに笑いながら葵に文句を言うという器用なことをしつつ、葵の家の冷蔵庫の中身を思い出そうと記憶をたどっている。


 ここ一週間近く愛莉は葵の家に来ていなかった。恐らく生徒会の仕事が忙しくてそれどころじゃなかったのだろう。

 愛莉が来なかった一週間、葵は外食したり出来合いのものを買って家で食べたりと不摂生な生活を送っていた。


 愛莉が言っていたように葵は料理が出来ないわけではない。というよりも、上手な方だろう。しかし、愛莉の作る美味しいご飯に慣れてしまったからだろうか。家に一人だとどうしても作ろうという気がうせてしまうのだ。

 そのためこの一週間、葵は冷蔵庫の中身をじっくり見るというような機会はなかった。元々葵の家の冷蔵庫の中身の管理は殆ど愛莉に任せっきりになっている。

 葵は冷蔵庫の中身を思い出そうとするも、一向に思い出せる気がしない。

 ところが愛莉は違ったらしい。少しずつ思い出して来たのか、ゆっくりとスーパーの中を移動し始める。


 「あ、でも野菜とか痛んじゃいそうなものは食べたぞ」


 「りょうかーい」


 こんなふうに愛莉と一緒に買い物に来るのは一か月ぶりだろうか。よく夜ご飯をつくりに来てくれていた愛莉だが材料は自分で持ってくることが多かった。もちろん荷物持ちを頼まれたら断ることはしない葵だが、基本アポなしで訪問してくる愛莉と一緒に買い物という機会は多くない。


 だが、隣で楽しそうに鼻歌を歌いながら食材を物色している愛莉を見ると、これからは一緒に買い物をするのもいいなと葵は思うのだった。

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