8話 放課後デート詐欺事件
放課後、学校から離れた場所に木下を呼び出して、二人で移動すること暫し。
なんか隣で「で、デートですか!?」だの「ま、まずい! 下着が昨日と一緒だ!」なんて声が聞こえてくるが、そんなん知らん。下着くらい買えと言いたいところだが、食費も満足に払えていないならそれも難しかろうと思って我慢する。
とりあえず何かを勘違いしてる彼女を放置して歩くこと三十分。今日の目的地である郊外のビルに到着である。
このビルは見た感じは普通の5階建てのビルで、外からみたら本当に何の変哲もないビルだ。看板があったり窓に会社名とかが書かれてるわけでもない。
ちなみに現在の都市の町並みを簡単に説明すれば、基本的には古代中国とか進撃な世界みたいな感じの壁がある。高さは都市の規模によるが大体10~20メートル。
壁には巨人ではなく結界石と呼ばれる石がはめ込まれていて、魔物を寄せ付けないようになっている。
この結界石の原理については完全に国家機密なので詳しくはわからない。調べようとしただけで捕まるらしい。
そして海の方にはテトラポットが山のように積まれていて、それに結界石を混ぜ込んでるらしい。農作物や水産物に関しては主に地下で生産・養殖されており、現状では特に不足はしていない。
現在の東京は、3層の壁に囲まれている。 有って今は4層目の建設中。3層が外で10メートル、2層が真ん中で15メートル。1層が一番奥で20メートル。これだけでわかると思うが、上に行くほど選民志向が強い傾向にある。俺が知る限りでは街の中はだいたいオレが知る20世紀と大して変わらない。
メタい言い方をすれば、2人1組で傭兵業をしている連中が活躍する黒い銃弾の世界みたいな感じと言えばわかりやすいだろうか。
技術レベルとしては水のろ過だの上下水道だの農水産だの軍事だの医療だの、生活に絶対に必要な技術は発展しているが、そうでもない技術はそのままって感じ。
しかし軍事技術は殆どのモノに転用出来るから、皇居やら国会議事堂やら上級国民様の住居がある第1層の壁の中がどんな風になってるのかは不明である
まぁ、俺たちには関係ないことだ。。
一番高い建物は第一層にある塔みたいなもので、高さは大体50メートル前後。対空兵器が設置されてたり、結界の維持装置にもなってるらしい。
ちなみにあれ以上高くすると、何故か飛行系の魔物が破壊しにくるらしい。縄張り意識が強いのだろう。
俺たちが通う学校は第2層の中にある。第2層は商業区と工業区。さらに居住区が有り、研究施設やら何やらは大体ここにある。
普通にビルがあり、コンビニはないが飲食店があり、それなりに娯楽施設もある。道はそれなりに舗装されてるが、車はそんなに走ってない。ピアノも無いしバーも……学校の近くにはない。レーザーディスク? あるわけがない。治安はいい。普段からウチの学校の上級生や国防軍の軍学校の連中が見回りしているからだ。
全体的な印象としては20世紀の地方都市を昭和初期の警察がうろついてるような感じである。
現在の東京には犯罪の抑止や予防を前提とした警察のような組織はなく、犯罪に対する抑止力として警察力を兼ねた国防軍が治安維持活動を行っている。
この国防軍、ギルドとはある意味で競合してるもんだから、現場同士はともかく上は本当に仲が悪い。現場は……そうだな。狩人が酔っ払って暴れたら普通に警告なしで射殺される程度の仲だ。
つまり普通。狩人だからって目の敵にされるワケではないし、軍の人間だからって襲われるような世紀末ではない。ちなみにもっと下。つまりウチの学校と軍学校の連中はもう少し仲が良い。ウチの学校を卒業したあとで軍学校の大学部に行く奴もいるくらいだ。
なによりウチの学校が対魔物専門で、向こうがそれ以外という形の所謂住み分けができているので、決定的な衝突には至らないのだろう。
ちなみに木下の父親が死んだダンジョンアタックは魔物が関わるものの、政府主導で行われるのが常になっている。
これに関して建前上は『インフラ整備を主導するのが国だから』という理由になっているのだが、実際は開放した後の土地の開発やら何やらの利権が絡んでいるためである。
噂では、その昔ハンターがダンジョンコアに洗脳され、その土地を自分の縄張りにしてヒャッハーしたことがあったらしく、それ以来国家が管理することになったという噂もあるが……それについてはまた別の機会に語ることもあるだろう。
実際国は国でダンジョンの跡地に防壁やら上下水道の制作をしたり、道の舗装も行うから決して嘘は吐いていない。ただ公表していない情報があるだけだ。
そして外の道路だが、当然結界石の成分が含まれているそうな。
それを等間隔に設置しているのか、それとも素材そのものとして使われてるのかは分からないが、この道路のおかげで名古屋・金沢・仙台といった地方の大都市と一応の連携が取れている。
西日本は知らん。
ここまで言えば、勘の良い相手ならばこの建物が何なのか分かるだろう。
「はぁはぁはぁ……師匠、歩くの早すぎですよ……」
普通に歩いただけなのに息を上げながら上目遣いであざとく抗議してくる木下。
だが残念だったな。そのあざとさは俺には効かんぞ。
ほほう……白だな。
チラリと見えた胸元から白いモノが見えたが、昨日と同じなら色は白もだよな~と思い直し、さっさと建物の中へインする。
「ち、ちょっと待ってくださいよ!」
スタスタ歩く俺に遅れまいと声を上げたが、それは悪手だ。 狩人が目立ってどうする。
俺の内心に反応したかのように、受付の前で順番待ちしてる連中が一斉に俺たちを見る。
「うっ……」
俺の後ろで明らかにカタギじゃない連中からジロッという音が聞こえそうなくらいに凝視され、動きを止める少女(15歳JK)の図である。
気持ちはわかる。正直普通に暮らしていたらあんな厳つい連中や、怪しい格好をした連中とは接点を持たないだろうからな。
奇人変人に睨まれれば動きを止めるのは当然だろう。向こうは向こうで順番待ちとか待機してる所にギャーギャー騒ぐ子供がきたせいで少し苛ついているみたいだし。
「し、師匠。ここってもしかして……」
ところどころから殺意にも似たナニカを含む視線を感じて、俺の制服の裾をつかむ彼女も漸く気付いたようだ。
そう、ここは東京の第二層にある狩人ギルドの一つだ。
一応とはいえコイツも狩人としての資格は持っているのだから、狩人らしく『金がないなら働けばいいじゃない』の精神で連れてきたのである。
もちろんこちらを見てるのはギルドに仕事を探しに来たり、パーティーを探しにきたり、情報を探しに来てる狩人たちだ。
連中は明らかに学生な俺達がここに居ることに違和感を覚え、観察しているのだ。
殺意みたいなのについては反応を見るためだろう。これを感じ取れないならアウト、感じ取ったとしても、目に見えてビビるようならアウト。警戒するくらいでようやくセーフで、放置するくらいで問題なし。
反撃してきた場合は……反撃の度合いと内容によりけりだな。基本的にギルド内では戦闘行為は厳禁だし、過剰反応は身を亡ぼすのである。
それに彼らが発しているのは、あくまで殺意“みたいなもの”である。勘違いをして反撃しようものなら恥をかくだけだ。
なにせ実戦で鍛えられたプロが発する本物の殺意は、殺意だけでGランクの小娘を殺せるのだ。怯える程度で済んでいるのだから十分手加減されてると言ってもいいだろう。
ちなみにギルドの基本であるテンプレなアレは無い。
年齢や見た目で相手を判断するような真似はしないからだ。
そもそも初対面で正体不明なお坊ちゃんに喧嘩を売るって言うのがわからん。
中世風味の世界であれをやった場合、相手が貴族だったら死ぬんだぞ?
知らないなんて通用しない。パーティー纏めて処されるだろうに。
貴族云々はともかくとしても、お偉いさんの子供だったり、やベーやつの孫だの弟子に絡んだら死ぬし、そもそも入り口から入ってきた時点なら依頼をしに来た可能性だってあるのだ。
まさか客に絡むわけにもいかん。
だからこそ彼らは初対面の相手を深く観察するのである。
昔はテンプレを好む一部のOTAKUがギルドに対して「テンプレだぞ! 義務化しろよ!」みたいなことを言っていたようだが、最終的に誰も得しないし、イメージが悪くなるからという理由で却下されたそうな。
そりゃそうだ。
わざわざギルドの中で問題起こされても困るだろうよ。
代わりに、と言えばいいのかはわからないが、それなりにキッチリとした法整備がされたそうな。
とりあえず今の俺達に関係してるのは『Gクラスは単独で依頼を受けることが出来ない』というルールだな。厳密に言えば必ずE以上のサポート(保護者)が必要というルールだ。
恐らく木下を狙っていたギルド職員もこの制度を利用する気だったのだろう。
保護者になれば最悪本人を殺して証拠を隠滅することも出来るし。
いや、件のギルド職員については別にいいのだ。俺には関係ない。いずれ木下が地獄をみせるか、納得して諦めるかを決めるだろう。
周囲の連中は学生服の俺達(GかF)に保護者がいると思っているのか、手も口も出してこない。彼らは俺達の実力と将来性を確認しているのだ。
つまり今回の木下に関してはアレだ。入り口の視線で腰が引けた時点で評価は低くなっただろう。狩人に必要なのは見た目でも若さでもなく実力なのだから。
同時に、今のコイツをカモとしてパーティーに加えるような者はいない。
何故か? ここには怖い怖いおっさんがいるからだ。
「あぁん? ほんとぉにコォタじゃねぇか。なぁにしにきたんでぃ?」
「うひゃ!?」
声をかけてきたのは、今まさに考えていた怖いオッサンこと、五十前後で疵だらけの顔をした筋肉質のオッサンであった。なお、髪の毛はない。
「……なんか失礼なこと考えただろぉ?」
「まさか」
ただの事実だから失礼ではない。
しかしなんだ。この言い方だと、誰かに俺が来たことを聞いたみたいだが……あぁ。受付に座ってた女性が呼んだのか?
いい仕事してますねぇ。
「うひゃ!?」
オッサンの登場と同時に、ざわ……ざわ……する周囲の連中はまぁいいとして、そこの女子高生よ。「うひゃ!?」ってなんだ「うひゃ!?」って。
そう思って振り向けば、声を上げた張本人は俺にすがりついてきた。
「ひぃ! い、いつの間にっ!?」
「いやいや、おめぇさん。ココで俺を不審者扱いするとはいい度胸してるねぇ」
「ひ、ひぃ!」
オッサンは苦笑いと共に微妙な怒気を発してくるが、それは筋違いというものだ。
「別に彼女のリアクションは間違っていないでしょう?」
「あぁん?」
彼女にしてみたらいきなり不審なオッサンが目の前に現れたんだ、そりゃ怖いしビビるだろう。
俺でも殴るかもしれんし。
お巡りさんコイツです。いや、ある意味こいつのオッサンがお巡りさんだけど。
「……はぁ」
完全に自分を見て怯える少女を一瞥して、何とも言えない顔をして溜め息を吐いて頭をかくオッサンの図が完成していた。
実にカオスな状態だが、何を隠そうこのオッサンこそが、今日俺がここを訪れた理由を持つ相手であり、現在日本に10人も居ない現役のAランク狩人にして、ここの支部長でもあるお偉いさんなのだ。
……ちなみにこのオッサン。この見た目と声のせいか、家に帰るたびに幼い娘さんが泣きまくるそうで、そのことが軽くトラウマになってるのは公然の秘密である。
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