一度崩壊した世界で中身オッサンの少年は自由に生きたい

仏ょも

1話  プロローグ的な何か①

「なにが、どうなっているんだ?」


あ……ありのまま今認識したことを話すぜ!


俺は間違いなく平成二十一年を生きる三〇代前半のサラリーマンだった。


その日も仕事を終えて帰宅し、コンビニで買った弁当を食ってから歯を磨いて布団に入って寝たんだ。そう、いつものように寝たはずだった。


だが朝起きたら子供になっていて、さらには見たこともない、何なら地獄染みた場所だった。


な、何を言ってるのかわからねぇと思うが、俺も何をされたかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった……。


異世界転移だとか神様転生だとか、そんなチャチなモノじゃ断じてねぇ! もっと恐ろしいモノの片鱗を味わっているぜ!


とまぁ一通りポルポルしたわけなんだが、実際問題、現状が良くわからんのですよ。神様に遭遇して土下座された覚えはないし、なんかチートとかもらった覚えもない。


トラックに轢かれたとか、サメに食われたとか、地震で家が倒壊したとか、竜巻の中からサメが降ってきたとかそういったことは無かった……はず。


酒も飲まないし、タバコも吸わない。自分で料理もしないから火事って線も薄い。

それなのに起きたら三歳児くらい。


……どういうことなの?


あぁ、ちなみに地獄染みた場所ってのは、まぁアレだ。周囲の環境が、ね? 

現在俺は家の中にいるみたいなんだが、部屋の内装は、多少古いが日本っぽい場所だった。もちろんこれだけで地獄がどうこうってわけじゃない。


問題は家の外。


なんか動物が鳴いて、否、哭いているのだ。

それも犬とかカエルではなく……もっと別なモノが。


「「「ゲギャギャギャ!」」」


たくさんいる緑色の小鬼っぽいモノや。


「グラァァァァァ!」


大きめの赤い鬼っぽい、明らかにヒトじゃないのが哭いてるのだ。


さらに言えば、彼らを哭かせてるヒトが居るわけでして……。


「あぁ五月蝿いわねぇ! 折角寝たのにコーくんが起きるじゃない!」


と叫びながら機械なんだか兵器なんだかを装備してナニカと戦う女の人や。


「しかし、ナンデこんなところにこんな大量の小物がいるんだ? 結界石はどうなった?」


と呟きながら、少し離れたところで銃みたいなナニカを撃つ強面の男の人がいるのだ。


多少の距離があるのはコーくんとやらが起きないようにするためか、それとも他に何か理由があるのかは知らないけど。


とにかく今はどう見ても戦闘中です。ありがとうございました。


何もない空間に急にぺこりと頭を下げる推定三歳児。うん、SAN値がピンチだ。


とりあえず現状は大量の小鬼が居て、ソレを駆逐する女の人が居て、銃を撃つ男の人が居て、結界石がどうとか言ってる。


この時点でここが俺の知ってる日本ではないことは確定的に明らかだ。


そのうえこの体だろう? なんだかなぁ。


ちなみに俺の中のソウルは、この女性と男性を両親と認識している。うーむ。コレはアレだろうか? 憑依転生ってヤツ。


それとも3歳とかなったら前世の記憶が目覚めるタイプ?


それにしては前世の記憶があやふやなんだよなぁ。


……それなりにそういう小説を読んでいた俺はそう推察するが、如何せん情報が少なすぎる。すぐに情報収集といきたいが、落ち着いて会話ができるような状況でもない。


なにせ戦闘中だ。しかも向こうは小物みたいだけど数が多い。


下手に騒いで戦闘の邪魔をしたら隙を突かれる可能性もある。だから、近寄るのも遠慮するべきだと思う。ん~しかし、三つ子の魂百までっていうけど、普通は三歳児って記憶とかハッキリしてないよな?


なにせ「三歳の時を覚えていらっしゃる?」って大尉が驚いて聞き返すくらいだもん。


なんとなくは覚えているんだろうけど、ここまでしっかりと事態を理解しているなんてことはないはずだ。なにせ物事を理解するには現状を把握して認識し、理解できるだけの知識が必要だからな。


しかしそれにしては記憶があやふやなんだよなぁ。


言語やら何やらは理解できるけど自分の名前やら何やらがさっぱり思い出せない。


5×5=25。11×11=121


素数は2・3・5・7・11・13・17・19


√2は1.41421356《ひとよひとよにひとみごろ》。


794《なくよ》ウグイス平安京


江戸城を作ったのは誰だ? 大工。


うん。算数も、素数も歴史もネタもわかる。

小説やゲームの知識も何故かある。

だけど自分の名前や仕事の内容がごっそり無い。


エピソード記憶って言うのが無いのかね?なんとも都合の良い記憶障害だが、まぁ無駄にリアルに前世(推定)のことを覚えていてもアレだしな。


とりあえず。


「グギャ!」


なんかこっそりコッチに近付いてた小鬼=サンに対処しようじゃないか。


どうやら俺を餌と認定したようだが。小鬼一匹ではなぁ。

……ふっ3歳児の肺活量をなめるなよ!


「おとぉさーーーーん!」


3歳にもなれば叫んで走って逃げれるんだよぉ!!


邪魔しちゃダメ?危険かも?

SHI☆RU☆KA!


「ッ!」


俺の声を聞いた推定父は即座に俺の方を振り返り、俺を襲おうとした小鬼を一撃で撃ち殺した。


微妙に返り血が着いたけど、まぁシカタナイネ! でもって俺が襲われたことを知った母さんがブチ切れて、周囲の全てを破壊するかのような大暴れを……いやここは正直に話そう。


「この雑魚どもが! ウチの子になにしてくれてんのよぉぉぉぉ!」


母さんは周囲の全てを破壊した。


後から聞いた話だと、ここは元々が廃村みたいな感じで、俺たちはたまたまキャンプをしていただけらしい。 なのでどれだけ破壊しても問題にはならないと知っていたからヤッたらしいけど、この人はそういうの関係なく殺る気がする。


いや、今の問題は、廃村の破壊状況じゃない。戦闘が一段落したところで俺が大事な話が有ると言って二人を座らせ、その前に立った。


そこで俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


(なんて言って説明すれば?)


普通に考えたら、当たり前に小鬼みたいなモンスターが居る世界だ。


そこでこんな子供が「前世の記憶がある」とか言ったら「不気味だ」って理由で捨てられたりしないだろうか?


もしくは化物に体を乗っ取られたって勘違いされて殺されたりしないだろうか?


正直に言えば怖い。


だけど、隠し通せるのか?

絶対にそんなことはない。


親は子供が思う以上に子を見るものだ。


下手に隠したら、バレたときに言い訳すら聞かずに殺される可能性だって有る。それに、そもそも俺には三歳児の演技が出来る自信がない。


ならばさっさと打ち明けて、殺されるならせめて痛くないようにってお願いするしかない。


何せ右も左もわからない異世界だ。

この人たちの庇護が無ければ即座に死ぬ。

タヒではなく死ぬ。そう確信している。


「コーくん? なんかウンウン唸ってるけど大丈夫? さっきのゴブリンにナニかされた?」


心底心配そうに俺を見る女性。まぁ母親だけど、名前がわからないから何て呼ぶべきか悩むんだよな。


この体の主はお母さんとしかしらないし。

まぁ子供なんてそんなもんかもしれないが。


とりあえず母さんとしよう。


母さんはまだ若く、見た目二十代前半くらいで髪は肩位まで有るのを後ろで纏めている。気が強そうな感じがする茶髪美人さんだ。


気が弱い人があんな生き物と戦闘は出来ない? 気にするな。ヤンキーって感じじゃないから地毛だと思うけど、その辺は大した問題じゃない。


「確かに、あんな近くまでゴブリンが来たんだ。相当怖い思いをさせたんだろう。……すまねぇな」


痛ましいモノを見るような目で俺を見る角刈りで肉付きの良い男性。


黒い髪、角刈り、強面、肉付き良し。うん明らかにヤバイ人だ。そもそも銃って反動が有るから、使いこなすにはそれなりの筋肉が必要なんだよな。ていうか、やっぱりさっき母さんが言ったのは空耳じゃなかったか。


ゴブリン。


あの小鬼がそれなら、やはりこの世界は異世界なんだろう。とはいえ、元の世界の個人的な記憶、つまり家族や友人に関する記憶は無い。


生活に必要な技術(スマホやら電子レンジ)に関するのはあるが。


いや、今は考えるより動け! 勢いに任せていかないと、ずるずると引き摺ることになる!


「た、確かに怖かったけど、話したいのはそれじゃないんだ」


俺の態度に必死さを感じたか、もしくは違和感を感じたのか、二人の視線は純粋に心配するモノから俺に先を促すものに変わっている。


この切り替えの早さが俺にとってプラスになるかマイナスになるか……。


飲み込む唾すら出てこない程の緊張の中、俺は一歩踏み出したっ!


「実は俺、前世の記憶があるみたいにゃんでゃ!」


踏み出した一歩は見事に踏み外したがな!



――――



結論から言えば、俺は普通に生きている。


二人して散々爆笑した後で再度詳しい話をって言われたから話したけどさ。


母さんは「ほあ~ん」って感じだったし

父さんは「へぇ~」で終わったよ!


扱い軽くね?! と聞いてみたら


「とりあえずどっかのオッサンの記憶がある訳じゃないし? 未来の記憶ならともかく過去の記憶なんて有ってもねぇ」


と母さんが言えば


「だよなぁ。それに昔は前世の記憶がどうとかっていう娯楽が流行った時期があるらしいし? まぁ教育っつーか、幼少期の大変な時を省略出来たと思えばむしろご褒美かもな?」


父さんまでこんなことを言ってくる始末。


俺の緊張を返せっ! と言いたいところだが、緊張で噛んだからこそ親しみを覚えて貰えたのかもしれないと思うと、何とも言えない気分になる。


とりあえずその場は夜も遅かったので解散。俺はとりあえず眠れって言われて眠らせて貰い、父さんと母さんは交代で見張りをすることにしたらしい。


交代で見張りをするんだから、片方は休んで、片方は見張りをしていたはずだ。


だから近くでギシギシなんてベッドがきしむような音は聞こえなかった。


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