この不倫いくらになりますか?

すもも

第1話 ついにこの日が来た

めいさんへ

いつかこんな日が来るとずっと思っていました。

貴女から、私の職場に電話がきたとき

「もう、逃げられないな。」

と、思いました。私のメールアドレスを知っていながら、私の職場である学校に電話したのは、私を絶対に逃がさないためですよね。

「今日、会えますか?時間がないなら、職場か自宅にうかがいます。」

と、言った声から貴女の覚悟を感じました。

そして、貴女もずっと私の存在が恐怖だったんですね。


私と貴女のご主人、ごう君との出会いは、貴女もご存知の通りちょうど30年前の高校の入学式でした。私は、ずいぶんランクを下げて受験した高校だったので当然、1番で入学したと思ってました。でも、新入生代表で挨拶したのは、私ではなくごう君でした。舞台に上がったごう君は遠くからもはっきりわかるほど背が小さくてまだ幼さが十分に残った出で立ちでした。私はごう君を見た時、

「この人に私は負けたんだな。」

と、悔しい思いをしたのをよく覚えています。

クラス編成は成績順だったので私とごう君は当然、同じクラスでした。その日から3年間、私たちは同じクラスで過ごしました。

化学の実験中に、ごう君は自分の前髪を燃やしてしまったり、グループのみんなで海に行ってTシャツのまま海に入ってブラが透けてしまった私を心配そうに見ていたごう君の顔を今でもはっきりと思い出します。

高校2年のバレンタインから私達は付き合うようになりました。はじめてのキスも、はじめての夜も全部私の部屋でした。私の親は、離婚しており、母子家庭だったことと、彼は私生児で生まれて本当の父親が誰かわからないということもあって、寂しがり屋な私達2人はますます一緒に過ごす時間が増えて、私にとってごう君は、私のことを理解してくれる大切な人になりました。

「俺、小さい時に、ばあちゃんちで、ばあちゃんとおばさんに育てられたんだ。お母さんが5歳の俺を迎えにきたとき、おばさんが僕のお母さんじゃなかったの?って聞いたんだ」

こんな言葉を聞いたら、誰だって「この人が私の運命の人だ。」って思いますよね?私がごう君と絶対に結婚したいと思った瞬間でした。

そんな私達も、大学生になりました。ごう君は建築科にいき、私は小さい頃から夢だった学校の先生になるために教育学部に行きました。大学が別々になるのが決定したときにごう君が、

「一緒にバイトをしない?」

と、誘ってきました。ごう君は貴女も知っての通り高校生の時からファーストフード店でバイトをしていました。そこで一緒に働かないかという誘いに私は二つ返事で答えました。でも、そこからが私の不幸の始まりでした。

大学生になった彼は身長も180センチ近くになり、もともとメガネだった彼に

「コンタクトにしてみたら?」

と進めたところ、あの大きな眼に吸い寄せられるようにバイトの女の子達がごう君の回りに集まってきました。

そして、大学2年になる頃、急にごう君から

「好きな人ができたから別れよう。」

と、言われました。相手の名前を聞いて私はとても驚きました。相手は私とごう君の高校からの男友達の元カノの、しげちゃんだったからです。しげちゃんとは私と同じ年ということもあって、とても仲良くしていました。

私は、

「いつの間に!」

という驚きと、彼から別れ話をされたショックで、ご飯が全く喉を通らなくなりました。学校の授業中も、突然涙が溢れてきて止まらなくなりました。でも、彼の別れたいという気持ちを尊重して彼に手紙を書きました。

「今までありがとう。いっぱい思い出ありがとう。」というような内容の手紙をだしました。

すると、そのすぐ後にごう君が、私の家の玄関に待っていました。恥ずかしそうな、はにかんだような笑顔の彼を見て泣きながら私はごう君に抱きつきました。

よりを戻した私達でしたが、私は彼を心から許すことはできませんでした。でも、許せないと思えば思うほど彼と離れたくないという執着が生まれてきました。

それから半年して、私は自分の体の異変に気づきました。毎月、決まった日にきていた生理がこないのです。病院へいくと案の定、妊娠していました。その前から、ごう君の態度もよそよそしくなって、あれ?また、おかしいな?と思っていた悪い予感が的中し、彼はまた、バイトの女の子と浮気していました。妊娠したことを彼に話すと彼はとても困った顔になりました。小学校の先生になることが決まっていた私も産む勇気がなくて、

「おろすね。」

と、彼に伝えました。おろしてからは、ますます、彼へ執着しました。だって、おろしてしまった赤ちゃんは、ごう君と私の子どもで、私達が結婚しなければ生まれ変わってこれないからです。私は彼を追い詰めてしまいました。

そして、めいさん、バイトで一緒に働いていた、めいさん、貴女に私は相談しましたよね。今までのごう君とのことを全部貴女に話して。このまま付き合うべきか、別れるべきか。

「ごうさんも、ももさんの気持ちを絶対に分かっていますよ。別れないで下さい。」

貴女はあの時、私にこう言いました。


25年も経って、久しぶりに貴女にあった時に貴女から、

「最後に話したこと覚えていますか?」

と言われた時、私は本当に驚きました。私も、ずっと貴女と話した内容の呪縛から逃れられずにいたのですから。まさか、貴女も覚えていたなんて。

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