第128話 天界の事

 ふと夢を見た。

 どうして夢と分かるかと言うと、ロードレーサーでかっ飛んでいたからだ。

 もう一度あのペダルを踏み込みたい。高かったんだよな。デュラエース一式。


 ふと目が覚めると、ドロシーの寝顔がちゃんと隣にあった。愛らしいので暫く頭を撫でている。

 朝の微睡みの中、幸せを感じていた。でもナンシーさん達は俺と一緒に居ない事で寂しい思いをしているんだよな。

 と思っているとナンシー様の姿が見える。丁度着替えている最中だ。上着を脱いで、下着姿だ。これから着る服が椅子に掛けてあるので取ってあげて目の前に運んでいく。当たり前の様に空中に浮いている服を掴み、上着を着る。そうすると


「えっ!どうして服がひとりでに飛んでいるの?」


 気づくのが遅いと思うも、ズボンも取ってあげる。


「ありがとう」


 誰に言っているのか、ナンシー様はお礼を言う。


 ナンシー様はまたもや着替えてから異変に気が付く。首を左右に振り、誰もいないからおろおろしていた。


「おはようナンシーさん」


 俺は念和を送る。

 嬉しそうにおはようと言っている。


「明日の朝また念話を送るが、紙とペンを置いておいてください。神の手で手紙を書きたい」


 それを言うのが精一杯だったが、意味がわからないだろうが、筆記用具を準備している事を祈ろう。



 そうこうしているとドロシーが起きた。


「おはようランス。何か不思議なの。今までに無い体の感覚なの。何故かランスを感じるのよ。私ね、来月19になるの。でもこれで18の~今の若さのままなのね。クロエ姉様が急いだ理由が、今なら理解できるの。そして貴方に刻印を刻んで貰えて幸せよ」


「おはようドロシー。体は大丈夫?」


 と、シーツのシミを見ながら言う、いつもの意地悪をしてはいるが、優しくキスをする。ドロシーは一瞬顔を赤くしたが逢瀬の痕跡をうっとりと見つめていた。


「うん、大丈夫。だるいの以外は。気遣ってくれてありがとう!」


 思ったより元気そうで安心し、着替えてから食堂で、二人で早目の朝食を済ませ、宿を引き上げた。


 街を出て茂みに入り城へゲートを出す。

 ドロシーを部屋に送り届けて、城で朝の稽古をする。その後オリヴィアを伴い城へ赴き、本日の護衛の兵をゲートで、馬車を置いてきたポイントへ送り込み、本日の行軍を開始した。

 程なく少し先で待機していた先行隊と合流し、次の宿場町を目指すのだった。


 馬車の中でオリヴィアはひたすら甘えてきた。嬉しいんだけど、少し戸惑った。普段はそんなにベタベタ甘えないからだ。


 折角なので天界の事を聞いたが、独自の世界構成がある。概ね民主政治で統治されている。寿命は約10000年という。


 その為か、出生率が恐ろしく低く、妊娠する率も途方もなく低い。俺とオリヴィアとの間に子ができたとしたら、天界の者と同じで天使しか生まれないという。一生に2-3人を生むのが殆どで、人口増加は殆ど無いという。

 今日の刻印の儀式から、子作りをスタートして欲しいと懇願された。寿命で言えばほぼ間違いなく俺の方が先に死ぬからと。せめて、忘れ形見が欲しいと。


 ふと疑問に思った。人間との真の勇者の刻印の影響は、生娘相手だった場合、寿命が1年伸びるのだが、あくまで人間の場合だ。天使とはどうなるのか不明だった。一応オリヴィアの肉体は人間だ。しかし、魂は天使なのだ。


 俺の刻印は肉体的な繋がりは勿論だが、基本的に魂に刻むのだ。だから、肉体を汚されただけなら大丈夫だが、浮気は駄目なのだ。魂が浮気を認めたら刻印が消えてしまう。


 俺はオリヴィアに確認したが、分からないという。前例がないからだ。


 既に今日刻印の義を行う事としている。オリヴィアの希望は生まれ育った自室だった。


 既にダンジョンで共に命を預けた仲だ。遅過ぎた位で、天界のルールだと俺達は既に夫婦だった。


 珍しく化粧をしていて、とても綺麗だった。何処に出しても恥ずかしくない淑女だ。旅の関係で動きやすい冒険者の服なので闊達そうな美人だが、ドレスを着たら神々しいレベルの美しさだろう。


 オリヴィアは天界に戻る術がないと言うのだ。人界に降りる事が無い為だ。戻る手段を持っているとしたら上級天使だという。


 オリヴィアも俺との接触時に幻影を見た筈だが、さて、どうやって俺達は天界に行くのやら。


 馬車の中はかなり暇だ。ゲートの関係で俺が直接移動する必要がありもどかしい。


 そしていつもながらに俺は腐っていた。オリヴィアを抱き寄せながら、夜を待ちきれず、キスをしたり時折お触りしていた。しかもオリヴィアが誘導までしていた。


 そうこうしていると、いつの間にかオリヴィアの膝枕で寝ていた。オリヴィアも俺を膝枕しながら寝ていたりする。電車の吊革を掴みながら寝る人がいるが、あのレベルでオリヴィアの眠りは不思議だった。


 まあ平和な行軍だからなんだけどもね。

 時折馬を休ませる休憩をするが、夕方まで行軍し、暗くなり始めたので、今日の行軍は切り上げて、城へ帰った。俺はオリヴィア達と屋敷に戻るが、タニーニャも来てしまい、急遽シカゴ達に個室を与えた。


 よくわからないが、既にタニーニャとシカゴは結婚したという。

 三宝姫も居室に荷物を揃え屋敷で生活する。


 久し振りに全員と言っても侍女やら増えたメンバーも多いが、屋敷での食事となった。


 料理が劇的に豪華になったので確認したら、新たに料理人を雇ったという。

 屋敷の運営は執事夫婦に任せている。この二人が執事長とメイド長だ。


 現在屋敷は足場が組まれていて、塗装工事中だ。俺は皆に完成まで見る事を禁止された。完成を楽しみにする為だ。


 朝の練習も城で行う位だ。屋敷内のゲート場にゲートを開けるので、外は見なくても大丈夫だ。外観は俺の奥様方が第二回嫁会議とやらで不動産屋を招いて打ち合わせをしたという。


 食事の後、オリヴィアと夜のデートの為、着替えに部屋に戻ったのである。

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