第15話  奴隷契約

 day5


 朝目覚めると、目の前には双丘が有った。

 そう言えば昨日色々話してる最中に寝てしまったんだったな。

 シェリーは俺を抱いたまま、頭を撫でていた。


「おはよう」


 と言うと


「お早う御座います」


 と挨拶をしてくれた。


 胸の感触を堪能したかったが、それより心臓の鼓動が心地良く落ち着く。


「シェリーの心臓の鼓動の音は心地良いな」


 と呟き起きた。

 そんな俺を見たシェリーは、目の前に立ったと思ったらおもむろに服を脱ぎ捨てて、その芸術的な双丘を惜し気も無く俺の前に晒した。俺が驚いて


「えっ」


 と呻くと、おもむろにキスをしながら俺の手を掴み、その柔らかな胸に置いてきた。混乱している俺に


「私にお情けを下さい。名実共にランスロット様のものにしてください」


 と迫ってきた。


 こんな美少女に迫られたら普段の俺ならそのまま流されただろうが、今の彼女の立場を利用して俺のものにするのは、俺の第六感っていうのが許さなかった。

 恐らく奴隷として生き残るのに必死で俺にすがるしかなく、俺のものになり捨てられないようにする為だろう。

 ひょっとすると本気で好きになり関係を求めてるのかも分からないが、ここは大人の対応をする事にした。


 そのまま引き剥がしてしまうのは、拒絶されたと思わせる可能性が高い。シェリーを絶望に打ちひしがれさせるかも、と思ったので、まずはキスを返した。


 キスの後、肩を優しく掴み、バスタオルを掛けて胸を隠してあげた。本当はガン見したいが理性を保てなくなる。

 先ずはシェリーを落ち着けないと。


「シェリーの事は大好きだ。でもまだ知り合って3日だよ。今君を抱くと言う事は、ただの性欲の捌け口にする事になるんだ。俺は君の事をもっと知り、君の事を心から好きになってから抱きたい。綺麗事だけど、君を大事にしたいから、もっと心が昂ってからでも遅くないと思う。恐らく、俺がシェリーを奴隷として捨てるんじゃないかと心配してるんだろう?だったら大丈夫だよ、絶対にそんな事はしないよ。シェリーに、俺と言う人物をもっと理解して貰いたいし、信頼に足る男と思われるようになりたいんだ。今の君を抱くのは、そこらにいる下衆と同じになるから、もう少し待って貰えないだろうか?もっと自分の事を大事にして、君を愛する人に抱いて貰うべきだよ。結婚するまで大事にしなきゃね!」


 俺は片ひざをついてシェリーの手を取り、そっと掌にキスをした。気障だなあ、と我ながら思う。

 すると、シェリーは泣きながら俺に抱きついて来た。


「不安だったんです。怖かったんです。今まで誰にも優しくしてもらえず、やっと私の騎士様、いえ勇者様が現れたんです。自分の命を顧みず、私の命も純潔も心も、全て救ってくれたんです。

 だから、だから勇者様の女になりたかったんです。捨てられるのが恐かったんです。確かに性急でしたよね。ごめんなさい。ごめんなさい。私の事をお嫌いにならないで下さいまし」


 と言って、今日の服に着替え始めた。冒険者の出で立ちの服である。

 俺がシェリーの着替えを呆然として見ていたら、エッチと言われてしまった。


 俺も着替えてから、シェリーの事や奴隷について教えて貰った。

 まず、シェリーは6歳の頃に奴隷商に売られたんだそうだ。それまでは小国の貴族だったらしいが、国が戦争に負けて併合され、その際に両親は殺されたそうだ。父親は騎士団の団長、母親も宮廷魔道師をしていた為、敗戦国の戦犯としての処刑だったらしい。

 貴族の10歳以上の男と既婚の女性は、全て処刑か奴隷として娼館送り。未婚の女性は奴隷にされたと聞かされた。

 シェリーは、母親が美人だったので大人になれば美人になると判断され、高級奴隷にする為に先の奴隷商に買われたんだそうだ。


 奴隷の扱いは酷く、まともな食事は与えられず、成長に必要ないお菓子等は誕生祭と言う奴隷商の誕生日のお祝いに貰っただけ。それ以外は婦女子の嗜みの教育で食べた程度で、普段はどろどろしたお粥に近い物が多かったらしい。

 上下関係も厳しく、年長の者から折檻を受けたりもしたそうだ。

 貴族向けの、元貴族の性奴隷として高値で売る為に教育を受け、男の匂いを付けるわけにはいかないので触れるのはすべて女子。男に体を触られたのは、この間の盗賊にレイプされかけた件が初めてで、先のキスがファーストキスだった。

 潔癖症の貴族だと、教育の為とはいえ他の男のあれを触った事…ましてや口に含んだという事が分かっただけでも、奴隷商に暗殺者を向けてくる奴も居るんだとか。そんな事を、恥ずかしげも無く常識だという。この世界は腐っている。

 その為、ご奉仕の仕方は手練手管に長けた女に仕込まれるそうだ。

 その他に、淑女の所作として貴族令嬢がスカートを軽く持ち上げて行うお辞儀や、色々な所作も教えて貰ったそうだ。貴族の中には舞踏会等に奴隷を連れて行く者もおり、それに対応する為の教育だそうだ。

 実際に目の前で挨拶をしてくれた。食事の行儀が良かったのもそのためだろうか。勿論、文字の読み書きもバッチリだ。

 凄い。


 奴隷は貴族の物になるのが一番の幸せなんだとか。相手も複数の愛人を持っており、数日に一度寝れば良いだけで安全に暮らす事が出来る。歪んでいるな、俺みたいに。


 しかし、処女じゃ無い奴隷の価格は元の1割程度なので、素行の悪い連中にも手が出る値段になり、あっという間に精神を壊されて廃人になったり命を落とす事があるそうだ。その為、素性の良い主人には常におしりを振らなきゃ行けないんだと。捨てられる=死の認識だ。


 奴隷は物扱いで、お店とかでも床に座り、粗末な奴隷食が一般的。介護等で同じテーブルに着く事は有るが、普通はしないようだ。

 宿でも夜伽の相手をする時以外は厩か同室を許されても床の上で寝るのが当たり前だという。


 俺はショックを受けた。

 知らなかったとはいえ、彼女がお情けをくださいと言った事が、彼女の人生を賭けた一大勝負だったんだと今気が付いた。

 そっと抱きしめて、ごめんね、ごめんね、と俺は泣いてしまった。


 俺が異世界人で有る事を話してカードを見せても驚かなかった。それがどうしたと言った感じで拍子抜けした。むしろ


「ああ、勇者様の奴隷をさせて頂くなんて、こんな事って有るんですね!今まで辛かったですが、頑張って耐えて生きてきた甲斐が有りました。ああランスロット様。私の騎士様であり勇者様。性奴隷でも妾でも何でも良いので、どうかどうかお側にお仕えさせて下さい。何でも致します。お慕い申し上げます」



 と手を必死に握ってくるので、デコピンを喰らわせて


「シェリー、君を性奴隷になんてしないよ。奴隷としても扱うつもりは無い。一人の女の子…いや、大人の女性として、レディーとして扱っていく。君は類い希な素晴らしい女性だ。だから自分の事を卑下せずに、大事にするんだ。君が素敵すぎて、俺の心臓は破裂しそうだよ」


 と彼女の手を俺の心臓の辺りに添える。


「これから話す事は大事な話なので、よく考えるようにしてね」


 と言い、一呼吸おいてから


「まず、これから君の奴隷契約を一旦解除する。その上で、俺ともう一度契約するか判断してね」


 と言ったら、キョトンしていて理解できなかったようだ。俺は彼女の能力の内、魔法が封印されているのを解除する事が出来なかった。奴隷と言うより、隷属の首輪の影響と睨んでいる。


 彼女が戸惑っているので、おもむろに彼女の首輪を掴み


「奴隷契約解除」


 と言い放った。そうすると首輪が発光したかと思ったら、パリンと割れた。

 シェリーは


「ええええええ!」


 と叫び、自分の首を確認して、ステータスを見て確認したようだ。俺も、自分の所有奴隷から名前が消えた事を確認したが、彼女は


「いやあー」


 と、泣いて跪いて抱きついてきた。泣かせてしまったが、その場所非常にまずいんですが。


「いやあ~ランスロット様に捨てられる」


 泣きじゃくるシェリーに戸惑いながらも、俺は


「捨てるわけないじゃないか。これで君を一人の女性として扱える」


 と言うが、


「今更何の取り得の無い、指の先から頭まで染み付いた奴隷には、ランスロット様に縋るしか生きていく事は無理です」


 と、シェリーは震えだした。

 そこで「分かったから、今から俺と隷属契約を結び直そうね」と言うと、ぱっと顔を明るくして


「奴隷商人じゃ無いのにそんな事出来るのですか?」


 と聞くので、うん、と頷く。


 するとシェリーはすぐに起き上がり、優雅に挨拶をしてきた。


「わたくしシェリーは、改めてランスロット様の奴隷として身も心も全て差し上げますので、どうか奴隷契約をお願いします」


 この子の奴隷根性を治すのには時間が掛かるな。はあ、と思いつつ、彼女の胸元に手を当てて奴隷契約実行と呟いた。そうすると、彼女の胸元に奴隷紋が浮かび上がる。


「奴隷1を獲得しました」


 とメッセージが出て、彼女のスキルの魔法封印が解けている事も確認できた。

 新たな隷属契約は、奴隷を縛る条件の設定ができた。1番条件が緩い「主人を害そうとしない、任意に罰を与える」という、外す事が出来なかった最低限の項目以外はすべて外した。

 更に「奴隷から契約解除を一方的に行える、自分がこの世から居なくなったら契約解除し解放する」という、シェリーに有利な条件を付け加える。


 彼女にそれを伝え、


「名称は奴隷の契約だが、君からも一方的に契約解除を行える。だから、これは奴隷契約であって奴隷契約では無い。主従契約と思ってね。俺の奴隷扱いだと、成長の恩恵を受けられるからだ。俺は君の事を奴隷扱いしないよ。受け入れるまで時間が掛かるだろうが、周りからは一般女性として見られるからそのつもりでね」


 そう言うと、俺は片膝をつき


「俺はミス・シェリーに、信頼に足る仲間として私のサポートをお願いしたい。改めて言う、俺の横で共に戦ってくれ。ずっと俺と一緒に生きていって欲しい。俺のパートナーとして一緒に冒険をして欲しい」


 と彼女の手を取った。…あれ?なんかやばい事言っちゃったか?

 彼女はそんな俺の行動に付き合ってくれた。



「わたくしシェリーは、貴方の求めに応じ、貴方の剣となり盾となりましょう。これからも宜しくお願い致します。我が主よ。」


 格好付けた返事に、俺は握ったままのシェリーの手を自分の口に運んだ。


 次に、シェリーにステータスカードを出してもらう。

 そして「偽装」と呟き、彼女の奴隷の所を指定した。きちんとグレーになった。


 俺のステータスカードにも出来たので、ついでに名前をランスロットに変更した。


 その後、朝食を済ませ服屋に行き、冒険者として着る服と下着を買った。

 ついで、防具屋へ行き各々革の鎧を買い、道具屋で回復ポーションと解毒剤、リュックを購入し、冒険者ギルドに赴くのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る