第7話  ゾンビ化

 森の中を進む事1時間位だろうか遂に日が暮れてしまった。

 改めて自分の格好を確認するのだが、そう言えば着ている服は寝間着にと用意された簡易な麻のズボンと同じく麻の長袖の服だったな。

 つまり今更だが防御力がない。


 おまけに靴は元々召還時に履いていた革靴だから森の中を歩くのに適した格好ではない。


 二頭立ての速度を重視した馬車で、半日位進んでいたそうだが、後どれ位森を進めば抜けられるのだろうか?


『危険を押して一昼夜歩いても抜けられないんだろうな』


 とつい呟きさっきから代わり映えのしない鬱蒼とした森に不安を抱くのであった。

 本来小心者であるのだが、先のゴブリンの撃破で多少自信を付けたが、こんな森の中に一人で居るのはかなり辛いのだが、不思議と心細く震えると行った事は無かった。


「こんな森の中だと普通は怖くて震えるよな」


 とつぶやき、殺さなきゃこっちが殺されるとは言え、魔物を殺してもなんとも思わなかった事に今更ショックを受けている。


「俺壊れたのかな」


 自分で気が付いていないが自分の事を


「俺」


 と言っているが本来45歳のおっさんであり、職場でも部下を10人程抱える中間管理職で、己の事を


「私」


 とか


「自分」


 と言い


「俺」


 とは言わないのであるが高校生の頃は


「俺」


 と言っていたはずだ。

 ふとそうやって会社の事を思うのだが何故か部下の顔と名前がはっきり思い出せない。

 おかしいな。しかし今はここを出て生き残る事を考えなければいけないのだから後で考えなければならない、今は集中集中。

 自分の体を確認すると左肩はまだ痛むし打撲なので痛みが引くのに数日は掛かるだろうが、痛みを我慢すれば先程とは違い多少きちんと動かす事が出来た。

『よし!行ける』と己を鼓舞していく。


 周りの気配を探ってみた所右手から何かが近づいて来ている感じがして、さっと短剣を身構える。


 ずた袋に鞄を押し込め、無理やり背負ってみたが何とか戦えそうだ。

 1頭の狼のような獣か魔物かよく分からない動物が茂みから突如飛び出すと、直ぐに襲いかかってきた。奇襲のつもりだろうか?そいつの体長は1m位だが体に似合わず力強い跳躍で飛びついてきた。

 無警戒だと覆い被されて喉を噛みつかれて絶命するであろう一撃だったが、幸い気がついて身構えていたのでナイフを一本投擲し眼に突き刺す。


「ギャフー」


 と呻きが聞こえたが、そのまま屈んで頭上に跳んできた獣の腹を切り裂くとそのまま地面を転がり暫くぴくぴくと痙攣した後絶命した。


 ナイフを回収して更に歩みを進めると左からカサカサと音がした為身構えて辺りを確認すると

  「ブモー」


 との雄叫びと共に一匹のオークが剣を振りかざして突っ込んできたので短剣で受け流して一歩後ろへに下がり相手を睨みつける。


「やばいやばい。あいつ俺より強くないか?オークの強さ150って俺より強いって事か?マズイマズイ何か考えなきゃ。」

 

 身長140cm位と思う。

 中学生位の大きさか。

 魔物だけど鎧着てるな。俺の力じゃ鎧の貫通は無理っぽいから手足と顔を狙うしかないか。

 躊躇していると向こうから切りつけてきて袈裟斬りを仕掛けてくる。そんな大振り当たるかよ。

 交わしつつ咄嗟にナイフを投げたがスキルのおかげか眼に刺さった。

「ブモー」


 と叫び、怒りで我を忘れて無茶苦茶に剣を振って来た。

 ゴブリンのナイフをもう一方の眼に投げつけると見事に刺さったのでこれで視界を奪う事に成功した。

 そっと後ろに回り首を掻き切ると血が勢いよく吹き出して手で必死に押さえているがぴくぴくと痙攣した後間もなく絶命した。

 絶命したかの確認は不要だった。


「剣術(片手剣)を奪取しました」

「ラベルアップしました」


 と聞こえてきたからだ。

 そう言えばステータス表示させた時やシステムメッセージ的なガイダンスがどことなくMMROのイプシロンオンラインに酷似しているのは気の所為だろうか?

 単身赴任の暇潰しにと気まぐれでやっていたが、かなりの精度で、作った奴天才だなと思ってたんだよな。

 しかも完全無料で、無料だからと始めたけど、運用会社も謎で何故これ程のものが無料なのかとネットで物議をかもしてたな。

 そう言えば剣道って剣術扱いになるのか?と言っても中学の時学校の必修科目として月に1度稽古しただけだから基本的な知識しかなかったけど。


 取り敢えず武器を回収。


「あれ?これそこそこ良い剣だな。魔物って兵士が使ってるような精度の武器使うのかな?」


 所謂ブロードソードで、手持ちの短剣は刃こぼれが酷く、かなり酷使してしまった為次の戦闘を乗り切れるか疑問といった具合だったのでかなり助かる。ナイフはまだ使えそうだった。

 残念ながら鎧は小さ過ぎて着れなかったのと剣の鞘は見つからなかった。

 と装備を漁っていると後ろから


「フシュー」


 と声にならない声がして後ろを確認するとゴブリンが5匹いて、二匹が棍棒を持っていたが3匹は素手だ。

 ふと違和感を感じる。

 こいつらさっき殺した奴だ。何故だ?生き返ったのか?先頭の一匹をよく見るとゴブリンゾンビで戦闘力60とある。


「ゾンビになったんか!しかも少し強くなってるじゃないか!」


 と思いつつ剣を持って戦いに挑む。


 短剣では刃が小さく出来なかったが剣を横に薙ぐとスパーンと首が飛び、棍棒を拾い上げて藪に捨てた。もう一匹の棍棒持ちに次のターゲットと決めて首ちょんぱを決め込んだがスキルって凄いなと驚いていた。

 こいつの棍棒を拾い上げこれも捨てる。


 残り三匹は蹂躙だった。徒手空拳に負ける気がせず残りも首ちょんぱした。

 そう言えば今度はスキルのアナウンスがなかったな。

 レベルは上がったみたいだけど。


 そう言えば冒険者の手引きに魔物は殺したら必ず魔石を抜き取るようにと書いてあったような気がする。ゾンビ化する事があるってすっかり忘れていて自分の不注意で自らの首を絞める所だった。


 あとゴブリンとオークは討伐証明が右耳だったな。手引書は落ち着いたらじっくり読もう。確か鞄に入れてある。

 仕方ないので魔石を抜き取る事にした。

 『厭だなあ、気持ち悪そう』と思ったのだが、案外サクサックとやれてしまった。魔石は心臓の横にあった。魔石と討伐証明部位をズタ袋に入れようと思ったが鞄にビニール袋があるのでそれを出してからしまう事にした。


 ふと思ったけど、自分の行動が矛盾だらけなのに気がついた。先程のオークもゴブリンも何故強さが数値で分かったんだろうか?

 俺は鑑定のスキルなんて持っていない筈なんだが。

 うーん?と上を見れば、木々の間から覗く夜空は星が沢山見える。大変綺麗だ。

 いや待て、綺麗な夜空に今は感動している暇はない。


「こんだけ星が綺麗なんだから辺り一帯星明かり以外無い真っ暗だよね。何で普通に歩けて戦えたんだろうか?体格も違うし多分上着の袖が短かかったから身長も違う。何より年齢が思春期って俺はどうなったんだろうか?誰か助けてよ!」


 と叫びたい気持ちだったが、叫んでもどうにもならない。俺は心の叫びを押し殺し、歩みを進めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る