3-2
サンドレイ公爵家は存在する。
しかし、隣国の貴族の家名だ。
エーベリッカという令嬢も次期当主であるレインドンも間違いなく存在している。
……そこにマキシスという娘は存在していない。
この国で騒いでいる『マキシス・サンドレイ公爵令嬢』と名乗る娘は……
「申し訳ございません。当家の
2人が馬車で乗りつけた屋敷の執事が、門前で騒ぐ2人にそう説明する。
しかし、自分たちが正しいと思い込んでいる2人には、執事が嫌がらせで門扉を閉ざしていると思い込んで「開けろ!」と騒ぐ。
「お二方とも、すでに旦那さま方は登城なさっておいでです。ご一緒に新年の挨拶をなさらなくても宜しいのですか?」
続けて現れたメイド長にそう促されると2人は顔を見合わせる。
「ああ、そうだったわ!」
「そうだ、こんなことしてられない!」
そう言って、乗ってきた馬車に乗りなおすと王城へと走らせた。
「「…………」」
嵐のように去っていくエレマンとマキシスの乗った馬車を見送る執事とメイド長。
そのまま馬車が見えなくなるとどちらともなく息を大きく吐き出した。
「早く片付けて我々も母国に戻ろう」
「はい」
ここは間違いなくサンドレイ公爵家の屋敷だった。
昨年、末娘のエーベリッカがこの国の学園を卒業したことで、当分の間はこの国に用はなく、タウンハウスを残しておく必要もなくなった。
ちなみに先ほどメイド長が言った『サンド・レイ子爵家』は存在する。
サンドレイ公爵家の傍系の一族で、マキシスはその娘であった。
……ただし、
子爵家当主の再婚相手の連れ子、それがマキシスである。
マキシスが
マキシスの母の実家パナリス子爵家はすでに当主が交代しており、前当主夫妻の第二の住処とすることでパナリス子爵家の現当主と話がついている。
両家は共同事業を行なっているが、サンド・レイ子爵の頭領令嬢に迷惑をかけたことを重く見て、賠償として事業経営権を献上した。
主家であるサンドレイ公爵家に譲渡された事業はいくつかの手直しを受け、半年で国内でも認められる一大事業へと発展している。
ちなみに屋敷の所有者が『サンド・レイ子爵家』になっているが、これは残り1年……今年いっぱいで名義がかわる。
実際に住むのはパナリス子爵家である。
元々公爵家だった屋敷を買えるほどパナリス子爵家の資産は多くない。
主家から傍家に屋敷を下げ渡すことはよくあること。
それに倣い、サンドレイ公爵家からサンド・レイ子爵家へと払い下げられたこの屋敷は、翌年主家の許しを得て共同事業者であるパナリス子爵家へと譲渡される。
パナリス子爵家の前当主夫妻と婚家から離縁されて戻ってきた妹は、名義人が変更されるまでの間は借家人として生活する。
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