第10話 天才魔法使い、治療を受ける

「リク、突然で悪いのですが少し移動してもらっていいですか?」


「いいよ。でも、自分の体はあまり動かしたくないから転移魔法とか使ってもらえると助かるかな」



 サリィさんから話を聞く限り、多分僕の体を治すために頑張ってくれていたのだろう。だとしたらさっさと治してもらいたい。流石にこのままでは不憫すぎる。

 早速魔法を使おうとするエリンに、不安そうな声でリリィが質問をした。



「りくなおるの?」


「見たことがない状態なので絶対とは言いません。ですが、どれだけ時間がかかっても治して見せます」



 エリンは真面目な顔でそれだけ言うと、転移魔法を発動させた。





 地面がひんやりと冷たい。多分だけど、石畳の地面とかだろう。で、地面から光を感じるから、今転移魔法とは別の魔法陣の上にいるんだと思う。転移魔法でベッドの上で布団をかぶっている僕の体だけを移動させるなんて器用だな。というか一日中体動かさずに生活とか出来そう。……ダメ人間になりそうだからやらないけど。

 まぁ、そんな話はさておき……。



「なにこれ?」



 僕の頭上……ではないか。目線の先には不思議な丸い膜のようなものがある。それは光り輝いていて、不思議な色をしている。不思議な色と言ったのは色があるのは分かるのだが、何色か認識できないからだ。そこからはどことなく神秘的な雰囲気を感じる。



「精霊界との出入り口です。リクの魔力で開かせてもらっています」


「それならサリィさんから聞いたよ。それでこんなに精霊が多いのか……」



 そう、辺りを異様な数の精霊が飛び交っている。ストビー王国に向かう途中で会った数の比ではない。大して広くもない空間に1000を優に超える精霊が飛び交っている。それらが全て心配そうにこちらをのぞき込んでいるのだから落ち着かない。もしこれが虫とかなら鳥肌ものだが、精霊となると神秘的で圧倒される景色となるのは何故なのだろう。いや、そもそも比べることが間違っているのかもしれないけれど。ちなみに、今僕が精霊と比較した時に頭をよぎったのはガノード島で出会ってしまった大量で巨大な虫の事である。まさかこんなところでフラッシュバックすることになろうとは。

 と、ここで僕はこの場所に見覚えがあることに気が付いた。異様に巨大な螺旋階段。確かあの時は中心を突っ切ってここまで降りてきた気がする。改めて下から見上げてみるとなかなかの高さだ。



「エリン、何でここ?」


「魔王がここにあった魔道具もすべて回収した後、不気味がって誰も近づかないと言っていましたので。私はともかく、人間や魔族と接したことのない子もいるので、あまり人目に晒したくないのです」



 精霊と言っても、全員が人と契約しているわけではないのか。



「まあ、そういうことなら。それで、どうするの?」


「私たち全員でリクを治します。多分できるとは思いますが、初めての作業で時間のほうはどのぐらいかかるか分かりません」


「じゃあ、頼むよ」


「分かりました」



 そう言ったエリンは他の精霊に合図を送り、配置につかせた。上を向いたまま何も出来ないって本当に不憫。周りの様子が凄く気にある。暫くして、地面にあるであろう魔法陣が輝きを増し、少しずつではあるが僕の体から何かが抜けていくような感覚に陥る。多分、僕がこの状態になった原因を体から追い出しているとかだろう。

 さて、時間があるのならエリンに聞きたいことがある。



「エリン、その作業って会話しながら出来る?」


「はい、大丈夫です」



 あんまり状況が把握できてないから取り敢えずそっちを先に聞いておこう。



「陛下とかラエル王女、魔王様って今どうしてるの?」


「リクの弟子たちを中心に護衛を付けて何か話し合っているようです。そのあたりの事はシエラの方が詳しいと思います」


「……シエラ?」



 そんな場にいたら凄く退屈そうな表情で突っ立っている姿が簡単に想像できる。だからこそシエラがそのあたりに関わっていることが不思議でたまらない。



「メノード島へはリントブル聖王国含めすべての人間が来ています。彼らから事情を聴くためにシエラの心を覗く力を使っていたのです。私はこちらを優先したのでそちらには参加していません。ですが、ラエル王女とリエルの精霊が手を貸していたはずです」



 あぁ、それは隠し事なんてできないな。拷問をするよりは余程優しい方法ではあるが、それ以上に怖い方法である。何せ会話をするどころか、心の中で考えるだけで全てを見抜かれるのだから。



「ラエル王女の精霊から聞いた話では、ルカを攫ったのはあの国で一番外側にいた人間だそうです」



 あったな、そんな話。こんなことを言ったらルカに怒られそうだが、時間が過ぎすぎて完全に忘れていた。確か貴族とかの子供を人質にとってお金を要求して、お金を払えば確実に人質を返すとか言う律儀なことをしている賊だったはずだ。

 でもそれをしていた人間から察するにその目的は――。



「お金をもらって国の内側に行くため?」


「目的はあっていますが、お金を使って内側へと行くわけではないそうです」


「?」


「内側の人間に人を攫ってきたら内側に入れてやると言われていたそうです。さらにその仕事は見張り付きで、失敗したり逃げたりすると殺されるそうです。それ以前に断っても同じ道をたどるらしいです」



 やることえげつないな。ということはルカを攫った人たちは無理やり仕事として人さらいをさせられていたと。



「……あれ、そのお金はどうなるの?」


「リントブル聖王国へと献上されていたようですね。それを何に使ったかまでは知っている人間がいないようなので分かりませんでしたけど」



 あぁ、あの杖で命を黒い霧に変えて邪神に捧げた人たちか。多分あれだけしかいないことは考えられないから、他の者は既に命を捧げていたとかそんな感じだろう。予想でしかないけど、お金は黒い霧のドラゴンとかを作り出すのに使ったんじゃないかな。デルガンダ王国のギルドマスターに見せた時、それに大量のお金がかかるから裏にどこかの国が付いているのではないかと言う予想が付いた訳だし。

 さて、本題はここからである。いや、さっきまでの話も割と重要な話だったけども。

 エリンは初めて会った時から隠そうとしていたが、ここまで来ると聞かない訳にも行かない。というかそもそも僕自身の話である訳だし。



「僕が生き残りって言われていた理由、教えて欲しいんだけど」



 それから少しの沈黙を置いて、エリンは口を開いた。



「私が昔賢者の元にいたのは知っていますか?」


「うん。話から何となくだけど」


「その賢者の名前はガレムと言います」



 うん、全く知らない。というかそんな名前聞いたことすらない。



「その賢者は、当時の賢者の村において最も才能を持った者であり……」



 ……何でそこで間を開けるの? ちょっと怖いんだけど。

 そんなことを考えている僕に、エリンは凄く話しにくそうに口を開いた。



「リクの祖父に当たる人物でもあります」



 ……へ?

 そんな僕の混乱が落ち着くのを待ってから、エリンは昔話を始めた。昔話と言っても、多分そんな前の話ではない。確か賢者の村が滅びたのが十数年ぐらい前だとどこかで聞いたことがある。僕の予想だが、多分そのあたりの話。

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