第25話 天才魔法使い、メノード島へ帰還する
エリンの転移魔法でデルガンダ王国に移動し、城に戻ると陛下たちは既に戻ってきていた。
「――そんな感じで少し出掛けていたのでこれ、お土産です」
「お、おぉ。すまないな、リク殿」
「陛下、反応薄いですね。まぁ、私も人の事は言えないのですが……」
「なんじゃろうな。あまり慣れてうれしいものではない気がするのじゃが……」
「奇遇ですね、私もそう思います」
僕がシートルの街に行ったことを伝えた陛下とラエル王女の反応がこれである。二人のあまり慣れるのがうれしくないという気持ちは何故か少し理解できた。
「トルノス殿もラエル殿も驚かないのか?」
「リクですし」「リク殿じゃしな」
もういい加減反論する気にならなくなってきた。これがいいことかどうかはさておき、見た感じではあるが首脳たちのの距離が縮まっているようで何よりだ。
「あら? リリィ、それどうしたのですか?」
「りくがかってくれたの!」
一応、高いものではありませんがと付け足しておく。
「私たちとお揃い」
「ほら、私も持ってるよ」
「ルカちゃんたちは随分仲良くなったようですね」
「ラエル王女、ちゃん付けやめてって何回言えば分かってくれるんですか?」
「そうですねぇ……。精神的に大人になったらやめてあげます」
あぁ、それは無理だわ。
「ねぇ、お兄ちゃん。今何考えてた?」
「い、いや、別に何も考えてないよ?」
「本当?」ジーッ
ちょっと鋭すぎない?
それはそうと。
「魔王様、いつ頃メノード島に戻るんですか?」
「夕食はこっちで食べることになったからその後で頼む」
「分かりました」
「りりぃもかえるの?」
「そうよ。リリィは楽しかった?」
「うん! またきたい!」
楽しかったようで何よりだ。そんなに喜んでくれると案内した甲斐があったと言うものだ。
「りくもいっしょにめのーどとうにくる?」
「行くには行くけど、僕は少しやること出来たからその後でお別れかな」
「……」
やめて。そんな顔して俯かないで。
「リク様、どこか行くの?」
「りりぃはいっちゃだめ?」
「いや、流石に連れていけないかなぁ」
割と本気で何があるか分からないし。
「食べ物がおいしい所なら妾はどこでも行くのじゃ!」
「それで、どこへ行くのですか?」
「リントブル聖王国」
少しエリンの表情が強張った気がするのは気のせいかな。
そういえば説明していなかったと思い、リントブル聖王国の内情を調べに行くことを簡単に説明しておく。
「何があるか分からないからシエラとエリンはともかく、二人は別に付いてこなくても――」
「「行く」」
返事速いな。
「りりぃもいく!」
どうやって断ろうと考えていると、ラエル王女が助言をしてくれた。
「それはやめておいた方がいいと思いますよ。あの国にはただでさえ何があるか分からないのに、魔族であるリリィちゃんが行くのは流石に……」
「だそうですよ、リリィ。今回は大人しくお留守番しましょう。ね?」
「むぅ」
頬を膨らませても、リリィのためを思って行っている大人たちが引く事は無いだろう。
「それで、リクはいつその国に行くんだ?」
「今のところは特に考えていませんね。そうですね……魔王様たちをメノード島へ送って一息ついたら行くことにします」
「そうか。なら今日は俺の所で泊っていってくれ。ほぼ全てがリクに任せることになるからな。せめてそのぐらいはさせてくれ」
そういうことならと、お言葉に甘えることにした。
話を聞いていると、どうやらメノード島に戻るのは夕食を食べてからにするそうで、僕はその時間になるまでリリィの強運に戦慄しながらみんなとカードゲームを楽しんだ。
ちなみに、夕食はアイラが選んだ鮮魚たちだ。
「ではこれで。トルノス殿、ラエル殿。是非メノード島にもまた来てくれ」
「あぁ、楽しみにしておるよ」
「その後はストビー王国にもぜひ来てください」
「それも楽しそうですね、あなた」
「そうだな。リリィも楽しそうだったしな」
そう言って魔王様はリリィがいる方を見る。そこには、楽し気にアイラやルカ、シエラやエリンと話しているリリィの姿があった。護衛をしていた人たちはまだお互いに警戒が解け切っていない気がするが、それも仕方ないことだろう。リリィがこれだけ僕らと仲良く接せているのは、まだ子供で人間に対する印象がそう悪くないせいかもしれない。
皆を呼んでから、エリンの力を使って僕らはメノード島へと帰還した。
「リク、礼を言うぞ。良い体験ができた」
「私からもお礼を言いますわ。きっと、私たちだけじゃなく、共にデルガンダ王国へ行った兵士たちも何か感じるものがあったと思います」
「それなら良かったです」
これで少なくとも国のトップ同士は仲良くなれたと思う。リントブル聖王国を除いてだが。話の分かる人がトップに立っていればいいんだけどなぁ。今までされたことを考えるとそうはならない気がするけど、それでもそれが一部だけでやっていることも……。流石にないか。あの規模だし。
「リク様、明日の準備は何かある?」
「いや、特にないよ。強いて言うなら早く寝ることぐらいかな」
「お兄ちゃん、朝出るの?」
「そのつもりだよ」
「えっ……」
リリィ、そんな寂しそうな声を出しながら僕の方を見ないでくれないかな。直視したらメノード島を出ることすらためらってしまいそうな気がしたのは多分気のせいではない。
「ほら、早く終わらせたいからさ。上手くいけばリリィを連れて他の街も堂々と歩けるようになるわけだし」
「どのぐらいで帰って来るの?」
「う~ん、どうかなぁ」
「うぅ……」ウルウル
「ごめんごめん、すぐ帰ってくるって。だから泣かないで、ね?」
そんなリリィを、サリィさんは落ち着かせて来ると言って他の部屋に連れて行った。魔王様がそれなら俺もと言ったのをぴしりと断られてシュンとしていたが、僕はそれを見て見ぬふりをした。
「それで主様よ、その国までどうやって行くのじゃ?」
「どうやってってそれは――」
シエラでは無理か。いや、無理ではないけどリスクが高すぎる。一度見られているわけだし。となると選択肢は一つしかない訳だが……。
「私の転移魔法で連れて行けばよいのですね」
「あぁ、うん。お願い……します」
「何でお兄ちゃんちょっと悔しそうなの?」
「リク様は元から転移魔法で移動するのを嫌がってた」
「そういえばあったね、そんな話」
そう、僕は転移魔法を極力使わないと決めていたのだ。メノード島までは転移魔法で皆を連れてきたが、それでも途中まではシエラに乗ってきたし、さらにそこからは船に乗ってメノード島に上陸したわけだからセーフだと自分に言い聞かせてきた。まぁ、今回も仕方ないと言えばそれまでなんだけど……。
★
「リリィ、あんなこと言ったらリクが困るでしょう?」
「だって……」
そう言いながらリリィは涙ぐむ。こんなことを思うのは不謹慎なのは分かっているのだけれど……。わが娘ながら凄く可愛い。
「リリィ、リクが行くのはリリィのためでもあるのよ?」
「りりぃの?」
「そうよ。言っていたでしょう? 上手くいけばリリィと一緒に色んなところに行けるって」
「うん、いってた……」
「じゃあ、リクが頑張っている間にリリィにもやることがあるんじゃないのかしら」
「やること?」
「そう、やること。リリィが今のままじゃリクと一緒に街は歩けてもずっとは一緒にいられないと思うわよ?」
「どうして? りりぃはりくといっしょにいてたのしいよ?」
「お父さんが今の泣き虫のリリィを見てリクについて行ってもいいよって言ってくれると思う?」
そう、リリィ大好きで過保護なあの人がそんなことを許可するはずがないのです。リリィからリクと街に行って初めてお金の存在を知ったと楽しげに話してくれた時は流石に見過ごし過ぎたと反省しました。まぁ、今まで見過ごしてきた私はあの人のことを言えない気もしますが。
それを聞いたリリィは首を横に振りました。その後、服の袖で涙をごしごしと拭うと、私の方に向き直った。
「じゃあ、りりぃはどうすればいいの?」
「お父さんに心配されないぐらい強くなればいいのよ。だからこれぐらいで泣いてちゃダメよ。次リクに会った時は、リクが驚くぐらい強くなってないと」
「わかった……。りりぃ、がんばる!」
いつもの元気のいいリリィに戻ってくれた。泣いているリリィも可愛いけれど、やはり私は笑顔のこの子の方が好きだなと改めて実感させられます。
こんな話を聞いたら、途中で止められそうです。置いて来て正解でしたね。
★
翌朝、僕らは魔王様達に見送りをされていた。サリィさんが何を言ったのかは知らないけれど、リリィは元気になったようだ。母親と言うのは凄いなとサリィさんと元気になったリリィを見て思った。
「じゃあ、そろそろ……」
「うむ。またいつでも来てくれ」
「私たちはいつでも歓迎しますわ」
そう言って貰えるとありがたい。次来るときは、島の正面から堂々と入れるといいな。
「リリィ、元気でね」
「何かあったらすぐに私を呼ぶんだよ?」
ルカを呼んでどうにかなることなら、人を呼ぶほどの事ではない。その場の誰もがそう思い、誰かがそれを口にしようとしたが、それよりもリリィが口を開く方が早かった。
「うんうん、よばないよ?」
「え……」
ルカが泣きそうになっているのを知ってか知らずか、リリィは続ける。
「りりぃ、がんばるからだいじょうぶ!」
そう言って僕の方に力強い目線を向けてきたが、何を頑張るのか分からなかった僕には頑張れという曖昧な返事しかできなかった。後ろでサリィさんがくすくすと笑っているので、昨日サリィさんに何か言われたのだろう。
「エリン、お願い」
「分かりました」
僕らの足元に魔法陣が現れ、徐々に光を強める。
「ねぇ、リリィちゃん。今のってどういう――」
ルカが言い終わる前に景色が変わった。サリィさんほどうまく慰められる自信はないけれど、僕が後で慰めておこう。
さてと。僕は気持ちを切り替えて木々の隙間から見えている奇麗な真っ白な石で積み上げられた壁を見上げた。そう言えば陛下がロイドが帰郷したみたいなこと言ってたな。別に会いたいとは思わないけど。そんなことを考えながら僕らは巨大な門の方へ進み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます