第24話 天才魔法使い、思い出に浸る

 王都を見て回ることになったのはいいのだが、姿を変えるにしても護衛込みの大人数だと流石に目立つ。と、いうことで陛下やラエル王女、魔王様やサリィさんの大人組とそれ以外に分かれることになった。大人組の方には必要最低限の護衛を各国から数名選出し、子供組……というか僕と一緒に行動していたメンバーの護衛には僕が付いた。僕がこちら側に着くのは満場一致で反対するものは誰一人いなかった。



「ねぇ、あいらとるかがつけてるそれなに?」



 リリィが指でさしたのは、アイラとルカが首から下げている水滴の形をした宝石が付いているネックレスだ。確かここで僕が買ってあげたものだったはずだ。



「リク様に買ってもらった」


「懐かしいね。あれ、お兄ちゃんが初めてこの街に着た時だっけ?」


「多分ね。それ買った時は確かまだお金が無くて――」


「ドラゴンの素材を売る前だった」



 そんなこともあったなぁ。本当に懐かしい。そんな感じで物思いに耽っていると、ルカに肘で小突かれた。首で示された方向を見ると、リリィがおもちゃでも強請る子供のような目をこちらに向けていた。



「リリィもいる?」


「いいの?」


「リリィが欲しいなら買ってあげるけど、どうする?」


「ほしい!」



 多分リリィが言ってるのって同じ物だよね。さて、何となくの方向は分かるけど、どの辺だったかな……。まぁ、色々見ながら探せばいいか。

 その後、中々お店の場所を思い出せなかったので、うろうろして喫茶店に入ったり、屋台の料理を食べたり、サリィさんへのプレゼントとしてアイラの選んだ果物をいろいろ買ったりしたりした。そんな感じで遠回りしながら、僕らはようやくその店に辿り着いた。



「リリィ、何色がいい?」


「う~ん、あいらとるかはどうやってきめたの?」


「「リク様(お兄ちゃん)が決めてくれた」」


「りくがきめて?」



 アイラとルカに渡しといてなんだけど、僕こういうセンスあんまり自信ないんだよね。ルカが蒼でアイラが緑か。となるとリリィは……元気が良くて明るいから――。



「赤色とかどう?」


「それにする!」



 即答ですか。嬉しいけれど、もう少しリリィの意見も聞きたかったような……。まぁいいか。



「リリィ、これそんな高いものじゃないけどいい?」


「高いものじゃないといけないの?」


「いや、そう言う訳じゃないけど……」



 仮にも国のトップである魔王様の娘だ。もっとちゃんとしたものを付けた方がいいのでは、と思ったのだ。



「リク様、こういうのに値段は関係ない」


「そうそう、私たちとおそろいでお兄ちゃんに貰ったってことに意味があるの」


「? それならいいけど」



 そこら辺の感覚はよく分からないけれど、なんかこれでいいらしいので買ってリリィの首に付けてあげた。



「わたしもあいらとるかといっしょ~!」



 何かリリィの喜んでいる顔を見ているとまぁいいかと思えてきた。



「しえらとえりんはいらないの?」


「私は付けられませんし、あまり装飾品には興味がないので……」



 確かにその体の大きさだと、人間用のネックレスを付けるのは不可能か。



「妾も興味ないのじゃ。食べ物じゃないのじゃろ?」



 ネックレスを見て食べるものかどうかを考える奴なんていない。



「さて、目的も果たしたし、次はどこ行こうか」


「それなら妾から提案が――」





 流れでシートルの街に来てしまった。陛下たちに連絡しなければと思って探そうと思ったのだが、どこにいるか分からなかったし、連絡を取る手段もなかったから諦めた。普段ならこの時点で諦めるのだが、シエラの執拗な懇願と、リリィの上目遣いに屈してしまった。



「本当は朝来た方が良かったんだけどね」


「じゃああしたもくる?」


「おぉ、それがいいのじゃ!」



 それは陛下や魔王様とも相談しないといけないので、すぐに返事は出来ない。

 ……勝手に皆を連れて来てしまった事への償いとして、陛下たちにはこの街の食材をお土産として持って帰ろう。これで許してもらえるだろうか……。



「大丈夫じゃない? 寧ろお父さんたち、何で一緒に連れて行ってくれなかったんだ、とか言いそうだけど」


「そもそもリク様に対して怒ることなんて無いと思う」



 それはそれでなんか嫌だな。暴君みたいで。いや、別に暴れてる訳じゃないけど。



「りく、あっちにいきたい!」



 ただの偶然かもしれないが、リリィの指示した方向は港の方向だった。誰かがスタンビートを倒した噂を、誰かが流してしまったせいで食事にありつけなかったのは今では良い思い出だ。……いや、良くはないか。



「何⁉ 向こうが港と言うのは本当かや? 早く行くのじゃ!」


「シエラ、落ち着く。この時間だと急いでも急がなくても大して変わらない」


「朝だとお兄ちゃんみたいなことになるかもしれないけどね」


「りくみたいなこと?」


「リク、何かあったのですか?」


「いや、朝は新鮮な魚が市場に並ぶんだけどさ。始めてきた時、誰かさんのせいで食べ損ねたんだよね」


「私、今でもあれは自分が悪いとは思ってないよ」


「リク様の食事を妨害しただけで重罪」


「それは僕が我儘な権力者みたいになるから止めて欲しい」


「お兄ちゃんなら圧政でも誰も反対できないよね」



 本当、縁起でもないことを言うのは止めて欲しい。というか圧政って。僕が国を治める立場になっていることが前提じゃん。

 そんなこんなで無駄話をしている内に僕らは港へと辿り着いた。



「ひとがいっぱい!」


「でも朝ほどじゃない」


「それより食事じゃ!」


「いや、シエラさん。さっきお昼ご飯食べた所でしょ?」


「確かに食事は用意されておったが、カードゲームをしながらじゃったからさほど食べられておらんのじゃ」


「……確かに。私も少しだけ何か食べようかな」



 そう言えば、アイラがルカとシエラがカードで熱戦(?)を繰り広げている間にリリィと一緒に色々と用意してくれた食事を食べた、みたいなこと言ってたっけ。



「りりぃもおさかなみてたらおなかすいてきた……」



 食べ盛りの子供と言うのは凄いな。僕は流石に一食分は食べられないと思う。

 ……っと、忘れる前にアイラに伝えておこう。



「アイラ、後で陛下たちへのお土産選ぶの手伝ってくれない?」


「分かった。予算は?」


「気にしなくていいよ。日持ちしないだろうから一食で食べられる量で、出来るだけいいやつを選んでくれると助かる」


「見てから少し考えさせてほしい」


「それぐらいならいいよ。じゃあ、お願いね」



 静かだなと思ってふとエリンの方を見ると、ぼーっと人々が行き交う景色を眺めていた。



「エリン、どうかした?」


「いえ、こうして見ると本当に人間も魔族も同じような瀬克をしているのだなと思いまして」



 言われてみれば、メノード島の港とは沿岸に巨大生物が発生していること以外は大して変わりない気がする。メノード島の団長たちにここの景色を一度見せてみたいものだ。案外、同じ仕事をしている者同士として人間の漁師と気が合ったりするかもしれない。



「りく、あのおみせ! あのおみせのごはんおいしそう!」


「うむ、妾の勘もあそこは間違いがないと言っておる」



 先ほどから入るお店を探して辺りをキョロキョロとしていた二人が入るお店を決めたようだ。というか――。



「あのお店ってお兄ちゃんが入ったことあるお店だよね?」


「あれ? 何で知ってるの?」


「この街でお兄ちゃんを探してた時にこのお店にお兄ちゃんが入っていったって話を聞いて、私も入ってみたんだよね」



 そんなことしてたんだ。あの時ということはガロンさんと一緒に入ったのだろう。まぁ、僕の経験に基づいても、シエラの勘と同じように間違いはないと思うので素直にそこに入ることにした。時間帯的に客が少なかったのか、すぐにテーブル席に案内された。

 ……そんなにお腹空いてないけど、僕も少し食べたいな。



「アイラ、僕と何か頼んで半分ずつに分けない?」


「私も少し食べてみたいと思ってた。何食べる?」


「この間食べたのは海鮮丼だったから別のがいいかな。他は特にこだわりないから後はアイラに任せるよ」


「ちょっと考える」


「エリンはどうする?」


「そうですね……。ではリクたちのを少し分けてもらうことにします」


「あれ、エリンさんが甘いもの以外を食べるなんて珍しいね」


「気分ですよ。たまにはいいかなと思いまして」


「うむうむ。羽虫にもようやく食事の良さが分かってきたか」


「あなたのように紡織をしている者が食事の良さを分かっているとは思えませんが……」


「何を言うのじゃ。妾の舌は一噛みすれば素材の味を確かめられるぐらい肥えておるのじゃぞ!」



 それは舌が肥えているという言葉はそんな意味ではなかった気がする……いや、合ってるのか? そんなこんなで食事を楽しみ、陛下たちへのお土産を選んで僕らはデルガンダ王国へと戻った。

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