第23話 天才魔法使い、首脳会談を終える

 身分証を持っていて、エリンの魔法で姿まで変えられる僕がリントブル聖王国に潜入するということで話は纏まった。陛下の好意で国の兵士を通じてギルドマスターまで報告をしてもらうことになった。ちなみに、リントブル聖王国にはギルドと言う組織がないらしい。そんなものが無くても事足りるとかかな? 戦力なら一番らしいし。そこから先は陛下とラエル王女は魔族側の話を魔王様から聞き、魔王様とサリィさんは陛下とラエル王女から人間側の話を聞くだけの会話が続いた。両方を知っている僕はその話を聞きながら所々補足していた。



「っと、危ない、一番大事な話を忘れるところだった」


「一番大事な話ですか?」


「何か儂たちにもかかわる話なのか?」



 陛下とラエル王女はその神妙な言い様にごくりと生唾を呑んでいるが、僕は何となく察していた。



「トルノス殿、俺にこの街を散策させてはもらえないだろうか? リクはトルノス殿の許可があれば手を貸してくれると言っているのだ」


「ふむ、リク殿がそう言うのならばよかろう。ただ、一つ条件を付けさせてもらう」



 あれ? 陛下がこんなことを言うなんてらしくないな。僕はてっきり、あっさりと了承してしまうものだと思っていたのだが。



「その条件を聞こう」


「儂をメノード島に招待して欲しい」


「へ、陛下! それはっ――」


「良いのじゃ。サタナ殿は今回我ら人間の領土にわざわざ来たのだから、次は儂の番じゃろ?」



 確かにそれでお互い様、ということになるのだろう。だが陛下の目からは、そんなことよりもメノード島を見てみたいと言う好奇心が見て取れる。だが、そこで待ったをかけたのはラエル王女だ。



「私を置いて行かないで下さい。私だって行ってみたいです。リクが色々な所を見て回れて羨ましいと思って……じゃなくて、私も国のトップとして、魔王であるサタナ様と友好を築きたいのです」



 今、王女にあるまじき……というか国の事情なんて無視した私情が聞こえた気がしたのは気のせいだろうか。



「よかろう。まぁ、我々は戦争をしているという事情があるからリクの力がどうしても必要にはなるが……」



 いや、そんな目で見なくても断らないですよ?



「いいですよ。その時はマルクス王子やリエル様はどうするんですか?」


「マルクスには残ってもらう。儂に何かあった時のためにな」



 マルクス王子なら絶対来たがるだろうに。というか十中八九陛下に反抗するだろう。それを抑えるこの国の兵士たちの苦労が偲ばれる。



「私も同じ理由でリエルは置いて行きます」



 その後、ラエル王女はにやりと笑ってから言葉を付け足す。



「そうですね……。適当な理由を付けてデルガンダ王国にでも置いておきましょうか。マルクス王子もあの子がいるとなればそれを無視して離れる訳にはいかないでしょうし」



 それに答える陛下もにやりと笑う。



「それは良い案だな。兵士達には気を遣うように言っておこう。それなら数日はメノード島に滞在するとしよう。その間にあるかもしれないしな」



 あぁ、これはいつかの寝室が近かったのも確信犯だな。親視点だとこんな感じなのか。

 そんな会話を不思議そうに聞いていたサリィさんが口を開く。



「そのお二人がどうかしたのですか?」


「おぉ、説明もなしにすまないなサリィ殿、サタナ殿。実はな――」



 そこからは親視点で子供を見るような話だった。王子が鈍感すぎることや、リエル様が奥手過ぎることに対する話などだ。その話に呼応するようにリリィの話にも及んだ。



「メノード島には骨のあるやつがおらんからなぁ」



 どうやらメノード島には、魔王様のお眼鏡に敵う者はいないようだ。親の気持ちってこんなものなんだろうか。そんなことを考えながら話を聞いていたが、なぜかサリィさんから僕の方にも飛び火がきた。



「リクはそういうことは考えていないんですか? リクの周りには人ではない者も二人いるけれど、その他は皆可愛らしい女の子でしょう?」



 陛下がいつも以上に真剣なものになっているのはサリィさんが言った中にルカが入っているからだろう。それはまだいいとして、魔王様の目線がなぜかとても鋭い。いや、リリィはサリィさんが言った中には入っていないと思いますよ?



「僕と一緒にいる子は皆まだ子供ですし、そういう人が出来れば旅も難しくなる気がするので今のところは考えていませんね」



 そんな言葉に一番に反応したのは肩に座って黙ってお菓子を頬張っていたエリンだった。



「リクの子供は見てみたい気がしますけどね。リク同様、私が守ってあげますよ? リクの子供なら私を召喚するぐらい簡単にできるでしょうし」



 自分で言うのもなんだが、それは子供に対する期待が重すぎる気がする。でも本当にそうなれば、エリンがいるということだけで何があっても大丈夫な気がする。



「それで、結局魔王様が街を見て回るのは――」


「あぁ、構わぬ。……ふむ、たまには儂も見て回るとするか。リク殿、頼めるか」


「それなら私もお願いできますか?」



 一応エリンにアイコンタクトで許可を取っておく。



「いいですよ」


「ではリリィたちを迎えに行くとしよう」


「そうですね。あの子も楽しみにしていたことですし」


「そういえばルカが面倒を見ているのだったな」


「ルカちゃんが面倒を見れるとは思いませんけどね」


「でも、ルカのお陰でリリィも楽しそうにしていますよ。リリィの視点に合わせてくれているのでしょうね」



 多分、それは天然で合わせている。ルカの精神年齢がリリィの年と近いのだろう。口には出さないけれど。

 それはそうと、向こうはどうなっているのだろう。ルカがリリィに泣かされて……いや、流石にリリィの前で泣くような事は無いか。





「……ぐすん」


「もう一回じゃ! 次こそ――」


「もう諦める。リリィには勝てない。ついでに私にも勝てない」


「るか、なんでないてるの?」


「ななな、泣いてないよ? ちょっと……ぐすん、目に埃が入っただけだよ。……ぐすん」



 なんというか、ルカは期待を裏切らないよね。いや、決してバカにしているわけではなく。



「リリィ、お父さんと一緒に街を見て回らんか? ちゃんと許可は取ったぞ」


「りくもいっしょ?」


「リクがいないと私たちは姿を変えられませんから、街を見て回る間はずっと一緒ですよ」


「やったー!」


「……あら? リリィ、あれは何ですか?」


「あのりょうりおいしいの! おかあさんもいっしょにたべる?」



 そう言ってリリィがサリィさんの手を引っ張っていく。リリィは元気いいなぁ。



「お疲れ、アイラ」


「そんなに疲れてない。ほとんどルカとシエラが二人でやってたから」


「どういうこと?」



 アイラの話によると、トランプではなくUNOをすることになり、ルカとシエラは何故か序盤パスをして手札を増やし、リリィは最短で上がり、普通にプレイしているアイラは何事もなく2位で上がるという繰り返しだったらしい。必然的に最後は手札の多い二人の戦いになり、手札が多いからこそ中々終わらないと。その間、アイラはリリィと一緒に用意していくれていた料理に舌鼓を打っていたらしい。



「ルカちゃんは相変わらずカードゲーム弱いですね」


「ちゃん付けで呼ばないでって言ってるじゃないですか! それと、そんなこと言ってられるのも今の内です。私だってそのうち強くなるもん!」


「はっはっは。ルカは楽しそうじゃのう」


「お父さんもやる?」


「後でやろうか。実は儂もラエル王女もサタナ殿と一緒に街を歩くことになってな。ルカも来るじゃろ?」


「うん、行く!」



 周りでそんな会話が広がっている中、一人カードを真剣に見つめていたシエラに声を掛ける。



「何してるの?」


「アイラやリリィがどうやってずるをしているのかと考えていたのじゃ。種も仕掛けも見当たらんのじゃが……」



 それは元より無いのだから、見つかるはずもない。自分の技術を見直さずに他人のイカサマを疑うあたり、これから先上達する余地がないように思えてしまう。



「まぁ、あなたの頭ではそれが限界ということですよ」


「ほう? 羽虫が随分と偉そうなことを――」


「私にだって一度も勝てていないではないですか」


「ぐっ……」



 エリンが僕の肩で立ち上がって両腕を組んでシエラを見下ろす。それを悔しそうに見上げるシエラ。……何かこの図面白いな。

 さてと、国の兵士達も付いて来てくれるだろうけど、一応僕も護衛と言う名目で呼ばれているので気を引き締めなければ。

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