第02話 天才魔法使い、メノード島から帰還する

「ふぅ。こんなに食べたのは久し……ぶり……じゃ……」


「「(ジト目)」」ジー


「ち、違うのじゃぞ主様! これはっ――」



 デルガンダ王国に戻り、夕食を取っていることを聞いたそちらへ向かった僕とエリンの目に入ったのは、椅子に座って膨らんだお腹を手でさすっているシエラの姿だった。

 先程から何か言っているが、それを聞く前に何かしら罰を考えよう。……断食とかいいんじゃなかろうか。



「ちょっと待つのじゃ主様! 妾の体は人間とは違うのじゃ! 断食などしたら体が持たんのじゃ!」


「あれ、確か初めて会ったとき『弱き人の子』とか言われた気がするんだけど」


「そ、それは――」


「きっと人間より強いドラゴンなら、より長期間の断食でも耐えられるのでしょうね」ニコッ


「ぐぬぬ……」



 何日ぐらいが適切なのだろうか。そんなことを考えていると、予想外の方向からシエラの援護が来た。



「リク殿、その辺で勘弁してやってくれないか?」


「これは僕らなりのお礼だから気にすることはないよ」


「いつも止めるお兄ちゃんがいないから、ここぞとばかりに色んな人が持ってきてたよ」



 まぁ、国のトップがそこまで言ってくれるのなら今回は見逃してもいいか。



「それでお兄ちゃんの方はどうだったの?」


「まあ、多少想定外の事はあったけど予定に変更は無しかな」


「想定外ってお兄ちゃんにしては珍しいね。何があったの?」


「ちょっと魔王に見つかった」


「「「……え?」」」


「なんじゃ? 何か問題なのか?」



 流石家族。3人とも見事に同じ反応と同じ顔である。



「それで少し話したんですけど、戦争に興味の無い魔王様が陛下とストビー王国のラエル王女とお話ししてみたいと言ってました」


「ねぇ、お兄ちゃんって何しに行ったんだっけ?」


「エリンの魔法で転移できるようにするため?」


「それで、何でこうなるの?」


「う~ん、……成り行き?」



 皆の呆れ顔も見慣れたものである。……全く嬉しくない。



「それでどうしますか?」


「それにはリク殿には付いてきてもらえるのか?」


「勿論です。行くとしたらエリンの魔法で行きますし」



 陛下が腕を組み、少し考えてから口を開く。



「少し時間をくれぬか? 流石に儂一人の一存で戦争相手の国に行くことを決めるのは……」


「分かりました。そう伝えておきます」



 後はストビー王国に行って適当なところに泊まって、明日にでもメノード島に行こう。

 そんなことを考えていると、マルクス王子から声が掛かった。



「リク、僕らもストビー王国に連れていってくれないか? ラエル王女の意見も聞いてみたい」



 エリンの方に視線を向け、アイコンタクトで許可を取る。



「構いませんよ」


「ではリク殿、少し待ってもらえるか。準備をしたい」


「分かりました。部屋で待たせてもらっていいですか?」


「構わんよ。あの部屋はリク殿にあげたようなものだからな。では準備が出来たら声を掛けに行くから、それまではゆっくりしていてくれ」



 と、言われたので僕らは陛下から借りている自室へと向かった。

 部屋に入って早々、僕は体をベッドに投げ出した。



「どうしたの、お兄ちゃん?」


「何か一日で色々あったから疲れただけだよ」


「お兄ちゃんでも疲れることあるんだね」



 ……僕のことを化け物か何かと勘違いしてないだろうか。



「妾も食べ過ぎたせいでちと眠いのじゃ」


「私もお腹一杯で眠い……」



 そう言えばもう日も暮れて夕飯時は疾うに過ぎている。こんな時間に動いてもらうなんて陛下には申し訳ないな。



「ずっと戦争をしていた人間にとってはそれだけ大きなこと、と言うことじゃないですか?」



 エリンに心の中を覗くような変態スキルは無いはずなのだが。また顔に出ていたのだろうか。



「主様よ、変態スキルという言い方は止めて欲しいのしゃが……」


「……考えておこう」


「それはちゃんと考えない者の台詞じゃ!」



 そんなことはない、とシエラに抗議しようとした時、大の字に寝ていた僕の横にルカが転がり込んできた。



「何してんの?」


「アイラがいつもこうしてるからどんなものかなって」



 別にそんな大層なものでも無いと思うけど……。



「それで、何か分かった?」


「何か安心感ある。それと、……お兄ちゃんの臭いがする」


「その感想はすごく恥ずかしいから止めてくれない?」



 その時、扉の叩く音がして、ルカが急いでベッドから離れる。陛下達の準備が整ったのだろう。僕は空腹と眠気に耐えながら皆とストビー王国へと向かった。





「――と、言うことでして。デルガンダ王国の方をお連れしました」



 ラエル王女は話を全て聞き終わり、口を開けたままフリーズしていたが、妹のリエル様に肘で軽く小突かれて我に帰る。



「取り敢えず陛下達は部屋にご案内します。他の者も呼んでくるので少しお待ち頂くことになりますけど」


「そんなに急がなくてもよいぞ。儂たちもまだ状況を把握しきれておらんから、こちらで話し合うこともあるしな」



 そう言って陛下は後ろを見る。そこにはマルクス王子と護衛であるガロンさん達、数人の大臣の姿があった。普段何かあったときに集まっている人数からすればかなり少ない。この時間のせいで集まらなかったのか、少数精鋭にしているのかは僕には分からない。

 リエル様のマルクス王子への眼差しが気にならないこともないが、その想いを周りに気づかれていないと思っているリエル様に自重して欲しいなんて事を言える者はここには居なかった。



「アイラ、悪いんだけど何か作ってもらえる? まだ夕飯食べてなくて」


「分かった。ラエル王女、お城のキッチン借りてもいい?」



 何だかアイラが楽しそうにしているのは気のせいか。



「いいですよ」


「ありがとう」



 そう言ってアイラがキッチンへと向かっていったのを確認してから近くにいたアイナから声が掛かる。



「お姉ちゃん、最近リクさんの料理を作る機会がないって落ち込んでましたよ。たまには料理させてあげてもらえると妹としては助かります。じゃあ、私はお姉ちゃんを手伝ってきますね」



 良くできた妹だなぁ。そう言えば移動手段が豊富になったり城に入り浸っているせいでアイラの料理も久しぶりな気がする。



「じゃあ妾は先に寝に行――」


「そっちはキッチンですよ、変態脳筋トカゲさん?」


「シエラさんまだ食べるの?」


「あれじゃ、食後のデザートじゃ」



 多分だけど、アイラの作ってくれるものはそういうものではないと思う。



「やることないし、私もアイラ手伝ってくるー!」


「「「邪魔しちゃダメ(だよ)(じゃよ)(ですよ)?」」」


「しないから! 私だって料理ぐらい出来るからっ! お兄ちゃん、楽しみにしててね!」


「あ、私のデザートもついでにお願いしといて下さい」


「りょーかいっ」



 そういってルカは走っていってしまった。何だろう、この不安な感じは。まぁ、アイラとアイナもいるし大丈夫か。

 そんなやり取りを見ていた陛下とラエル王女が微笑む。



「リク殿のお陰でルカも元気になったのぅ」


「お母さんが亡くなったときは随分落ち込んでいましたしね」


「僕は元気のないルカを見たことないので分からないんですけどね」



 ルカが大人しいところとか想像できない。



「じゃあ、終わったら呼んでください。デルガンダ王国までお連れするので」



 エリンの方をちらりと見て、アイコンタクトで許可をとる。

 が、それは無駄な気遣いとなった。



「私たちの方で寝室を準備しても構いませんがどうしますか?」


「そうしてもらおうか。何時までかかるか分からんしな」



 戦争相手の国のトップに会うかを決めるのって大変なんだなぁ。



「人間とは面倒な生き物なんじゃなぁ」


「リクは別ですけどね」



 それは僕が人間じゃないっていう事じゃないよね?

 そんなこんなでデルガンダ王国とストビー王国による話し合いが始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る