第25話 天才魔法使い、状況を説明する

『主様、これどうすればよいのじゃ?』


「とりあえずリリィ出せばいいんじゃない?」


「りくはこないの?」



 やめて、そんな目でこっちを見ないで。



「今はやめとくよ」



 何か僕のせいで国が二つほどごたついているから説明しに行かないと。

 その前に一つ確認しないといけない。何のためにここまで船を出しているのか確認しておかないと。これはシエラにお願いしたい。



『ごほん。お主らは何故ここにおるのじゃ?』


「我々の国の姫が人間に攫われたので救いに来たのです」



 当たりか。来てよかった。



「りく……」


「今度こっそり遊びに来るから今はお父さんのところに」


「お兄ちゃん、それ密入こ――」


「ごめん、それは言わないで」



 自覚症状は一応ある。でもしょうがないじゃん。僕人間なんだから。



「りくはあのくににいくの?」



 あの国というのはリントブル聖王国のことか。



「私はあまり賛成しませんね。リクがどうしてもというのなら行きますが」


「リク様、順番を気にしないのなら先にメノード島の方が今なら近いかも」



 ……百里ある。



「あ、あの……、誰か背中に乗せているのですか?」



 下からの声に待たせていたことを思い出す。



「リリィ、取り敢えず行っておいで」


「りくはこないの?」


「もうちょっと考えてから決めるよ」



 僕はリリィに重力魔法をかけて風魔法で船の方へと向かわせる。体が宙に浮いて少し戸惑っていたが、リリィはすぐにそれが僕の魔法だと気づいて落ち着きを取り戻す。



「またあえる?」


「ちゃんと会えるよ」



 多分。魔族のお城の警戒が厳しそうならちょっと考えるけど。



「じゃあまってる。またね」



 僕らはリリィに手を振って別れを告げる。



「リ、リリィ様!?」



 これで大人しく帰ってくれるだろう。



『主様よ、それでどうするのじゃ?』



 エリンの転移魔法を使えばリントブル聖王国にはすぐに戻れるだろう。だが、それは確かある程度正確な距離と方向が必要だったはず。



「エリン、メノード島に行ったことは?」


「ないですよ」


「取り敢えずメノード島に行こうか」



 一度メノード島まで行ってしまえば、転移魔法ですぐに行けるようになるし。が、このまま行くと面倒なことになりそう……というか絶対なるので、どこかでエリンに魔族の姿変えてもらわないといけないな。でも、メノード島のどこらへんなら人気が無いかとか分からない。かと言ってシエラが行ったら嫌でも目立つ。



「確かリクは空を歩けるのですよね? それなら他の皆をどこかに置いて私を連れてメノード島に行けばいいのではないですか? 彼らを追いかければ島に着くでしょうし」


「それだ」



 僕の知らない間に全面降伏してきた二つの国にも一応連絡とっておきたいし。



「ルカはデルガンダ王国で、アイラはストビー王国で皆に説明しといてもらえる?」


「「分かった」」


「シエラは……余った」


『主様よ、もう少し他の言い方をしてくれてもいいんじゃよ?』



 そんなこと言われてもなぁ。どちらかに一緒に行ってもらうことに――。



『ルカについて行くのじゃ。久しぶりに肉料理というのも悪くない』



 食事内容で決めたのか。



「ルカ、ちゃんと食べ過ぎないように見張っててね?」


「私に任せてよお兄ちゃんっ!」



 そういえばルカに何かを頼むことって今まであんまりなかったな。やけに嬉しそうなのはそのせいか。ちょっと不安だけど、まあいいか。



「じゃあエリン、お願い出来る?」


「お任せ下さい」



 エリンが魔法陣をシエラの真下に出現させる。船の方が何やら騒がしくなっている気がするが、別に攻撃をする訳はないので許してほしい。





 エリンの転移魔法によって僕らはデルガンダ王国から少し離れたところに移動した。



「シエラ、人の姿になってくれる?」


「了解じゃ」



 シエラの体が光り輝き、次第に人型へと変わっていく。

 エリンに姿を変えてもらって歩いて城を目指した。道中、僕の噂話が所々から聞こえてきた。思ったよりも大きな騒ぎになっているようである。

 門の前まで来て姿を元に戻す。それを見た兵士はかなり驚いていた。



「リ、リク様!?」


「ご迷惑をお掛けしてます。陛下に会いたいんですけどいいですか?」


「少々お待ちください!」



 城の中へと誰かを呼びに行った。

 それから1分も経たないうちにガロンさんが来てくれた。



「お久しぶりです」


「そういえば暫く会っていませんでしたな。それよりご無事で何よりです。陛下もすぐにお会いになるそうなのでご案内します」



 ガロンさんとあまり会えていないのは兵士長とか言う肩書を持ちながら公務の方に回っているせいだと思う。





「おぉ、ルカ。無事でよかった」


「お兄ちゃんと一緒なら大丈夫だよ」


「それもそうか。それでリク殿、どういう状況なのか聞きたいのだがよいか?」



 ルカが僕の代わりに答える。



「それは私とシエラさんで教えてあげる! お兄ちゃんはストビー王国にも説明しに行かなきゃいけないし、早くしないと船が見えないところに行っちゃうかもしれないから、私がここを任されたの!」



 そう言ってルカは胸を張る。ルカが胸を張っている姿は、ずいぶん前にも見た気がする。なんか懐かしい。



「そういえばリクはストビー王国からも全面降伏を受けているんだったな」


「えぇ。気付いたらそうなってました」


「早く行ってあげたほうが良いと思うぞ。ストビー王国も状況が分からず混乱しているじゃろうしな」


「ではお言葉に甘えてそうさせてもらいます。シエラ、あんまり迷惑かけないでよ」


「そんな子ども扱いせんでも分かっておるのじゃ」



 本当に分かっているのならその涎を抑えて欲しいものだ。シエラが慌てて涎を拭くがもう既にみんな見ているので手遅れである。



「じゃあエリン、お願い」


「分かりました」


「ルカ、ちゃんと出来る?」


「出来るから! アイラこそちゃんと出来るの?」


「私は問題ない」



 これはアイラなりに心配してのことなんだろうか。



「じゃ、ひと段落付いたら迎えに来るから。多分、夜までには」


「妾としては、ゆっくりしてきてもよいのじゃぞ?」



 早く帰ってこないとデルガンダ王国の食料が危ない。

 無駄話もそこそこにストビー王国へと移動する。





 こちらも同じ方法で城の中へと向かった。



「お姉ちゃんっ!」



 アイナがアイラの元へ走っていきそのまま抱き着く。そういえば指名手配されてたのって僕と一緒にいる人もだったっけ。



「リク? どうかしたのですか?」


「いや、リントブル聖王国はデルガンダ王国の姫がいるのに気付いてたのかなって」



 その質問に答えたのは丁度こちらにやってきたラエル王女だった。



「あの国はそんなことを知っていても気にしませんよ。相手が魔族を庇ったとなれば尚更です」



 戦争している相手が関わるとこんなものなのだろうか。



「それはそうとリク、どういう状況か聞きたいのですがよいですか?」


「それは私が答える。リク様はやることがあるから」


「やること?」


「それも私が説明する」



 と、言ってくれたので僕とエリンは再びリリィと別れた場所へと向かうのだった。

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