第18話 天才魔法使い、再び兵士に教える

「ラエル王女、いつ頃戻りますか?」


「今すぐにでもお願いします」



 話はどうやら終わったらしい。

 その後ラエル王女は申し訳なさそうにこちら様子をうかがいながら、口を開いた。



「デルガンダ王国の兵士に手ほどきをしたと聞いたのですが……」



 どの国も危機に陥ったら考えることは同じか。



「僕でよければ手を貸しますよ」


「ありがとうございます」



 そう言って丁寧に頭を下げるラエル王女。



「いや、別に頭まで下げなくても――」


「リクには頼りっぱなしですから」



 僕はふと他の皆の方を見る。



「何かこっちでやっておきたいこととかある?」


「リク様と一緒ならいつでも戻ってこれるから今は特にない」


「確かにね。用が出来たらその時にお兄ちゃんにお願いする」


「妾も別に良いぞ」



 まあ、確かにいつでも来れるけど。



「エリン、その時はお願いできる?」


「任せてください」



 さてと。戻りますか。



「では陛下」


「うむ。ルカも元気でな」


「うん! またすぐ帰ってくるかもしれないけど」


「いつでも待っておるよ」



 そこでリエル様がいないことに気が付き、辺りを見渡すとマルクス王子と城の庭で楽しそうに会話をしている姿が目に入った。



「……置いて行きます?」


「本人にとってはその方がいいかもしれませんが、流石に他国に姫を置いていくというのはちょっと……」



 まあ、そうですよね。すぐにラエル王女が二人に話をつけに行ってくれた。



「ではマルクス王子、またお会いしましょう」


「えぇ。今度は私がそちらに行きますよ、リエル様」



 足元に転移の魔法陣はもう作ってあるのだが、如何せんこの雰囲気では起動させにくい。



「リク、妹のことは気にしないでください」


「は、はぁ」



 全く気が進まないが、ラエル王女の言葉もある訳だしまあいいか。僕は魔法陣を起動させた。





「そういえば、陛下が何か分かったら私やギルドを通してリクに連絡すると言ってました」


「わざわざすいません」


「いえ。寧ろこちらが助けてもらっている立場ですから」



 それはさておき。



「兵士に手ほどきをするというのはどうすればいいですか?」


「タイミングはリクに時間があるときでいいのですが……」


「では午前中のみ、ということでどうですか?」


「是非お願いします」



 午後は島から離れた海上で魔法の練習とかいいかもね。それか街の散策かアイラにデザート作ってもらうとか。

 ……中々に楽しみな生活である。

 その後、手ほどきは明日からということになり、僕らは魔法の練習をすべく海上へと来ていた。



「凄いな、転移魔法」



 一瞬でさっきまでいた島がうっすらとしか見えない位置まで移動したのだ。勿論、ルカとアイラはシエラの背中の上である。



「じゃあシエラ、結界お願いね」


「了解じゃ」



 さてと、やりますか。





「うん、いい練習になった」


「私も魔法の威力を下げるなんて滅多にしなかったのでいい練習になりました」



 エリンのお陰でいい感じに威力の手加減が出来るようになっていた。本当に助かる。



「これでリク様の魔法が完璧になった」


「猛練習する必要あるんじゃない?」



 確かに。



「いや待て主様よ。急な魔法はそこの羽虫では対応できんじゃろ? 間違えて妾の翼が燃えるようなことにならないぐらいには練習するべきだと思うのじゃ」



 そういえばそんなこともあったような気がする。暫くは練習するかなぁ。



「それは変態脳筋トカゲが避ければいい話では?」


「主様の攻撃を避けられる者なぞおるわけなかろう?」


「それは……そうですね」



 喧嘩になると思ったが、なぜか収まった。





 そんなこんなで午後を過ごした翌日。



「妾たちは街に遊びにって来るのじゃ!」


「頑張ってね、お兄ちゃん!」



 そんな二人を送り、ストビー王国の訓練場へと僕は向かった。勿論、二人には姿を変えてもらってお金を渡している。



「……兵士の手ほどきって聞いてたんですけど」



 ストビー王国の城の中にある訓練場で、僕の目の前にいたのはいつか助けた子供たちだった。



「流石に翌日だと日程を調整できなかったのです。その話を聞いたこの子達がぜひ自分たちがと。私としては何も出来ない子供のままではちゃんとした働き口を探すのも難しいと思うのでお願いしたのですが……」



 この年齢で戦闘能力を身に着けるのはどうかと……いや、ゼルたちもこのぐらいだったか。



「兄ちゃん! 頼むぜ! あと約束通り兄ちゃんの話聞かせてくれよなっ!」



 犬の獣人の少年が元気よくそんなことを言う。あれ、そんな約束したっけ?



「別れ際にしてましたよ」



 そういえばそうだった。



「あぁ、えっと……名前は?」


「俺はアル」


「わ、私はフェリアです」



 フェリアは確か……あぁ、怯えながら僕に質問してきた子だっけ。あの時とは違って頭から生えている兎耳の毛は奇麗に手入れがされている。



「お姉ちゃんも魔法使えるの?」


「リク様に教えてもらったから使える」



 アイナまでいるのか。

 まあなんかやる気に満ちてるみたいだし、さっさと始めてあげよう。



「後はお願いしていいですか?」


「えぇ。大丈夫ですよ」



 ラエル王女を見送った僕は授業を開始した。





「ちょっと待って兄ちゃん。その一番弟子って俺らと歳変わらないのか?」


「孤児だから正確には分からないらしいんだけど見た感じ一緒じゃないかな、多分」



 一通り教えて皆の体力が限界に近づいたので、僕の身の上話をみんなに聞かせていた所、ゼルたちの話でアルが食いついたのだ。



「……俺らとどっちが強い?」


「いやいや、向こうは元冒険者だよ?」


「で、でも師匠も私のこと凄いって……」



 耳が元気無さげにぺこりと折れる。



「いや、確かに凄いのは本当なんだけどさ」



 とは言うものの、少ししたらいい勝負になる気がする。

 この子達、思ったよりも実力が付くのが早かった。特にアルとフェリアは優秀だった。アルはすぐに剣に青い光を纏わせ、物凄い勢いで攻撃を繰り出してきた。フェリアの方も王女姉妹に負けず劣らずといった感じで、すぐに魔法を習得していた。こんな才能に恵まれた子をあんなところに閉じ込めていたとは、あの貴族も見る目がない。

 かと言って、それだけで冒険者業を幼いころからやっていたあの4人の経験をそれだけでひっくり返せるかと言われれば微妙なところだと思う。



「兄ちゃんはいつ次の街に行くんだ?」


「う~ん、この城の兵士全員にアルたちにやったことをやったらかな」


「じゃあその時に兄ちゃんの一番弟子のところに連れて行ってくれよ! それまでに勝てるようになるからさ!」



 なぜそこまで張り合うのか。隣でやる気に満ちた表情をしているフェリアはもちろん一緒に行く気なのだろう。



「じゃあゼルたちの許可が取れたらね」



 なんか弟子のところに面倒ごとを持っていくようで気が進まないけれど、これはこれでいい経験になりそうな気もするので、別に悪いことばかりと言う訳ではないと思う。



「リク、終わりましたか?」



 ポケットからエリンが顔を出す。



「あぁ、終わったよ。どうかしたの?」


「リクがデルガンダ王国に持って行った魔物について分かったことがあるようなので連れて行って欲しいとラエル王女が」


「……?」



 なぜこのタイミングでその情報が入ってくるのか。というか随分早い報告だな。ギルドマスターはきちんと睡眠をとっているのだろうか。



「ラエル王女が契約している精霊が教えてくれました」



 精霊って離れてても意思疎通できるんだ。



「この世界では離れていても精霊界を通せばこれぐらいは出来ます」



 ナチュラルに心を読むと周りの人の頭にはてなマークが沢山浮かぶので止めて欲しい。

 取り敢えずデルガンダ王国に向かおう。丁度いいからゼルたちにアルたちのことも話してみるとしよう。アルたちの勢い的に模擬戦になることもありそうだし、そのあたりも説明しなければ。

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