第17話 天才魔法使い、後処理に奔走する

 久しぶりに体を動かして戦って少し疲れたので、その日はアイラの作ってくれたフルーツやデザートをつまみながら一日のんびりと過ごした。

 その翌日。



「申し訳ないのですけど、そこに名前を書いてもらえませんか?」


「あっ、はい」



 この光景、少し前に見たことがある。机の向こうに国のトップ。机の上にある書類の内容もどこかで見たことがある……というかデルガンダ王国の物とまんま同じだ。



「これ返しておきますね」



 そう言ってラエル王女は僕にデルガンダ王国と結んだ条約の書類を差し出した。そういえば貸してたな。完全に存在忘れてた。



「これで2か国制覇ですね」



 ポケットから顔を出したエリンがそんなことを言う。何かその言い方、僕が支配してるみたいで嫌なんだけど。



「それはそうと、これからどうするんですか?」



 さっきの制覇の話流すんですね。エリンがこの国のこと言ってるって分かってます?(失礼)



「えーっと、ギルドの方に魔物を持って行こうかと」



 ラエル王女がコテンと首を傾げる。



「何のためにですか?」


「それは――」



 うん? デルガンダ王国の陛下からの手紙に何も書いてなかったのかな? ちょっと行って聞いてこようかな。



「エリン、デルガンダ王国まで転移できる?」


「出来ますよ」



 ……絶対旅の道中では使わないでおこう。



「すみません、事情は後で話します」


「デルガンダ王国まで行くのならご一緒しますよ? 久しぶりに陛下や王子とお話しするのも悪くないですし。ねぇ、リエル?」


「ソ、ソウデスネ」



 あぁ、マルクス王子が目的か。



「護衛の兵士とかはいいんですか?」


「リクがいれば問題ないと思うんですが、建前として何人か連れて行かせてもらいます」



 自国の兵士を建前って言うのはやめた方がいいと思います。僕に対する兵士たちの目線が鋭いものになることがあるかもしれないので。



「では、僕は皆を起こしに行くので少し待ってもらっていいですか?」


「分かりました。私たちも準備がありますので、そうですね……10時頃にここに集合ということにしましょうか」





「と、言った感じでして。突然で申し訳ないです」



 僕らは今、初めてデルガンダ王国で陛下とあった場所にいる。転移魔法でデルガンダ王国の近くまで移動、姿を変えて城の前まで歩き、そこで姿を元に戻したのだ。



「リク殿は相変わらずじゃな」



 ちょっと待って、相変わらずって何? 僕今までこんなことしたっけ?



「主様の行動はいつでも突拍子もないということじゃろう」



 納得いかない。皆が納得顔なのがさらに納得いかない。



「突然リクとストビー王国の王女が来たと聞いた時は驚いたな。またリクの魔法か?」


「いえ、エリンのお陰です」



 僕らが街を歩く間、ポケットの中に入っていたエリンが出てきて僕の肩に乗る。



「そちらは?」


「精霊王です。……エリン、何かいつもより魔力持ってかれてる気がするんだけど」


「あの森から離れているので。こればっかりはどうしようもないです」



 あぁ、なるほど。ならエリンが精霊界に戻ればいいのでは? と思わないこともなかったが、何を言い返されるのか何となく想像がついたので僕は口に出さなかった。



「ならば引っ込んでおればよいのではないか、のう、羽虫?」


「誰のお陰でここまでこれたと思っているのですか、変態脳筋トカゲ?」



 口に出さなくてよかった。

 バチバチと火花が散る二人をアイラとルカが宥める。本当に助かります。

 周りにいる人たちは冷や汗をかいていた。



「いつものことなので気にしないで下さい」


「エンシェントドラゴンと精霊王の喧嘩か……」


「心臓に悪いですね……」



 国のトップ二人の心臓を脅かすのが僕の連れとは……。何故本人ではなく僕がこんな申し訳ない気持ちにならなければならないのか。



「マ、マルクス王子、お久しぶりです」


「お久しぶりです、リエル様」


「きょ、今日はお日柄もよく――」



 何かあそこの二人見てると微笑ましくなるな。特にリエル様の頑張っている姿が。邪魔しないようにしておこう。



「それで、リク殿は何をしにここに?」


「実はですね――」



 僕はストビー王国であったことを簡単に説明した。



「黒い霧か……ドラゴンの時と同じだな」


「黒い霧? 何の話ですか?」


「陛下、ラエル王女への手紙には書いてなかったんですか?」


「あぁ、裏に国レベルのものが付いていると分かった時点でデルガンダ王国とギルドだけで事を進めることにしていたのじゃ」



 なるほど。……ラエル王女は連れてくるべきじゃなかったか。



「襲われた時点でストビー王国が裏にいるということはないじゃろうがな」


「つまり私たちを信用してなかったと?」グイッ



 ラエル王女が陛下に言い詰める。



「そ、それは――」



 陛下も大変そうだな。

 国のトップ同士での話もあるだろうし僕は少し席をはずそう。決してマルクス王子とリエル様のほんわかとした雰囲気と、ラエル王女に言い詰められる陛下が近くにいたせいでその場にいるのがしんどかった訳ではない。



「ギルドマスターに持ってきた魔物の死骸渡しに行ってきます」


「毎度毎度すまないな。城の兵士に呼びに行くよう伝えてこう」


「ありがとうございます」





「はぁ」


「その……すみません」



 ギルドマスターと僕らはこの前、僕がガノード島から持ち帰ったものを調査していたのと同じ場所に来ていた。

 ギルドマスターの溜息は僕が仕事を持ってきたことに対するものだろう。



「いや、謝る必要はない。ただ、我々が全力で調査しても何の収穫もないのに、こうも簡単にとなるとやりきれなくてな……」



 少し落ち込んだ様子のギルドマスターにルカが優しく声を掛ける。



「だから言ったでしょ? お兄ちゃんと話すときは――」


「あぁ、常識を捨てるんじゃったな」



 その考えがすでに非常識だ。普通に失礼極まりない接し方である。

 無駄話も程々に回収しておいた何体かのヒュドラの死体をアイテムボックスから出した。



「これはまた随分と大きいヒュドラじゃな」



 言われてみれば確かにシエラが持ってきたのよりもでかい気がする。



「ああ、そうだ。このヒュドラ、頭の中に何かあるみたいなのでそれの調査もお願いします」


「何か、とは?」



 あれ、向こうのギルドマスターから話を聞いているんじゃ……。いや、あの位置からじゃ何があったのかいまいち分からないか。あの後すぐこっちに来たし、何か凄い騒ぎになって大変そうだったし。

 僕はデルガンダ王国のギルドマスターにあったことを詳細に話した。



「魔法の無効化か……。お主がおらんかったらあの国は詰んでおったな」


「魔法の無効化がなくてもリクがいなかったら終わってた気がしますけどね」


「あんなの主様無しで対応できるわけないのじゃ」


「でもシエラとエリンがいれば割と何とかなりそうだったよね」



 そんな僕の言葉をアイラとルカが否定する。



「リク様がいなかったら二人はあんなところにいなかった」


「結局お兄ちゃんいないと滅んでたことに変わりないよね」



 言われてみればそうとも言えるかもしれない。



「では、後はこちらでやっておこう」


「少ししたらまた差し入れ持ってきますね。エリンの影響で最近アイラが甘いものを作る練習をしているので期待しといて下さい」



 アイラ任せだが、そこは許してほしい。



「リク様のお陰で素材と調理器具が一級品だからそれなりの物は作れると思う」


「ああ、楽しみにしておくよ」



 アイラのお料理スキルは日に日に向上していた。ヒュドラの大群を相手にした日には既にストビー王国の城で出されたスイーツを完コピ出来るぐらいには上達している。

 ……差し入れついでに僕の分も作ってもらおう。

 さてと。目的は果たした訳だし、結果が出るまで数日は掛かるだろう。取り敢えずラエル王女にいつストビー王国に戻るか確認しに行くとしよう。

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