第05話 天才魔法使い、城に連行される
さて、ようやく出発だ。といっても、目的地までは一時間かからないと思う。そのぐらいの距離までシエラに乗ってきたのだ。
結局昨日はあの後もう一度テントを作り直して、エリンは僕の枕の横で寝ることになった。気を使ったのか、アイラは僕の布団へは入ってこなかった。
僕らは準備を終え歩き出した。
「リク、そのコート改造してもいいですか?」
唐突な言葉に驚く。この精霊は一体何を言っているのか。多分コートの装飾ではないことは分かる。改造ってなんか怖いんですけど。
「お兄ちゃんの挙動に対する私たちの気持ちっていつもそんな感じだよ?」
「理解が追い付かないとそうなる」
「主様、嫌なら断ればよいと思うのじゃ」
何かそう言われると言い返しずらいな。
「改造ってどうするの?」
「簡単に言うと、ポケットの中を私の部屋にします」
簡単すぎて逆に分からない。
「私の力でリクのコートのポケットの中の空間を広げて部屋を作ります。その方が何かと便利かと思います。そこの脳筋トカゲに襲われることもないでしょうし」
「そんなことするわけなかろう。お主が余計なことをしなければな」
二人の間に火花が散る。
二人とも、もう少し大人しくしていてくれないものか。せめて喧嘩をするのなら僕の肩から降りて欲しい。
「ちょっと待て主様。なぜ妾も悪いことになっておるもとはと言えば――」
「何を一人でぶつぶつと話しているのですか?」
エリンがコテンと首をかしげる。
「シエラさんはお兄ちゃんの心の声が聞けるんだよ」
「……羨ましい」
アイラさん? 冗談でも羨ましいとか言うのは止めて欲しい。僕からしたら迷惑でしかないのだが。
「……変態脳筋トカゲ?」
なんかグレードアップした。
「」イラッ
「シエラ、取り敢えず落ち着こうか。エリンもあんまり挑発するようなことはしないでくれると助かるんだけど」
「そ、そうじゃな。こんな羽虫の言葉、耳を傾けるほどでもないのじゃ」
「リクがそう言うのならこの変態脳筋トカゲに文句を言うのも今は控えます」
二人とも僕の話聞いてた? これ話逸らさないと終わりそうにないな。
「エリン、改造するのはいいけど、どうするの?」
「普通に街まで歩いていてください。到着するまでには終わると思います」
そう言うとエリンは上半身を僕のポケットの中に突っ込み、少しもぞもぞとしてからスッと全身が入る。ポケットが全く膨らんでいないから何かしらしたのだろう。
「精霊ってすごいんだね」
「リク様ほどじゃないけど驚いた」
「一応精霊王らしいしの」
「「「え?」」」
「聞いておらんかったのかや?」
初耳なんですけど。いや、一人だけ言葉話せてるから何かあるだろうなとは思ったけども。
☆
街が見えてきた頃、ポケットの中からエリンが出てきた。
「お待たせしました」
「エリン、シエラから精霊王だって聞いたんだけど」
「えぇ、そうですよ」
そんな当たり前みたいな返しされてもなぁ。でも今更だしいいか。考えるのが面倒になったのは内緒だ。
この街では僕らの顔を知っている人もそんなにいないだろうし、普通に観光が出来る……。そう考えていた時期が僕にもあった。
「リク様ですね?」
「いえ、違います」
「あの……そちらの方はルカ様ですよね?」
くっ。こんな特徴的な姿をしたルカを違うとは言えない。というかルカが王族で顔が広いの忘れてた。
「ねぇ、今失礼なこと考えなかった?」
「気のせいじゃないかな」
思わず目を逸らしてしまった。
「王女様から連れてくるように申し付けられています」
「あっ、はい」
僕らはそのまま通行料すら払うことなく城へ案内されるがままに歩いた。それを見たこの国の人たちは不思議そうな顔をしている。この街の観光はまだ大丈夫かもしれない。
街をパッと見た感じ、人間が少ない気がする。ほとんどがアイラと同じ獣人や、見たことのない種族である。
「この街はそういう街だから」
アイラの知っている風な言葉に少し首を傾げたが、アイラは獣人なわけだしこの国出身なのかもしれない。奴隷商人の話だとあまりいい思い出はなさそうなので聞かないでおこう。アイラが嫌そうならこの国をすぐに出ることも吝かではない。
そういえばこの間ルカがこの国の王女を知ってるみたいな言い方してたな。会う前に聞いておこう。
「ねぇ、ルカ。この国のお姫様ってどんな人なの?」
「何というか……いろいろ知りたい人?」
間で少し考える仕草をした後にコテンと首を傾げながらルカが教えてくれる。が、ごめん、ちょっと分からない。
「知識欲が強いって言ったら分かりやすい」
なるほど。アイラの言葉でルカが何を言いたかったのか分かった。ルカの辞書に言葉が少ないのだろうか。随分と不憫そうである。
「知識欲?」
「色々なものを知りたいという欲求のことです」
「そうそう、それが言いたかったの!」
「妾は美味しい料理さえ出してくれれば文句はないぞ」
一人だけ明らかに視点が違う。もっとこう……旅全体を楽しんでくれないのだろうか。
「それはどうでしょうね。あの子はそういう方向には興味なさそうですから」
「あれ、エリンは知ってるの?」
「えぇ。あの子は100年にわたって執拗に私たち精霊に契約をしてくれと迫ってきていたらしいのです。私たち精霊は感情には敏感なので悪意がないことは分かったのですが、あまりの執念に距離を置いていたのです。ですが、その執念に折れた一体の妖精が彼女と契約を結んだのです」
らしいということはエリンがいない間の話かな。ということは以前エリンには契約をしていた人間がいたのだろう。まぁ、もしこの予測が当たってても会った時の状態で何となく察しは付くから聞かないけど。
というか100年って凄いな。どんだけ精霊好きなんだよ。でもまぁ話を聞く限りでは確かにシエラが望む方向に興味はなさそうである。シエラがあからさまにガッカリする。もう少し料理以外に興味を持って欲しいものである。
というか姫様何歳? かなりお年を召した方のようだけれども。
「着きました。それと、そちらの精霊は一体……」
正直に話して面倒なことになってはあれなのでルカに黙っててもらうようにお願いしてもらった。なんか質問した兵士やその周りの兵士が神妙な顔で分かりました見たいな反応してたけど、対した事情は特にない。
大きな扉の前で案内をしてくれた兵士にそんな声を掛けられた。なんか緊張してきたな。デルガンダ王国の時はルカがいたから多少は緊張せずに済んだけれど、やはり権力者の前というのは緊張するものである。
「寧ろ緊張しておるのは向こうではないのか?」
「お兄ちゃんだからねぇ」
「粗相を働けば国が滅ぶ」
滅びません。
「大丈夫ですよ。緊張するような相手ではありません。いい意味でも悪い意味でも」
エリンの言葉に首を傾げていると扉が少しずつ開かれた。
慌てて近くの兵士の人に聞く。
「あの、僕ら棒立ちのままですけどいいんですか?」
「姫様はそういうところは気にしないので大丈夫だと思いますよ」
結構フレンドリーな姫様らしい。扉が開かれた先の階段の上の玉座に女性が座っていた。その姿を見て僕は驚いた。エリンに100年精霊の追っかけをしていたと聞いたのでもっとお年を召した方と思っていたのだが、そんなことはなかった。
というか僕らと同じ種族じゃない。
「あれは……」
「お兄ちゃんほんと世間のこと知らないよね」
田舎者だからね。その辺は勘弁して欲しい。
「あの人の種族はエルフ」
アイラが手短に説明をしてくれた。金髪碧眼の王女様はスッと立ち上がると、僕の目の前まで物凄い勢いで飛び込んできた。物凄く鼻息が荒い。あと物凄く顔が近い。エリンと違って体の大きさも人間の大人と変わらないので恐怖すら感じる。
「ま、魔力について詳しく聞きたいのですが!」
僕の緊張の糸は一気に吹き飛んだ。
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