第04話 天才魔法使い、契約をする

「奇麗……」



 神秘的な光に包まれた不思議な空間に僕らは息を呑んだ。周りの精霊たちが中央へと向かって行く。

 最初に僕らのところへ来た精霊に服を引っ張られそこへと行くと、ずいぶんと顔色の悪い黒髪長髪の精霊が横になっていた。顔色が悪いというかやつれてる? 小ささのせいか、その大人びた雰囲気に違和感がある。



「騒がしいですよ。何かあったのですか?」



 しゃべる精霊本当にいたんだ。

 精霊たちが僕の方を指さしたり頭上をくるくる飛んだりしてこちらを見るように促す。皆元気いいな。



「人間? なぜこんなところ……に……」



 僕の方を見て目を見開いたその精霊は僕の目の前まで物凄い速さで飛んできた。



「うおっ」


「あの……、お名前を聞いても?」


「リ、リクですけど」



 え、何? なんで黙り込んだの?



「右手を出してもらえませんか?」


「は、はぁ」



 僕の右手に平を眺めて満足そうな表情をした後、裏返した手の甲に何やら力を籠めだし、魔法陣が現れた。が、すぐにスッと消える。



「なにこれ?」



 いい加減説明してもらわないと全く分からないんですけど。さっき魔法陣何? 何か魔力を吸われているような気がするんだけど。



「精霊は契約した人間から魔力を受け続けないと人間の世界を自由に行動できないのです」


「えっと、じゃあこれは……」


「契約の魔法陣です。私の名前はエリンです。よろしくお願いします」



 契約って僕の意思関係ないの? 無理やり過ぎない?



「おい、羽虫。勝手なことをするでない」


「誰かと思えばいつかの脳筋トカゲじゃないですか」



 脳筋トカゲという言葉に笑いを堪えた3人が頬をピクピクとさせる。脳筋トカゲって。なんか物凄くセンスのある言葉だな。今度タイミングがあったら使おう。

 いや今はそうじゃないよね。



「なんかすごい無理やりだね」


「ルカもそう変わらない」


「それは……そうかもしれないけど」



 そういえばそんなこともあったね。



「それで契約したらどうなるの?」


「膨大な魔力を持っているリクの魔法を私の力でさらに強化することが出来ます」


「……その逆ってできる?」


「できますけど、そんなことしてどうするんですか?」



 おぉ。ということはエリンに任せれば魔法の手加減とか簡単じゃん。



「ちょっと待て羽虫。お主何故主様が強い魔力を持っていることを知っておる」



 確かに。シエラのそんな問いかけにエリンは首をかしげながら答える。



「精霊だからだけど?」


「その顔答える気ないじゃろ! では質問を変える。お主の仲間の一匹が主様に会ったことがあると言っておったがどういうことじゃ?」


「見間違えたんじゃないですか?」



 あぁ、これ何か知ってるな。答える気なさそうだし言いたくないのなら聞かないけども。



「それでさっきよろしくとか言ってたけど着いて来るの?」


「はい。リクから魔力を貰えれば人間の食料は必要ありませんし、体も小さいので邪魔にもならないと思います。強いて言えば甘いものが好きです」



 最後のは僕に対する要求なのか? それはともかく、食料が必要ないのか。僕はチラリとシエラの方を見た。



「な、何じゃ!」


「いや、何でもない」



 いや、本当に他意はない。多分。

 それはともかくどうしよう。シエラと四六時中喧嘩とか勘弁して欲しいんだけど。



「リクがダメと言っても無理やりにでもついて行きますけどね。どんな敵が来てもお守りしますよ」



 重い。そうだ、一つ聞いておこう。別に実際に実行しようとしてるわけじゃなく、一応知っといたら何かの時に使う機会があるかもしれないし(言い訳)。



「この契約解除する方法は――」


「ないです」


「いやでも――」


「ないです」


「いやいや、流石に方法の一つぐらい――」 


「ないです」



 この子こっわ。何だこの謎の気迫。無理やりついて来るとか言ってるし、置いていくわけにもいかないかぁ。



「リク様、眠い」


「私も……ふわぁ」



 そういえばもうこんな時間か。



「ここから出るのってどうすればいいの?」


「少し待っててください」



 エリンは他の精霊のところへ行き、何やら話を聞いた後こちらへと戻ってきた。



「何してたの?」


「リクたちがいた場所の位置を聞いてきました。私は位置と方向が分かれば転移する魔法が使えるので」



 おぉ、凄い。



「じゃあお願いできる?」


「お任せください」



 エリンが僕の肩に座って頬を緩める。何か懐かしんでいるような、そんな表情だった。

 エリンが力を籠めると、足元に魔法陣が浮かび上がる。それを見た途端、シエラが焦り始める。シエラだけ魔法陣の中に入っていなかったのだ。



「お、おい、羽虫! ちょっと待――」



 魔法陣が輝き、それが収まった時には僕らは森に入る前にいた位置にいた。

 森の向こうからドラゴンの咆哮が聞こえる。



「ねぇ、お兄ちゃん、これって……」


「シエラだね、多分」



 目印として空に光を灯しておこう。飛べば分かるだろう。



「それは魔法……ですか? 一体どういう仕組みで……」


「あぁ、それは――」





「一人でそこまで辿り着いたのですか。流石はガレ……リクですね」



 ガレ? ……まぁいいや。



「その言い方だと他にもわかっている人がいるみたいだけど……」


「私たち精霊はリクが魔力と呼ぶものの流れに敏感なのです」


「へぇ。それじゃあ人間に教えることもできたんじゃない?」


「いえ、そのことを伝えても人が感知できるかは別の話ですから」



 そういえば皆僕が魔力流して無理やり感知させたんだっけ。

 目をこすりながら頭でそんなことを考える。布団に潜りながら話していたので眠気がピークだ。アイラとルカはすでに寝てしまった。



「ごめん、そろそろ眠いから……」


「すみません、長話をしてしまって」


「別に気にしてないよ。精霊の話なんて初めてで面白かったし。また今度聞かせてよ」



 魔法陣の仕組みとか気になるし。シエラのスキル的な何かと同じように使えないような気はするけど。後できれば僕のことを何で知ってたのかとか。まぁ、後者は無理に聞く気はないけど。



「はい、是非」


「じゃあ、おやす――」


ドスンッ!



 なんか物凄い地響きが……。



「な、何!?」


「今のリク様?」


「違う」



 なぜ僕のせいだと思ったのか。……あえて聞かないでおこう。

 僕の作ったテントの扉がすごい勢いで開けらた。そこには額に血管を浮かべたシエラの姿があった。完全に忘れてた。いや、シエラさん、そんな顔でこっち見ないで。眠かったせいだから。取り敢えず目印にしておいた光は消しておこう。



「おい、羽虫! 何のつもりじゃ! それにそこは妾の場所じゃ、今すぐどくのじゃ!」


「……」


「聞いておるのか!」


「……」


「どけと言っておるのじゃ!」


「……すぅ」



 シエラの言葉からしばらく間が空き、エリンから聞こえてきたのは寝息だった。



「」イラッ



 シエラの体が光を纏い変化し始める。



「シ、シエラさん、テント壊れちゃうから!」


「シエラ、お座り」



 アイラさん寝ぼけてます?

 砂煙が上がった後、エリンが何事もなかったかのように僕の肩にちょこんと座る。

 そこら辺に散らばっているテントの土の破片や汚れた寝具と、シエラとエリンの視線のぶつかり合いを見ながら僕はこの先にとてつもない不安を感じた。

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