第06話 天才魔法使い、資料を持ち帰る
『お主ら、妾が頑張っておるのに背中の上で昼寝とは何事じゃ!』
「いや、お日様が気持ちよくてさ……」
「いい天気……」
「物凄い眠気が……」
3人でシエラの背中に乗ってウトウトしていると、シエラから文句が飛んできた。
悪いとは思っているけど、こんな状況で起きていろと言われても厳しい。こちとらアイラの美味しいご飯で満腹の状態で温かいお日様の光を全身に浴びているのだ。
『それは妾も同じなのじゃ!』
「そうなんだけどさぁ……」
「なら私たちが寝る前に大陸に着けばいい」
「いや、それは流石にシエラさんでも無理じゃない? お兄ちゃんじゃあるまいし」
『くっ、言いたい放題じゃな』
シエラが今まで以上のスピードを出す。だが、僕の結界のお陰で風圧は全く来ないので状況は変わらない。僕はおもむろに枕をアイテムボックスから取り出して横になった。
「リク様、私も欲しい」
「お兄ちゃん、私も~」
「はいはい」
今、シエラの速度がさらに上がったのは気のせいか。それならそれでいいんだけども。
「シエラ、着いたら街から少し離れたところに降りてね。お城に迷惑かけちゃうから」
『お主ら、今に見ておれよ……』
シエラのスピードがぐんぐん上がっていく。
☆
『主様……はぁはぁ、着いたぞ』
「へ?」
いや、まだ明るいんですけど。だが間違いなく着いている。少し離れたところに王都が見えている。
「アイラ、ルカ、着いたぞ」
「ん。……一日たった?」
「あぁ、それで明るいんだね」
二人を抱えて地上へと降りる。
「そんなわけ……、なかろう。妾が本気を出せば……、こんなものよ」
人の姿へと変化したシエラが胸を張って言う。随分と息が切れているのは本当に本気で頑張ったからだろう。
「シエラ偉い。今日のご飯大盛りにしてあげる」
「流石アイラじゃ。分っておるのじゃ」
え? これまでのやつ大盛りじゃなかったの? というか大盛りのレベル超えてた気がするんだけど。
「腹八分目と言うじゃろ?」
「あれで腹八分だったの!?」
ルカが驚きの声を上げる。アイラとシエラが当たり前のように話すから僕だけがおかしいのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「妾の胃は人間と違って頑丈なのじゃ」
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど……」
頑丈とかそういうレベルじゃないよね。
☆
「こっ、これはリク様!」
「え、いや、僕に様なんて付けなくても」
「いえ、陛下からリク様は自分たちと同じように扱えと言われておりまして」
え? 何それ聞いてないんだけど。
「ま、お兄ちゃんがやったこと考えたらそうなるよね」
「この国の英雄」
「それに加えて国を亡ぼせるレベルの魔法使いじゃしな」
取扱注意の爆弾みたいな扱いをされているのは気のせいだろうか。
「今すぐ陛下に報告して参ります!」
「いえ、別にいいですよ。そんな急ぎの用じゃないですし。それより通行料を――」
「それは必要ありません。自分たちの英雄にそんなことさせたらこの国の地位が下がりますよ」
いや、そんなことはないと思うんだけど。
「私とシエラは?」
「お二人も同様です」
「やったねお兄ちゃん! この国では顔パスだね!」
「屋台とか行っても顔パスでご飯貰えそう」
ただ飯ぐらいとかいう不名誉な称号が付いてきそうな行為だな。そんなことを気にせず、アイラの言葉に全力で食いつくものが一人。……一匹?
「なにっ! それはまことか!」
「シエラ、一人で街出歩くの禁止ね。二人とも、一緒に行くときはシエラが迷惑になるぐらい食べ過ぎないように監視しといてくれる?」
「「了解」」
シエラが一人で街を回ったら街中のものを食べ尽くしそうで怖い。僕の分が無くなるのは困る。……違うそうじゃない。人に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
「妾今日頑張ったのに……」
「今日の晩御飯は腹十分目まで食べていいから」
「仕方ないのじゃ。それで勘弁してやろう」
「シエラさん、涎」
「汚い」
まだ明るいんだけど夜まで持つのかな。シエラが落ち着いたのを確認してから僕らは街に入った。取り敢えずはギルドを目指そう。
「くっ。急いで後悔することになるとは予想外じゃ。夜まで時間がありすぎるのじゃ!」
「しょうがないから暇つぶしにトランプをしてあげる」
「ふふふ。ルカ相手なら仮面がなくても勝てるのじゃ」
「私もシエラ相手なら仮面なくても勝てるもん」
だろうね。ルカとシエラの間にバチバチと火花が散る。随分と平和な火花である。
「リク様、何か人が集まってきた」
「へ?」
☆
ギルドに着いてすぐ、僕らは応接室に通された。こういう時顔パスというのは便利なものである。
ギルドまで普通に歩けば10分そこいらで着くのに1時間かかってしまった。シエラがバクバク食べるからこれでもかとばかりに食べ物が出てきた。仕舞いにはシエラを満腹にさせようとムキになっているものもいた。もういっそのこと空飛んで移動しようかな。
そんなことを考えているとギルドマスターがやってきた。
「急にすみません」
「それはよいがお主、確かガノード島に行ったのではなかったのか?」
「行きましたよ?」
「ここ出たの昨日じゃったよな?」
「そうですね」
何を当たり前のことを言っているのか。
「お兄ちゃん相手に常識で考えてると凄く疲れると思うの」
「……そうじゃな」
そうじゃな、じゃないよ。僕は普通に会話をしているだけなのに……。
「ほら、シエラがいるから」
「妾でも普通なら三日はかかるのじゃ」
「リク様の魔法のお陰」
「お兄ちゃんは普通じゃないの。分かった?」
「あっ、はい」
確かによく考えればおかしかったかもしれない。船で行こうとしたら一週間以上かかるんだっけ? うん。僕の感覚がちょっとだけずれてた。
(主様のちょっとって物凄く範囲広そうじゃな)
「そ、それで用というのはなんじゃ」
危ない。話がずれすぎて趣旨を忘れるところだった。
「実はガノード島に行ったときに――」
僕はガノード島で見つけた船と変な基地を見つけたことを伝えた。
「では儂たちもガノード島に向かわねばならんな」
「あぁ、そこにあった物ならお兄ちゃんのアイテムボックスに全部入ってるよ?」
「は? ……そうじゃった。お主と話すときは常識を捨てるのじゃったな」
その接し方は物凄く失礼だと思う。というかドラゴンの一件で僕のアイテムボックスのことは知ってるはずなんだけどな。
「では広い場所へ行くとしよう。と、言ってもお主がいつか持ってきたドラゴンを解体した場所じゃが」
ギルドマスターが立とうとして動きが止まる。
「悪いが城の研究員が来るまで待ってもらってもよいか?」
「それなら直接お城に持って行った方が早くない? あそこの方が広いところあるし」
「確かにそうじゃな。事が事じゃし陛下も許可してくださるじゃろう」
そんなわけで城に向かうことになった。ギルド所属の研究員も一緒だ。
「よし、飛ぼう」
「ねぇ、お兄ちゃん。何言ってんの?」
皆がこいつ何言ってんだみたいな感じの目を向けてくる。いや、そのままの意味なんですけど。
「いや、僕らって歩くとめちゃくちゃ時間かかるじゃん?」
「妾はそれでも良いのじゃ」
「それでリク様、飛ぶって何?」
教えるより見た方が早いだろう。そう思って魔法で全員を浮かせた。
「ちょちょちょちょ、お兄ちゃん!?」
「お、お主! いったい何を」
「すみません、少しだけ我慢してください」
宙に浮いた皆が怯えた素振りを見せる。もっと具体的に言えば空中で手足をバタバタさせている。
重力魔法。魔力を使って物や人の重さを変化させる魔法だ。尚、適当に再現しているのでこれが正しいかは分からない。
魔法で軽くして風魔法でその方向に飛ばす。この風魔法というのが少々厄介なのである。重力魔法の方は限界まで軽くすればいいから手加減なんていらないが、こちらは少し手加減を間違えると遥か彼方まで飛んでいく。
「あ、主様? わ、妾は自分で飛んでいきたいんじゃが……」
「多分大丈夫」
「全然安心出来ないんじゃが!?」
「え? 何? どういうこと?」
「シエラ、リク様何考えてた?」
「それが――」
「では進みまーす」
シエラの声を遮って進行の合図を取る。知らない方がいいこともあると思う。
ふわりと空中に浮きあがり、そのまま城の方に向かって進む。なんか下からの視線が物凄い気がするが、そんなことを気にしている場合ではない。一応全員にバフ系の魔法をかけているので、何かの間違いで遥か彼方に飛んで行っても死ぬことはないと思う。
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