第15話 冒険者、修行を始める

「あれ? 二人が朝早いなんて珍しいね」


「いつもなかなか、起きない、のに」



 ゼルとヴァンが朝早くから起きている。いつもなら私たちが起こしてもなかなか起きないんだけど。



「修行が楽しみで目が覚めたんだよ」


「ドラゴン倒せるような師匠だぜ? 少しでも早く修行したいんだよ」



 すごいやる気である。最も、そのやる気は私たちも同じだったりするのだが。師匠が起きてくる前に朝食の分の食料を調達することにした。





 食料調達も終わり、師匠たちのテントの前で待機していた。出てきた師匠にあいさつをしてからアイラの朝ご飯の準備を手伝う。師匠を驚かせてしまったが、昨日から楽しみでしょうがなかったのだ。これくらいは許してほしい。



「ゼナとユニはそのくらい魔力を集められれば十分かな。他の3人は魔力がまだ弱い」


「この魔力を火の球に……」


「私は光の球を……」


「魔力がうまく動かせない……」


「くっそ、ゼナもユニも上達速すぎるんだよ……」


「リク様、コツとか無い?」


「う~ん、無いと思うよ。しいて言うなら慣れることかな?」



 朝食を終えた私たちは師匠のもと、修行をしていた。少し練習してみて初めて分かったことがある。昨日、師匠が当たり前のように私たちの体に流していた魔力。あの量と速さはちょっとやそっと修行した程度で流せるようになるものではない。師匠は3年前に魔法の練習を始めたと言っていたが、私は3年であのレベルに達する自信はない。



「師匠! あれ!」



 ヴァンが指さした方を見るとそこにはオーガがいた。人型で青色の体に角が二つ。魔法が効きにくく、膂力に優れるあの魔物はBランク冒険者でも苦戦することもあるらしい。こんなところに出るような魔物ではないのだが……。



「アイラ、あれ食べられる?」


「食べてる人見たことない」


「まぁ、見た目的にも食べたくないし当たり前か」



 師匠? 今その情報いります? 師匠が人差し指を上に向けて振り下ろす。次の瞬間、オーガに雷が落ちる。そこには魔石しか残っていなかった。



「し、師匠。ドラゴンに魔法使わなかったのってもしかして……」


「食べられたからだけど。魔法使ったら痛んじゃうし」



 ゼルの質問に師匠が答える。多分痛んじゃうっていうよりなくなっちゃうの方が正しいんじゃないかと思う。……私たちの思っていた以上に師匠はすごい人なのかもしれない。昼食は朝食の残りを食べた。朝、多めに食料をとっておいたのだ。





「アイラ、あれって食べられないよね?」


「オークを食べるという話は聞かない。オークを狩った冒険者が持ってくるのは魔石ぐらい」



 道を歩いていた私たちに視界にオークが入ってきた。師匠が一人で終わらそうとしていたが、私たちに任せてもらった。師匠に任せていたら確実に倒せるだろうが、私たちだって強くなりたいのだ。師匠の実力を見せられて、そう思わされた。私たちは孤児院のためのお金目的で冒険者を始めたが、師匠に会ってからは純粋に強くなりたいとも思うようになってきた。有体に言えば憧れたのだ。





「やりました! 師匠!」



 血まみれのゼルを師匠が魔法で洗い流して乾かした。師匠は魔法を使うとき、私たちのように状況に合わせて必要な魔法を選ぶのではなく、状況に合わせて必要な魔法を作っている。アイラの言う通り才能の無駄遣いと言えるが、逆を言えば無駄遣いできるほどの才能があるということだ。歩きながらふと思ったことを師匠に聞いてみた。



「師匠って身振り無しでも魔法を使えるんじゃないですか?」



 雷を落としているということは上空に魔力を集めているということだ。指を上に向けるくらいで大きく変わるようなものではないと思ったのだ。



「あぁ、ほら。魔法ってさ。イメージしないと使いにくいじゃん?」



 師匠に教わった方法では、魔力を火に変換するときは火をイメージしてから、その通りに変換しようとする。確かにイメージしやすいのなら何かしらのジェスチャーがあった方がいいのかもしれない。

 その日は途中で野宿となった。勿論、夕食の食料は私たちがとりに行った。その間に師匠は魔法でテントを作ってくれた。距離的に考えて、明日は村に着くだろう。その村を過ぎると王都まで村はなかったはずだ。





 翌日も朝早く4人で食料調達に行き、師匠のテントの前で待機していた。昨日と同じく朝食を食べてから修行を開始した。が、すぐに師匠から声が掛かる。



「ユニ、オークと戦ったときに使った魔法見せてくれない?」



 あれは確か身体強化の魔法だったはず。ユニが魔法をゼルにかける。



「ヴァン、ちょっとこっち来て」



 なるほどと手をたたいた後、師匠はヴァンに両手を向けた。ヴァンの体が光に包まれ、やがて収まっていく。師匠に思いっきりジャンプしてみてと言われて首をかしげながらヴァンがジャンプをする。



「あああああああああああああああああ」


「「「「え?」」」」



 目の前からヴァンが消える。声がする方に視線を向けると、ヴァンがありえない高さから落ちてくる。落ちる直前に師匠が風を起こし、ヴァンが着地する。



「ごめんごめん、ちょっと強くしすぎた」



 ちょっとってなんだろう……。



「今のって私が見せたのと同じ魔法、ですか?」


「そうだよ」



 師匠、全く同じに見えないんですけど。そんな衝撃を受けた後、昨日と変わらない修行内容だ。ただひたすらに魔力を集めて変換する練習。



「ゼナ、杖を使って魔法使ってみて?」


「は、はい」



 師匠に言われた通りに杖を使う。杖は魔法の威力を上げるもの。私にはその程度の認識しかなかった。師匠に説明されるまでは。



「こ、これは……」



 うっすらとだが杖に魔力が流れていくのがわかる。今まで何も考えずに使っていたから驚いた。唖然としている私とそれを見て不思議そうにしているユニに、師匠が説明をしてくれた。杖を使わないみんなも聞き耳を立てている。



「杖にそんな意味が……」


「師匠は自分以外の魔力も、感知できるん、ですか?」


「できるよ。どうやってって言われたら困るけど」



 その理由はなんとなく分かる。師匠のお陰で自分の中の魔力を感知できるようにはなったが、本当にうっすらとだ。自分の中の魔力すらうっすらとしか感じられないのに、外側の魔力なんて感知できるはずがない。それを師匠に説明した。



「逆にうっすら感じられるようになったのなら、慣れればもっと細かく感知できるようになるんじゃない?」



 確かに。もっと修行を重ねればもしかしたら……。師匠との話もほどほどに私は修行に戻る。いつか師匠みたいに、自分の思うがままに魔法を操ることができるようになるのだろうか。





「おぉ、村だ」



 師匠のテンションが少し高い。何でも旅を始めてから、初めての村らしい。そういえば、私たちと会った初日の夜、「これが野宿……」なんてことも言っていた。私たちの知っている野宿とは比べるのもおこがましいくらい快適なもので、これは野宿とは言わない。と、4人とも思ったが師匠の楽しそうな顔を見てそれを口に出せる者はいなかった。

 私たちは、少しテンションの上がっている師匠と一緒に村に入った。

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