第13話 天才魔法使い、旅路に就く

 朝早く王都を出て、しばらく歩いていると狼みたいな魔物が出てきた。たしか弟子4人組がブラッドウルフって言ってたかな。



「お兄ちゃん! 私がやる!」


「アイラ、あれ食べれるやつ?」


「食べれるけど、あんまり美味しくない」



 ならルカに任せるか。ルカが詠唱を始めている間にブラッドウルフが襲ってくる。僕は魔法を使って土を変形させ、魔物を雁字搦めにする。ルカが魔法を放ち、ブラッドウルフの体中に切り傷ができる。ルカは火と風の魔法と相性がいいらしく、それらの練習をしている。無詠唱ではまだ発動できないが。親が優秀なら子も優秀と言う訳ではないようだ。

 ちなみに僕は、属性の適正と言われても使おうと思えば大体使えることもあり、あまりよく理解出来なかった。



「あ、あれ?」


「威力が足りてない。私がやる」



 倒せてはいないがかなりの威力が出ている。アイラが手から火の球を飛ばす。こちらは無詠唱だ。二人とも杖のお陰でそれなりの威力が出ている。雁字搦めにされた状態で体中に切り傷を付けられ、炎で焼かれるブラッドウルフの姿は見るに堪えないものだった。



「これは……」


「……」


「ごめん、やり過ぎた」



 アイラは杖を使っての魔法が初めてだったので、威力の調整が上手くできなかったようだ。結構いい杖らしく、なかなかの威力になっていた。まぁ、いつかみたいに魔物が全くでないって事もなさそうだし大丈夫かな。ルカはあまりの光景に言葉が出てきていない。ルカの魔法だけでもかなり酷い状態だったのだが。

 さっきの魔物の遺体を魔法で土に埋めていると周りに同じ魔物が大勢やってくる。二人には荷が重そうだったので、雷で魔石にした。



「魔法使えるようになってからお兄ちゃんの異常さがよく分かった気がする」


「私もリク様が私に使った回復魔法がどのくらい凄いのか今ならよく分かる」



 褒めてくれてるんだろうけど、異常っていう表現はやめていただきたい。なんというか、あんまり嬉しくない。昼食は運悪く僕らの前に出てきてしまった兎にした。

 昼食の後、二人の魔法の練習代わりに出てくる魔物を倒しながらただただ歩いた。結構歩いたのだが、まったく文句を言わないルカに僕は少し感心していた。

 日が落ちてきた頃、暗くなると危ないので早めに休むことにした。



「美味しい……」


「リク様が調味料買ってくれたおかげ」


「城の料理長にもレシピ教えてもらってたしね」



 たまにいなくなることはあったがわざわざそんな事までしてたのか。今度デルガンダ王国に戻った時には、料理長に何かお礼をしなくては。

 夕食を終えた僕らは寝床の準備を始めた。



「ねぇ、お兄ちゃん」


「ん?」


「私の想像してた旅と違うんだけど」



 僕が作った土でできたドーム状のテント(?)の中でルカが話しかけてくる。



「テントは使わないの?」


「これも一応テントのつもりなんだけど」


「それはさすがに無理があるんじゃ――」


「文句があるなら外で寝ればいい」


「いや、うん。やっぱり何でもない」



 弟子4人組にテントは見せてもらったことはあるが、快適ならそれに越したことはないと思うんだ。



「ねぇ」


「ん?」


「なんでお兄ちゃんとアイラが同じ布団で寝てるの?」



 現在、ルカにはアイラのために買った布団を使ってもらっている。旅の途中、アイラは自分の布団を使わず僕の方に来ていたのでほぼ新品だ。そもそも布団は二つしかない。一応ルカの分も買おうとしたのだが、アイラに要らないと言われてやめたのだ。



「布団が二つしかないから仕方ない」


「ならアイラが私のところに来ればいいじゃない」



 確かに。ひと悶着した後、布団を並べて川の字で寝ることになった。真ん中は僕だ。……狭い。あと掛け布団が二枚しかないから、二人が寝相で離れていくと少し寒くなる。次、どこかの村か街に着いたら布団をあと1セット買おう。そんなことを考えながら眠りについた。





 そんな生活が三日続いた時だった。ルカの話だとあと1日くらい歩けばストビー王国との国境に差し当たるらしい。ルカが地図を把握してくれているのはすごく助かる。次の街に着いたら布団と一緒に地図でも買おう。デルガンダ王国とストビー王国は親交が深いらしく、入国審査もさほど厳しくないらしい。審査はちゃんとした道でしかやっていないらしいが、周りは森で囲まれていて魔物も強いらしく、密入国は命がけなんだそう。



「お兄ちゃんなら密入国ぐらい楽勝だねっ!」



 ルカがこんなことを言う。自分の国の国境だぞ? ちょっとは警戒とか心配しろよ。確かに楽勝かもしれないがそんな犯罪に手を染めるつもりはない。そんな話をしている時だった。



「リク様、あれ……」



 アイラが指さした方から赤いドラゴンがやってくる。……いや、あれは血か? ドラゴンが操られていたのを最近知ったせいか、凄く嫌な予感がする。先に攻撃されたら二人を守りながらになるし面倒だな。そう思って攻撃を仕掛けようとした時だった。



『落ち着くのじゃ、弱き人の子よ』



 頭の中に女性の声が響く。ルカとアイラにも聞こえたらしく、あたふたしている。確かギルドマスターが人の言葉を話せるドラゴンがいるって言ってたような……。状況的に見てあの血まみれドラゴンかな?



『人間にしては察しが良いのじゃな』



 うわっ、心の中読まれた。気持ち悪い……。さっきのはルカとアイラには聞こえてないらしく、不思議そうな顔でこちらを見ている。二言しか聞いていないが、凄く人間を見下しているのは分かった。



『人間、妾にここらで最も人が多い街を教えるのじゃ』



 なんだこいつ。上から目線過ぎてなんかうざい。というかちょっと待て。ここらへんで人が多いって言ったらさっきまでいた王都じゃん。嫌な予感しかしないんですけど。



「理由を教えてくれたらいいよ」



 理由によってはここでチュドンすることも吝かではない。



『チュドン? ……まぁよい。妾を見ても怯えんとは珍しい人間じゃ。よかろう。どの道同胞が来るまでは待たねばならんからな』



 隣を見るとルカとアイラが座り込んで震えていた。二人には悪いが、このドラゴンの話が先だ。ドラゴンはゆっくりと説明を始める。

 ドラゴン曰く、ガノード島では約100匹の成竜とそれ以外の下級竜が3000匹ほどいるらしい。普段は海の魔物を食べて生活をしていて、逆に海の魔物に食べられることもあるそう。……その魔物絶対普通のサイズじゃないよね? 後で聞いてみよう。それで竜が数を減らすことはあるのだが、ある時から下級竜が今までにない勢いで数を減らしだしたらしい。そのうち、成竜まで少しずつ姿を消しだしたという。そしてある時、消えたはずの竜たちが急に現れ、同胞に牙をむいた。他の竜に押さえつけられた竜は次々と敵に変化し、襲ってきたという。



『同胞だけなら残った妾たちにでも倒せたはずだったのじゃ』



 話によれば島にはいなかったはずの、見たこともない黒い霧を纏ったドラゴンがいたらしい。黒い炎を吐き、一匹一匹が成竜と変わらない力を持っていたとか。このドラゴンは不利な状況になり、いったん引いてきたらしい。後ろから5、60匹のドラゴンが飛んでくる。エンシェントドラゴンが待つと言っていた他のドラゴンだろう。

 多分だが王都で見た例の鉄の棒を下級竜に刺していき、勢力が集まったところで成竜にも少しずつ手を出し始めたというところだろう。ドラゴンを襲っていたということは僕が倒したドラゴンがたまたま人間を狙うように命令されていただけで、操っている何かは自由に命令ができるとかありそうだ。なんて冷静に考えていたのだが、次の言葉で背筋が凍る。



『わが同胞を操っていた奴は負の感情が必要と言っておった。十中八九、人が集まっておるところを狙うじゃろう』


「お兄ちゃん」


「リク様」



 ルカとアイラが不安げな表情で僕を呼ぶ。



「君たちの目的はそいつらを倒すってこと?」


『そうじゃ』



 へぇ。ドラゴンに両手の平を向ける。僕はドラゴンの傷を魔法で治した。血の下からは白銀の鱗が現れる。が、今は緊急事態だ。そんなことを気にしている暇はない。ついでに僕にできる限りの身体強化などのバフ系の魔法も僕とエンシェントドラゴン達に全力でかけた。



「二人とも僕につかまって」


『こ、これは……』


「付いてきてください」



 それだけ言って、全力でバフ系の魔法をかけた状態で思い切り空を駆ける。さっき聞いた数が既に王都に入り込んでいたりしたら、王都を無傷で守り切る自信はない。このドラゴンたちの力はあっても損はないだろう。焦る気持ちを抑えつつ、僕は先を急いだ。

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