変化

和泉は自分でも、相手に対して言葉が足りないと思っている。

悪気はないのだが、それが相手を不快にさせるのか、怖がらせるのか、とにかくよくないなとは気付いていた。

ただ、自分はあまり会話が得意ではないし、声を上げて笑うことも苦手だ。

積極的に改善しようとする気は起きなかった。


だが、有希に対してはちゃんと笑えているようだ。

有希に言われて、改めて意識してみることにした。


「和泉課長、回覧お願いします。こちらに置いておきますね。」


他部署の女性社員が回覧書類を持ってきた。

いつもならパソコンからちらりと視線を外してそちらを見るか、発しても「ああ。」という言葉だけのところを、「ありがとう」と言ってみた。


「!!!」


女性社員はあからさまに驚いた表情で、ペコリと頭を下げて帰って行く。

この言動が合っているのかわからなかったが、その答えはすぐに知ることになった。


革命が起きた!

あの和泉課長が「ありがとう」と言った!

天変地異か!?


そんな噂が瞬く間に広がったからだ。


給湯室で有希に、「ほらね」といった感じでクスクス笑われた。

別に嫌な感じはしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る