コミュ障
久しぶりに総務部へ顔を出すと、変わらないメンバーが笑顔で出迎えてくれた。
おしゃべり好きな同僚が、興味津々とばかりに聞いてくる。
「和泉課長どう?怖くない?」
「全然怖くないですよ。優しいです。」
「優しいとかありえないし。」
どれだけ怖がられているんだと、有希は苦笑いする。
「岡崎さん、和泉課長に気に入られてるんじゃない?」
「ええっ!まさかっ!」
茶化してくる同僚に、有希は手をぶんぶんと振る。
それなら嬉しいけど、そんな素振りはない。
いたって普通。
会話もほとんどない。
「気に入られてると思うよ~。」
そう話に入ってきたのは、総務部の課長だ。
「人事部の加勢へ岡崎さんを指名してきたのは和泉課長だからね。もしかして前から知り合いだった?」
「知り合いっていうか、うーん、どうなんでしょう?」
「ええっ!岡崎さん、何かすごい!」
同僚が盛り上がる中、課長が「さ、仕事して」と釘を指してきたので、その話はそこで終わりになった。
人事部へ指名したのは和泉課長。
何でだろう?
入社して3年。
仕事で関わったことは一度もない。
だとすると、あの面接の時のことを覚えてくれているのだろうか。
だけど名前も内定が出たことも知らないはず。
じゃあ、どうして?
有希は悶々とする思いを抱えながら、人事部へ戻って行った。
来客に出したコーヒーカップを片付けに給湯室へ行くと、和泉がいた。
腕組みをし壁に持たれ掛かって目を閉じている。
横を見やればバリスタでコーヒーを作っているところだった。
もしかして寝てる…?
そう思って給湯室へ入るのを躊躇っていると、ふと目を開けた和泉と目が合う。
「ああ、すまない。」
「いえ、お疲れですか?」
少し横にずれて有希が入りやすいようにしてくれる。
カップを流しに置きながら尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「ちょっとサボっていただけだ。」
「サボって…って!えっ!」
和泉に似合わない「サボる」という言葉が、まさかの本人の口から出てきて、有希はカップを落としそうになった。
「和泉課長がサボるとか似合わなさすぎます。」
クスクス笑うと、和泉は眼鏡をくいっと上げて反論する。
「俺を何だと思っている?」
「えっと、真面目を絵にかいたような方でしょうか。」
「…コミュ障だからな。よくそう言われる。」
「コミュ障!」
有希は失礼ながらも笑い転げてしまった。
和泉の口から「サボる」と出てきただけでも驚いたのに、まさかの「コミュ障」とは。
有希が笑っていると和泉の眉間にシワが寄った。
「ごめんなさい。意外すぎて。でも、こうして普通に会話ができるので、和泉課長はコミュ障なんかじゃないですよ。」
有希が言うと、
「相手が岡崎だからな。」
と、何でもないように言った。
そ、それはどういう意味でしょうか。
和泉課長、心臓に悪い~。
有希は頬が熱くなるのを隠すようにコーヒーカップを洗った。
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