鬼夜姫

「結婚してください」

「嫌だ」


私には好きな人がいた。

一目ぼれだった。

彼の凛々しい瞳が好きになった。

彼の総髪姿がキラキラしていた。

彼の鍛え抜かれた肉体の虜になった。

彼の強さに憧れた。

彼の子供に優しいところに惹かれた。

彼の理想に惹かれた。

彼の苦難に濡れた。

彼の絶望に興奮した。


「なんで…」

「お前、自分がやったことが分かっているのか?お前なんて、人じゃない。このろくでなしが。ああ、そうだよな、お前は人間じゃなかったよな。吸血鬼だ。しかも、ド外道の貴畜族だ。噂じゃ、不倫のすえに生まれた忌子らしいな。だから人の心が分からないんだろう?このごみくずが。お前なんて生まれてこなければ良かったってきっと淫売の母親も―――」


私には好きな人がいた。

人の目は悲惨だった。

子供はたくさんくくりたかった。

炉はドロドロしていた。

死は絶望を、私に喜びを。

ただ、蛇は許されなかった。

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愛の短編集 二葉マキナ @futabax

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