第49話

「いきなりなんだよ……てか、どうせそれって早乙女目当てだろ?」


「そんなのやってみないとわからにだろ!」


「いや、結果は目に見えてる」


 そんな事より、俺は背後から感じる黒い気配が怖くて仕方ないんだが……。

 振り向いたら持ってる箸で刺してきたりしないよな?

 そんな事を考えながら、俺は恐る恐る正面に向き直り、隣の席の高石の顔を見る。


「へぇ~合コンかぁ~よかったね」


 メッチャ笑顔だった、でも目は一切笑って無い!

 怖い!

 なんだこの表情!

 怒ってるの!?

 それとも笑ってるの!?


「ちなみに向井田君、誘ってきた女子って何組の誰?」


 ヤバイ、俺ではなく相手の特定が始まったぞ!

 絶対何かする気だろ!!

 

「わ、分かったから、お前はとりあえず森に帰れ」


「俺を何だと思ってるんだ!?」


「それで、あんたらさっきまで何をしてたの?」


 そう尋ねてきたのは早乙女だった。

 事情を知っている早乙女が心配そうな目で俺を見てくる。

 強も居るので聞くに聞けないのだろう。


「あ、あぁ……何でも無いよ」


「……そう」


 早乙女は何かを察してくれたのか、俺の顔を見て哀れみの視線を向けてきた。

 

「そんな事より、合コンだろ! 合コンだぞ! 王様ゲームだぞ!」


「強、お前の合コンのイメージは王様ゲームなのか……」


 そもそも俺は行くとは一言も言ってないんだが……。

 それよりも俺は、この二人の問題を早々に片付けて平和な学園生活を送りたい……。





 いろいろあったお昼が終わり、午後のレクリエーションが始まった。

 午後のオリエンテーションは班ごとでは無くクラスごとだ。

 クラス対抗で全員リレーをするらしい。


「てか、なんで最後が全員リレーなんだよ……」


「知らねーよ……あれじゃねーの? クラスの団結力を強くする為みたいな」


「はぁ……折角のメイクが汗で落ちちゃうわ」


 ブツブツ文句を言っていると、体育教師の先生がマイクを使って俺たちにルールの説明を始めた。

 合宿場近くにあるグランドは一週200メートル。

 クラスで一人半周を走り、先にアンカーがゴールしたクラスの優勝らしい。

 

「なお、優勝賞品もあるから楽しみにしておくように!」


「賞品ってなんですか-!」


 誰かが先生にそんな質問を投げかける。

 俺もそれが気になっていた。

 宝探しの時は何でも願いが叶う券だったが今回はなんだろうか?


「良い質問だ! 先生が自費出版したこの『筋肉と教育』という本を優勝したクラス全員にプレゼントしよう!」


 いらねー。

 恐らくこの場に居る生徒全員がそう思ったろう。

 てか、自費出版って……絶対売れ残った在庫を押しつけてるだけだろ……。


「えぇ~まぁ、優勝賞品はあれだけど……頑張りなさい!」


 俺たちの担任である御影先生もなんだか微妙そうな顔でそんな事を言っていた。

 教師にも不人気らしいな、あの賞品。


「じゃあ走る順番を決めましょうか」


 そう言い始めたのはクラス委員長の棚山香歩(たなやま かほ)さんだ。

 黒髪ロングの真面目な女子生徒。

 確か勉強もかなり出来たと思う。


「適当に出席番号とかでいんじゃね?」


「おい、そんな事になったらアンカーは誰だと思う?」


「え? ………あっ」


 俺の一言で強を含めたクラスの全員が気がついたらしい。

 出席番号で走ったときにアンカーになるのは、出席番号の一番後ろの人、つまり………。

「…………頑張る」


「「「「いやいやいやいや」」」」」


 そう、出席番号の一番後ろの人物、それは八島だ。

 頑張ると意気込む八島に対して、クラスメイトが一斉に首を横に振る。


「八島さんがアンカーは流石にな……」


「俺は八島はバトンが来る前に寝そうな気がする」


「木川……酷い………」


「もう、面倒だから適当に決めようぜ!」


 結局俺たちの走る順は適当に決まった。

 結局アンカーはイケメンサッカー部員の森下君になった。

 

「ねぇねぇ、木川君」


「ん? 高石? なんだ?」


 準備運動をしていると、運動着姿の高石が俺の元にやってきた。


「あのさ、このレースで私が一人でもランナーを抜けたら、私のお願い聞いてくれる?」


「お断りします」


「えぇ~そこは良いよって言ってよ~」


「お前は何をお願いしてくるか分からないから嫌だ。それに、お前は昨日の券持ってるだろ?」


「あぁ、あれ? あれはこのレースの後に使う予定だから」


「そうなのか? 一体何をお願いしたんだ? ま、まさかと思うが……俺絡みじゃないよな?」


「ふふふ~どうだろうねぇ~」


「な、何をする気だ! お、お前絶対にやめろよ!?」


「大丈夫だよ~、木川君が困ることはしないから~」


「ストーキングされてる時点で十分困ってるんだが……」


「まぁまぁ、とにかく楽しみにしててね。あと一人抜いたら私の事ぎゅーってしてね!」


「おい! さり気に約束を取り付けるな!」


「じゃあ、私最初の方だから~!」


「あ、おいコラ!」


 高石はそう言って、リレーの列に並んでしまった。

 高石の奴、一体何を願うつもりなのだろうか?

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