第40話

 俺が高石に何を言ったか、それを聞けば強は多分俺を殺しに掛かってくるだろう。

 だから俺は最初に言っておくことにした。


「俺とお前は友達だ、だから絶対殺さないでくれ」


「きゅ、急になんだよ……そもそも、俺がそんなサイコパスみたいな真似をする訳が無いだろ?」


「それ、昨日の事を思い出しながら同じ事が言えるのか?」


 そんな話しをしている間に班の女子達がこちらにやってきた。


「おはよう」


「お、おう……おはよう」


「おはよう! 高石さん」


「おはよう、よく眠れた?」


 高石の言葉に俺たちは順番に答える。

 俺は高石と目を合わせることが出来ず、目を反らして出来るだけ高石と離れていた。


「あらん?」


「ん? どうしたんだ? 早乙女?」


「いえ……なんか……やっぱり何でもないわ」


「ん? 変な早乙女だな……」


「年がら年中変な強ちゃんよりマシよ」


「なんだとこらぁ!?」


 早乙女はそう言って、俺と高石を交互に見ていた。

 どうやらバカな強は気がつかないようだが、早乙女は気がついたようだ……。


「ねぇ……」


 そんな事を俺が考えていると、いつの間にか高石が俺の隣に来ていた。


「うぉっ! た、高石……」


 俺は思わず飛び跳ね、高石から離れる。

 それを見て、高石は笑いながら俺に話しかける。


「うふふ、どうしたの? そんなに驚いて……」


「べ、別に……」


「そんなに緊張しなくても良いのに」


 違う、この感情は緊張なんて生やさしいものではない。

 この感情は恐怖に近い気がする。

 俺がそんな事を考えていると、高石は俺の耳元に向かってそっと語りかける。


「そう言えば、今朝は早くから八島さんと何を話していたの?」


「っ!?」


 俺は思わず息を呑んだ。

 まさかあの時間にあの場所に高石も居たのか!?

 こいつ………もしかして朝から俺の行動を監視してたってことか?


「あ、あぁ……た、高石も居たのか? 居たなら言ってくれれば……」


「うふふ………それじゃあ尾行がバレちゃうでしょ?」


 それはストーキングでは?

 なんて事を俺は考えながら、高石から離れる。


「あのさ……昨日の事なんだけど……」


「うふふ……分かってるわよ……なるべく誰にも言わないわ……二人だけの秘密よ……ダーリン」


 俺はそう言われた瞬間、背筋を何かが這うような感覚が走った。

 そう、昨日のあの湖で俺は期間限定ではあるが、高石と付き合うことにした。

 高石には、まだ高石の事を知らないからお試しで一週間付き合うと言ったが、本当は違う。

 高石のストーキングをやめさせる為、高石に嫌われる為に一週間付き合うことにしたのだ。

 あのまま普通に断ったら、なんだか危険な感じがしたし、八島との関係を言いふらされても厄介だった。

 だから俺は高石に嫌われ、興味を無くされる為に高石と一週間だけ付き合うことにしたのだ。


「それで、何を話していたの?」


「え? べ、別に大した話しじゃないよ……ただの世間話し」


「そう………一応言っておくけど……私もやきもちは焼くのよ?」


「あ、あぁ……」


 女子にヤキモチを焼かれてここまでドキドキしないのは何故だろう。

 まぁ、逆を言えばストーカーにヤキモチを焼かれてもドキドキはしないか……。


「はーい、それではラジオ体操を始めまーす!!」


 先生のかけ声と共にラジオ体操の音楽が流れてきた。

 俺たちは等間隔ひ広がり、ラジオ体操をし始める。


「ふあぁ~あ……体が動かねーよ……」


「強ちゃん、全然体操になってないわよ」


「うぉっ! 早乙女! ケツ触るな!!」


「うふふ、可愛いお尻だったから」


「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ……おい琉唯、お前からもなんか言ってやれよ」


「え? あ、あぁ……悪い聞いてなかった……」


「なんだ? お前も寝不足か? まぁ、気持ちは分かるぜ」


「あ、あぁ……そうだよな……」


「寝不足ねぇ……」


 ラジオ体操が終わった後はこの後の流れを聞き、また班行動で朝食を作ることになっていた。


「琉唯、野菜切ったぜ」


「………」


「ん? おい琉唯!」


「え? あ、あぁ……悪い……」


「どうした? なんかぼーっとしてないか? 具合でも悪いのか?」


「いや……別になんでも無い……野菜は切ったら盛り付けてくれ」


「あぁ、具合悪いなら言えよ?」


「あぁ、大丈夫だって……」


「なら、私が付いててあげるわ」


 そう言って、スープを作る俺の前に高石がやってきた。

 

「あ、高石さん! 悪いねぇ、こいつ変に頑固なところがあるからさぁ~」


「へぇ~そうなんだ、結構以外だね」


「じゃあ、ここは琉唯と高石さんに任せるわ、俺たちは飲み物とサラダとパンの準備するから」


 そう言って強は行ってしまった。

 正直、高石と二人という状況には恐怖しか感じない。


「うふふ、別に具合が悪いわけじゃないんでしょ?」


「良く分かるな」


「うん、だって彼女だもん」


 彼女……。

 この言葉を女の子から言われたら男子は嬉しいのだろうが、俺は全然嬉しくなかった。

 だって、こいつ俺のストーカーだし。

 ストーカーからそんな事を言われても怖いだけだよ!

 てか助けて強し!!

 今はバカなお前でも居てくれた方がマシなんだ!!

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