第39話


 翌朝、俺はいつもよりも早くに目が覚めてしまった。

 寝なれない寝袋で寝たからというのもあるのだろうが、俺にはそれ以上に眠りを妨げる理由があった。

 それは昨日の高石からの告白だった。

 

「はぁ……」


 なんであんなことを言ってしまったのだろうか……。

 俺は後悔しながら、テントを出て顔を洗いに水場に向かう。


「ふあ~あ………ん?」


「……あ……」


「なんだ、八島ももう起きてたのか、珍しいな……」


「ん……」


 

 顔を洗いに行った水場には八島が居た。

 いつもは俺に起こされないと起きないくせに、なんでこう言うときだけ早いんだか……。

「眠れなかったのか?」


「……ちがう………なんか………目……覚めた……」


「あぁ、環境が違うからか? 俺もなんか目が覚めちまってさぁ~」


 俺は顔を洗いながら、八島にそう言う。

 思えば、こいつと話すようになってまだ一ヶ月も経ってないんだよなぁ……。

 なんか、何年も前から一緒に居る気がする……。


「お前大丈夫か? テントで裸にならなかっただろうな?」


「ん……大丈夫……」


「そうか、なら部屋でも脱ぐな」


「それは無理……」


「なんでだよ!」


 なんで部屋では全裸でキャンプではちゃんと服を着るんだか……。

 俺にはさっぱり分からない。


「にしても、お前って早起き出来たんだな」


「ん……窮屈で早く……起きた」


 窮屈?

 あぁ、いつもは全裸で寝てるから感じないが、今回は服を着ていて寝苦しかったのか?

 やっぱりこいつには服を着て寝て貰った方が良いのかもしれない、だって朝も早く起きるし……。


「そうかよ……あぁ~さっぱりした」


「ん………木川」


「ん? なんだ?」


「………千鶴と何かあった?」


「え?」


 なんで八島がそんな事を聞いてくるのだろうか?

 まさか、昨日の夜の事を高石から聞いたのか?


「なんでだ?」


 俺は探るように八島にそう尋ねる。

 ここで『昨日の話しを聞いたのか?』なんて言って、八島が知らなかったら、俺が高石に脅されているのがバレて責任を感じてしまうかもしれない……。


「ん……宝探しの途中から、なんか木川……様子が変だった……千鶴と何か話した後だったから……何かあったのかと思って……」


「あぁ……そ、そういうことか・・・・・・」


 どうやら昨日の夜の話しは知らないらしい。 俺はほっと胸をなで下ろし、八島に言う。


「別に俺はいつも通りだぞ?」


「そう………私・・・・・・昨日色々……迷惑……掛けた」


 昨日か……昨日どころじゃないと思ってるのは俺だけだろうか?

 まぁでも……俺も八島との関係がクラスの男共にバレたくなくてやってるし、別に八島のためってだけじゃないだがな……。


「気にするなとは言わん、とりあえず家でも服は着ろ」


「それは無理」


「だからなんでだよ!! そいうとこだぞ!!」


 ただでさえ八島は立派な物を胸にぶら下げてるんだから、少しは自重してほしい。

 健全な高校生男子には本当に目に毒だ。


「ねぇ……」


「今度はなんだよ」


 俺がそう言うと八島は俺の服の裾をつまみ、俺の目を見て話してきた。


「………いつもありがとう」


「え? お、おう……」


 なんだ?

 いきなりなんでお礼を言われたのだろうか?

 てか、なんか八島の頬が少し赤いような?


「………気づいた………私がどれだけ……木川を頼ってるか……」


「そ、そうか……」


「だから………ありがとう」


 なんか本当の事でもこうして改めて言われると恥ずかしい……。

 俺が照れていると八島は更に言葉を続ける。

「………これからも頼む」


「おい、お前それが本音だろ」


「………」


「目を反らすな!」


「………木川が居てくれると……楽」


「おいコラ! さっきの俺の照れを返せ!! 結局はそう言うことか!!」


 なんかおかしいと思ったんだよ……。





「うーん………」


「おい、強! 早く起きろ!」


「うーん……もう少し……」


「そんな事を言ってると早乙女がキスするぞ」


「ん~~」


「起きた! 今起きた!!」


 惜しい、早乙女がもう少しでキスするところだったのに……。


「あら残念」


「はぁ……はぁ……死ぬところだった……」


「おい、それは早乙女に失礼だぞ」


「じゃあ、お前は早乙女とキス出来るのかよ!」


「いや、無理」


「あら、二人して酷いわねん」


 起きる時間になり、俺たちは寝袋から起き上がり、準備をしていた。

 朝は全員でラジオ体操をし、その後朝食を作るという流れになっている。

 一時間以上前から起きている俺はもう目が覚めているが、他の奴らは眠そうだ。


「ふあ~あ……なんでラジオ体操なんか……」


「そういう日程なんだから仕方ねーだろ」


「ラジオ体操なんて、小学校の夏休み以来ね」


「俺は行ったり行かなかったりだった気がする……」


 俺たち三人は話しをしながら、キャンプ場の広場に向かった。

 広場には既に多くの生徒が集まっていた。

 その中にはもちろん高石の姿もあり、俺はなんだか肩が重たくなってしまった。


「はぁ……」


「ん? どうした琉唯?」


「いや……強、頼みがあるんだが聞いてくれるか?」


「ん? いきなりどうした? お前が頼みって……」


「あぁ簡単なことだ……俺を殺さないでくれ……」


「いや、待て何があった」

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