第26話

「はぁ……結局こうなるのかよ……」


 俺は八島を待ちながらそんな事を考える。

 集合時間まであと三十分。

 八島を見捨てれば余裕で間に合うが、そういう訳にもいかない。


「おい、まだか?」


「ん、まだ……」


「早くしろよ」


 玄関先に座りながら、俺はスマホを弄って八島を待つ。

 裸族でマイペースな八島に、腐女子で俺や強の事をホモだと思ってる横川……はぁ……不安しかないな……。


「お待たせ……」


「よし! さっさと行くぞ!!」


「ん……」


 八島の準備が整ったのは、俺が八島を起こしてから15分ほどだった。

 俺たちのアパートから学校までは走って10分。

 なりふり構っていられない状況だ。


「ほら! しっかり走れ! 遅れちまう!!」


「ん……やっぱり眠い……」


「あぁ! くそ!! 良いから走れ!!」


 俺は八島の手を引っ張って学校に向かう。

 早くしないと遅れてしまう。

 俺は焦るあまり忘れていた。

 八島と手を繋いで一緒に登校しているという現状に……。


「はぁはぁ……やっとついた……」


「……すー……すー……」


「お前はいつまで寝てんだよ!!」


「あうっ! イタイ……」


「全く……」


 俺たちが学校に到着した頃には、学校の校庭で出発式が始まろうとしていた。

 時間ギリギリにやって来た俺たちはもちろん一番遅かった。

 もちろん二年生全員から注目され、先生達からも注目される。


「うっ……視線がイタイな……」


 俺は八島を連れて、そのまま自分のクラスの列に並ぶ。

 

「はぁ……災難だったな……」


「ん……木川」


「今度はなんだ?」


「……手……」


「え? あぁ、悪い悪い」


 俺は八島に言われ、先ほどまで八島と繋いでいた手を離す。

 そういえば俺、ずっとこいつと手を繋いできたのか……いや、手を繋いで来たってよりは引っ張って来たって感じだけど……。


「おい琉唯!」


 俺がそんな事を考えていると前に居た強がこっそり俺に話かけてきた。


「なんだよ?」


「なんだよじゃねーよ! なんでお前が八島さんと手を繋いで二人で登校してんだよ!!」


 やべっ! 

 遅刻しそうでそんな事全然考えてなかった!

 そうか、傍からみたらそう見えるのか……。

 軽率なことをしちまったなぁ……変に目立つのもいやだし、八島と変な噂が立つのも面倒だし……。


「いや、それは……」


「それはなんだよ! もしかしてお前ら……付き合って……」


「んなわけねぇだろ!」


「じゃあ、なんでお前と八島さんが一緒に手を繋いで登校ししてくるんだよ!!」


「いや、だから……」


 俺と強がそんな話をしていると担任の御影先生が俺たちのところにやって来た。

 

「二人とも! 静かになさい! 校長先生の話がつまらないのは分かるけど、形だけでも聞いてるふりをしなさい!」


「いや……先生こそ静かにしないと……校長に聞こえるんじゃ……」


「え?」


『えぇ……御影先生、あとで私のところへ……』


 前で話していた校長先生に御影先生はそう言われ、顔が青くなっていた。

 いや、注意するにしても静かな声でしろよ……悪いの俺たちだけど……。


「琉唯! あとで色々聞くからな!」


 強はそう言って正面に向き直った。

 はぁ……なんて説明しよう。

 しかも俺と強はバスの席も隣だし……。

 出発式が終わり、御影先生が校長先生に怒られた後、俺たちはバスに乗り込むことになった。


「んで、どういうことなんだ?」


「さっそくだな……」


 バスに乗った瞬間、強は俺にさっきの話しの続きを聞いてきた。


「私も気になるわぁ~、一体どういう事? 私というものがありながら!!」


「早乙女、誤解されるからやめてくれ……」


 そんな話を早乙女や強としていると、今度はクラスの女子たちが八島に質問を始めた。


「ねぇねぇ! 八島さんって木川君と付き合ってるの!?」


「今日一緒に登校してたよね? ねぇねぇなんで!?」


「そういえば二人って、たまに一緒にいたよね? もしかして結構前から付き合ってたの?」


 質問攻めされている八島を見るのはなんだか不思議な気分だ。

 いつも一人の八島の周りに人がいるのはいつもなら少し安心するのだが、今の状況ではハラハラしかしない。

 あいつ、絶対余計な事を言うよな……。


「ん……ごめん……眠いから……あとに……すー……」


「あ、あれ? 八島さん?」


「寝ちゃった、寝不足だったのかな?」


 よかった、八島は寝たようだ……。 

 これでひとまづは安心だな。

 安心していたのもつかの間、八島に質問攻めをしていた女子たちが俺の方に向き直った。


「じゃあ、木川君! どうなの? 付き合ってるの?」


「なんで一緒に来たの?」


「いつから付き合ってるの?」


「婚姻届けはいつ出すの?」


「付き合ってねーよ! 最後の奴に関しては、なんで色々吹っ飛ばして結婚することになってんだよ!」


 そんな女子達の質問の後、男子達が質問してきた。


「え? 木川と八島が? ……木川、海と山ってどっちが好きだ?」


「埋められるのと溺死するのどっちがいい?」


「撲殺でも良いぞ」


「殺す前提じゃねーか!! だから付き合ってねぇって!!」


 そんな男子達に強が一言。


「お前ら何考えてるんだ? そんな生ぬるい方法でどうする? 薬でじわじわ苦しませて殺すに限るだろ?」


「「「「なるほど!」」」」


「お前が一番怖いよ……」

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