第19話

「おい! 八島もう一回だ!!」


「ん……良いよ」


 悔しくも俺は八島に負けた悔しさで少しムキになってしまった。


「クソッ!! また負けた!」


「ムフー……」


 こいつ……強すぎる……俺はこのゲームは結構上手な方だと思っていた。

 ランクマッチだって、結構上位の方に居るし……。

 そんな俺をこんな簡単に倒すなんて……八島、こいつ何者なんだ?

 

「おい! もう一回だ!」


「来るが良い……小僧……」


 こいつ!!

 完全に俺を舐めてやがる!

 クソッ!

 意地でもこいつに勝ってやる!!


「また負けただと!?」


「ムフーン……」


「ねぇ……そろそろ変わってよー、私が退屈になってきちゃった……」


「待ってくれ上屋敷! 後一戦だけ頼む! 俺は……負ける訳にはいかないんだ!!」


「いや、別に勝つ理由なんてないんじゃ……」


「八島、もう一回だ!!」


「む……仕方ない……相手になろう……」


 結局そのあと俺は八島と10戦し、一回も勝つことが出来なかった。

 最早レベルが違う……。


「ま、負けた……八島……お前は一体……」


「……まだまだ……」


「ねぇー終わったぁ?」


 いつの間にか夢中になってしまい、上屋敷を放っておいてしまった。

 上屋敷は暇そうな顔でスマホを弄っていた。


「はぁ……もう、二人ばっかりずるいよ!」


「すまん……しかし、八島……お前一日どれくらいゲームするんだ?」


「ん……深夜に少し……」


「少しの量でそこまで上手くならないだろ!」


「……気にしない方が良い……負け犬」


「おい! 今負け犬って言ったよな!? この野郎ぉ……もう一回だ!!」


「あぁ!! もう! いい加減にしてよ! 私がひーまーだーよー!!」


 ついつい熱くなってしまった……。

 俺はコントローラーから手を離し時計を見る。

 一時間近くも俺は八島との対決に熱中していたらしい。

 時間を忘れてゲームをするなんて、いつ以来だろうか……。


「もう、このゲームはいいよ。他の皆で遊べるゲームとかないの?」


「ん? それなら……この人生ゲームSPはどうだ?」


 まぁ、タイトルの通り人生ゲームのテレビゲームバージョンなのだが、ボードゲームと違って片付ける面倒くささもないし、銀行役なんかも必要ないからな……。

 それに少人数でもコンピューターを加えてやれば、盛り上がるし。


「いいね! コントローラーも人数分あるし! 運の要素も強いし!」


「まぁ、さっきよりはな……」


 上屋敷はボロボロだったしな……。

 俺たちはさっそくゲームを開始した。

 元々は早乙女や強とやるために買ったものだが、まさか女子二人とやる事になるとは……。


「あ、さっそくイベントだな」


「えっと、入学イベントだね、どの高校に入学するか選ぶんだって」


 このゲームは生まれてから社会人、そのあとの結婚生活までを疑似体験出来るゲームだ。

 高校の入学イベントは、現在のパラメーターで決まるらしい。


「俺は……学力も体力も普通、財力も普通だから普通の高校か……」


「私は体力が高いからスポーツ推薦で行ける!」


「私は……学力高いから……進学校」


 みんな、高校進学までは良かった。

 しかし、高校に入学してからのイベントがこのゲームの鬼門だった。


「は!? 不良に絡まれてカツアゲされる? -10000円!?」


「うわ! 怪我をして大会に出られない!! 二回休み!?」


 まぁ、ここまでは良かった。

 普通のはずれマスに当たっただけだった。

 しかし……。


「はぁ!? お笑い芸人になる事を決意!? 高校を辞めて状況? 社会人ステージへ!?」


「へぇ!? 部活に身が入らずえ、援助交際!? 学力-20!?」


 いや、いきなりどうした俺のキャラ!!

 何があった!?

 今まで普通に生きてきただろ!

 なんて一人でゲームにツッコミを入れたくなるほど、突然の出来事だった。

 上屋敷のキャラも現在は学校を退学し、風俗で働いている……なんだこのゲーム。

 そんな中八島はというと……。


「む……一流大学に合格」


「何!?」


「む……研究が認められ、大手企業に就職……」


 順調に勝ち組の人生を歩んでいた。

 こいつ……運までもってやがる……。

 それと比べて上屋敷は……。


「え!? 子供が出来る? でも相手がわからず流産!? -20000円!?」


 なかなかに波乱の人生を送っていた。

 書く言う俺も……。


「はぁ!? バイト先で窃盗事件が発生? 犯人に疑われ警察署に連行? 三回休み!?」


 このゲーム……無駄にリアルだな……。

 まるでこの国の光と影を見ているようだ……。

 言うまでもないが、人生ゲームもやっぱり八島が勝った。

 最終的に八島は一流企業の社長にまで登り詰め、資産金は一兆円を超えた。

 対する俺はお笑い芸人になれず、定職にもつけず、結婚もできずの散々な人生になってしまった。

 上屋敷は結婚するも旦那のDVで死亡という、なんとも悲惨な結末で終わってしまった。

 いや、こんな人生嫌だわ……。


「……私、結婚は慎重にする……てか、しないかも……」


「落ち着け上屋敷! これはただのゲームだ! 気にするな!」


 しかし、俺も絶対にお笑い芸人は目指さないようにしようと、硬く心に決めた。

 ちゃんと就職しよう……。

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