第17話



「ん! 何これ! 美味しい!!」


「絶品……」


「それはどうも」


 あの後、俺は二人に見られながら晩飯を作り始めた。

 作っているときは上屋敷がジロジロ見てきて鬱陶しかったし、八島は八島でずっとテレビを見ていた。

 考えてみると……なんなんだこの状況……。 今は食事を作り終え、三人揃って飯を食べていた。

 この部屋に三人はやはり狭いな……。


「いやぁ~木川君は良いお嫁さんになるよ!」


「嫁にはいかねーよ!」


「ん……木川のご飯……カップ麺以上……」


「カップ麺に勝ててもな……」


「八島さんいつもこんな美味しいの食べてるの?」


「ん、うちのコックは優秀……」


「コックじゃねー!」


 食事を終えると、既に時間は20時近くになっていた。

 

「もうこんな時間か……」


「あ、私そろそろ帰らないと」


「そうか、なら送っていくわ」


「え? 良いよ、大丈夫だよ」


「良いから、帰り道に何かあっても後味悪いし……八島は風呂入ってろよ」


「ん……」


 俺は八島にそう言い、上屋敷と共に部屋を出た。

 

「もう真っ暗だな」


「いやぁ~ごめんねぇ~ご馳走になっちゃって」


「別に……ただもう一度だけ言うが……」


「分かってるよ、八島さんとの事は言わないから」


「助かる」


「でも、わざわざ送ってくれなくても良かったのに」


「もうこんな遅い時間だ、女子の一人歩きは危険だろ?」


「いや、私を襲う物好きなんて居ないって」


 ニコニコ笑いながらそう言う上屋敷。

 そんな上屋敷の言葉とは裏腹に、通り過ぎていく男性の視線はしっかりと上屋敷に向いていた。

 まぁ、こいつは性格こそちょっと残念だけど、普通に可愛いしな……。

 こいつはこう言ってるけど、多分襲われる確率は高いと思う。


「少しは自分の容姿に自覚を持て、お前結構可愛いんだから」


「またまたぁ~、褒めても何も出ないぞ~」


「はぁ? 別に本当の事を言っただけだぞ? そう言うことを不細工の前で言うなよ、嫌われるぞ?」


「え……う、うん」


「ん? どうした?」


「べ、べべ別に! 何でもない!!」


「ん? そうか……なら良いけど……」


 なんだこいつ?

 急に変なテンションになりやがって。

 その後、俺は上屋敷を自宅の目の前まで送って、自分の部屋に戻ってきた。


「ただいまぁ……」


「ん、おかえり」


「おう、なんだよ。まだテレビ見てたのか?」


「うん……どうせ明日も休み……」


「あんまり遅くまで起きるなよ」


「ん……わかった」


「じゃあ俺は風呂に………ってそうじゃねぇ!! お前も部屋に帰れよ!!」


 その後、結局八島は夜中の12時まで部屋に居座り続けた。

 




 私、上屋敷佐恵(かみやしきさえ)は自宅の自分の部屋で考え事をしていた。


「まさか木川君と八島さんがねぇ……あれって付き合うのも秒読みなんじゃない?」


 私は自分の部屋でそんな事を考えていた。

 でも……帰る時に感じたあの違和感はなんだろう?

 木川君に本当の事を言っただけだと言われた瞬間、少し私は胸に違和感を感じた。


「私が可愛い……か……ウフフ……って何笑ってるの私!?」


 可愛いと言われる事はたまにあるが、こんな気持ちになるのは始めてだ。

 なんでだろう……なんで木川君に可愛いって言われただけで、こんなに嬉しいんだろう……。





 翌日、八島の部屋の給湯器の修理は午前中ですべて終わった。

 これで八島が俺の部屋に来ることはもう無い。

 俺の平和な一人暮らしがやっと帰ってくる。

「なのに……」


「……」


 どうして八島は俺の部屋に居るんだ……。

 八島は俺のベッドに寝転がり、ゲームをしている。

 しかも朝っぱらからずっとだ。

 まぁ、俺も今日は朝からチャーシュー作ってるから、あまり気にならないんだが……。


「おい八島」


「ん?」


「なんでお前はここに居る? 給湯器も直っただろうが」


「ん……木川の家……居心地抜群」


「だからって居座るな」


「ん……木川……飲み物……」


「俺を使うな!」


 はぁ……さっさと帰ってくれないかな……。 女子と部屋で二人っきりって状況にも大分慣れちまったな……。


「ん、そろそろ飯か……八島、焼きそばとチャーハンどっが良い?」


「焼きそば……卵付き」


「あいよ……じゃねぇよ!! なんで俺がお前の昼食まで世話しなくちゃいけないんだよ!!」


「自分で聞いてきた……」


「そ、それはそうだが……あぁくそ! まぁ、いいや……」


 なんで俺はこいつの世話を焼いているんだか……やっぱりうちの両親に似てるからか?

 俺がそんな事を考えながら、冷蔵庫の食材をチェックしていると、部屋のインターホンが鳴った。


「ん? 誰だ?」


 この部屋を知って居るのは、強と早乙女。

 あとは上屋敷くらいだが?

 あ、もしかしたらこの前ネットで買った物が届いたか?

 

「はい?」

 

『あ、おーす! 私だぞぉ-!』


「……」


 インターホンの画面には、上屋敷の姿が写っていた。

 昨日の今日でまた来やがった。

 今日は一体何のようだ?

 俺はため息を吐きながら、上屋敷に尋ねる。

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