第17話
*
「ん! 何これ! 美味しい!!」
「絶品……」
「それはどうも」
あの後、俺は二人に見られながら晩飯を作り始めた。
作っているときは上屋敷がジロジロ見てきて鬱陶しかったし、八島は八島でずっとテレビを見ていた。
考えてみると……なんなんだこの状況……。 今は食事を作り終え、三人揃って飯を食べていた。
この部屋に三人はやはり狭いな……。
「いやぁ~木川君は良いお嫁さんになるよ!」
「嫁にはいかねーよ!」
「ん……木川のご飯……カップ麺以上……」
「カップ麺に勝ててもな……」
「八島さんいつもこんな美味しいの食べてるの?」
「ん、うちのコックは優秀……」
「コックじゃねー!」
食事を終えると、既に時間は20時近くになっていた。
「もうこんな時間か……」
「あ、私そろそろ帰らないと」
「そうか、なら送っていくわ」
「え? 良いよ、大丈夫だよ」
「良いから、帰り道に何かあっても後味悪いし……八島は風呂入ってろよ」
「ん……」
俺は八島にそう言い、上屋敷と共に部屋を出た。
「もう真っ暗だな」
「いやぁ~ごめんねぇ~ご馳走になっちゃって」
「別に……ただもう一度だけ言うが……」
「分かってるよ、八島さんとの事は言わないから」
「助かる」
「でも、わざわざ送ってくれなくても良かったのに」
「もうこんな遅い時間だ、女子の一人歩きは危険だろ?」
「いや、私を襲う物好きなんて居ないって」
ニコニコ笑いながらそう言う上屋敷。
そんな上屋敷の言葉とは裏腹に、通り過ぎていく男性の視線はしっかりと上屋敷に向いていた。
まぁ、こいつは性格こそちょっと残念だけど、普通に可愛いしな……。
こいつはこう言ってるけど、多分襲われる確率は高いと思う。
「少しは自分の容姿に自覚を持て、お前結構可愛いんだから」
「またまたぁ~、褒めても何も出ないぞ~」
「はぁ? 別に本当の事を言っただけだぞ? そう言うことを不細工の前で言うなよ、嫌われるぞ?」
「え……う、うん」
「ん? どうした?」
「べ、べべ別に! 何でもない!!」
「ん? そうか……なら良いけど……」
なんだこいつ?
急に変なテンションになりやがって。
その後、俺は上屋敷を自宅の目の前まで送って、自分の部屋に戻ってきた。
「ただいまぁ……」
「ん、おかえり」
「おう、なんだよ。まだテレビ見てたのか?」
「うん……どうせ明日も休み……」
「あんまり遅くまで起きるなよ」
「ん……わかった」
「じゃあ俺は風呂に………ってそうじゃねぇ!! お前も部屋に帰れよ!!」
その後、結局八島は夜中の12時まで部屋に居座り続けた。
*
私、上屋敷佐恵(かみやしきさえ)は自宅の自分の部屋で考え事をしていた。
「まさか木川君と八島さんがねぇ……あれって付き合うのも秒読みなんじゃない?」
私は自分の部屋でそんな事を考えていた。
でも……帰る時に感じたあの違和感はなんだろう?
木川君に本当の事を言っただけだと言われた瞬間、少し私は胸に違和感を感じた。
「私が可愛い……か……ウフフ……って何笑ってるの私!?」
可愛いと言われる事はたまにあるが、こんな気持ちになるのは始めてだ。
なんでだろう……なんで木川君に可愛いって言われただけで、こんなに嬉しいんだろう……。
*
翌日、八島の部屋の給湯器の修理は午前中ですべて終わった。
これで八島が俺の部屋に来ることはもう無い。
俺の平和な一人暮らしがやっと帰ってくる。
「なのに……」
「……」
どうして八島は俺の部屋に居るんだ……。
八島は俺のベッドに寝転がり、ゲームをしている。
しかも朝っぱらからずっとだ。
まぁ、俺も今日は朝からチャーシュー作ってるから、あまり気にならないんだが……。
「おい八島」
「ん?」
「なんでお前はここに居る? 給湯器も直っただろうが」
「ん……木川の家……居心地抜群」
「だからって居座るな」
「ん……木川……飲み物……」
「俺を使うな!」
はぁ……さっさと帰ってくれないかな……。 女子と部屋で二人っきりって状況にも大分慣れちまったな……。
「ん、そろそろ飯か……八島、焼きそばとチャーハンどっが良い?」
「焼きそば……卵付き」
「あいよ……じゃねぇよ!! なんで俺がお前の昼食まで世話しなくちゃいけないんだよ!!」
「自分で聞いてきた……」
「そ、それはそうだが……あぁくそ! まぁ、いいや……」
なんで俺はこいつの世話を焼いているんだか……やっぱりうちの両親に似てるからか?
俺がそんな事を考えながら、冷蔵庫の食材をチェックしていると、部屋のインターホンが鳴った。
「ん? 誰だ?」
この部屋を知って居るのは、強と早乙女。
あとは上屋敷くらいだが?
あ、もしかしたらこの前ネットで買った物が届いたか?
「はい?」
『あ、おーす! 私だぞぉ-!』
「……」
インターホンの画面には、上屋敷の姿が写っていた。
昨日の今日でまた来やがった。
今日は一体何のようだ?
俺はため息を吐きながら、上屋敷に尋ねる。
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