第5話 その五
「総一、あーん」
食卓をみんなで囲っている。
スプーンに、シチューをのせて、隣にいる人の口元へ持っていく。
マリアは知らん顔をしているが、明らかに怒っている。
私にはマリアの心が読める。
「おいしい?」
「うん」
口をもぐもぐさせる。総一かわいい。
「はいあーん」
「ねえ、やめてくれない、それ」
冷たい目を向けられる。ほらきた。
「え、なんで?マリアもしたら?たのしいよ」
「だれがするか!」
おばさまは声を抑えて笑っている。
こうやってマリアの反応を見るのは楽しい。
夢だけど。
紫の空、紫の地面、紫の建物、紫の砂塵が渦巻く。
ここはどこ。
自然だとありえない風景、まわりは色々な紫で彩られていた。
だけど、うつくしい。
どこか懐かしく思えた。
明暗が様々あってちゃんと識別できる。
これはなんなのだろうか。
夢心地。
うっとりと。
まどろむように。
風景はねじ曲がる。
雨が降っていた。
弱くもなく、強すぎない。
私は濡れている。
服はぴっとりと張り付いている。氣持ち悪いを通り越して、もはやずぶ濡れで何も氣にならないくらいだ。
誰か泣いている。
雨の中。
かなしいの?
あなたは誰。
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