メッシーナ谷
「SS6AE1、山師たちの居住区は、このままにしていてよいのか?」
「彼らは規則に従わない者達、まとめておくほうが効率的ですし、管理上のリスクも最低限に抑えられます」
ドイツMADの第三課出身の女スパイとして、傭兵など荒くれ者たちの中で生きてきたハイデマリーとしては、ここの山師たちに親近感を感じています。
チタニアステーションの、善良な住民として扱いたいとの思いがあり、彼らも平穏な日を、求める気持ちがあるはずと、信じているのです。
しかし、SS6AE1の反対は強く、論理的に反論できないハイデマリーとしては、従うしかないのです。
……このチタニアステーションに、定住する可能性のあるものは山師たち……
人が集まり、シティとして繁栄させるには、山師たちに家を与えるべきなのでは……
五年限定の採掘権を再入札して十年働けば、このチタニアステーションに愛着も出ようというものだろうし、それだけ税金も払ったことになる。
外殻都市や天井都市ぐらいは開放しても……アメリカの西部開拓のように、町を……
しかし山師達の鉱山事業だけでは、やはり成り立たないか……
山師たちだけでは人口がすくない……なにかもう一つ事業を起こさねば……
しかし、どうすればいいのか……私は戦うだけしか、能のない女だからな……
そんなことを思い巡らしながら幾日が過ぎ、ハイデマリーはナーキッドの女性職員を二人連れて、銀鉱山の視察に訪れました。
衛星チタニアにはナノマシンが非展開で、チョーカーの魔力が効かず、SS6AE1がかなり反対したのですが、ハイデマリーが押し切った結果です。
天王星ウラヌスの五大衛星の中でも最大のチタニア、そのチタニアにある巨大な割れ目、長さ約千四百九十二キロメートルの メッシーナ谷の底に銀の鉱脈が見つかり、谷の底にジャンプポイントが設置されたのがこの鉱山の始まりです。
谷の底は幅はきわめて細く、両側に切り立った崖が延々と続いて、その崖にエアドームがかかっています。
谷の内部は、チタニアの水から作り出された空気が充満しており、一応呼吸ができ、温度も氷点下二十度あたりに保たれています。
チタニアの地表平均温度は、氷点下二百十度はあり、極寒地獄の中のオアシスのようなものです。
この環境の維持費が高い税金というわけですが、山師たちはそのことを理解していないようですね。
崖に対して、幅十メートルが一つの鉱区。
幅十メートルは厳密にまもられており、山師たちが掘った坑道の入り口が鉱区ごとにあり、鉱脈が鉱区を横断していても、隣の領域を掘ることはできない決まりです。
もし他鉱区を掘った場合、発覚すればその場で免許はとりあげられ、無一文で追放されることになっています。
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