第二章 ベネデッタの物語 魔法女学校

バレアレスメイドハウス転籍

 ベネデッタは途方に暮れていた。

 『百合の会議』で、ある事を審議してもらおうと、ハウスキーパー事務局に出向くと、ハウスキーパーのサリーから、『いかがなものか』と意見がついたのである。


 しかたなくあきらめようとすると、明日までに再考を命じられた……


     * * * * *


 もと法王領諜報機関に所属していたベネデッタ・アルクーリは、ある日、バレアレスハウス転籍を命じられました。

 テンプル騎士団総長であり、ナーキッド参与のギヨーム・ド・ヴィシエの要請によるものでした。


 最後の審判戦争が終わり、惑星世界管理局が設立され、この度小規模な制度改革があり、ハウス内のオフィスは再編成され、ハウスはメイドハウスに統一、メイドは全てこのメイドハウスに所属することになったのです。

 マルス移住から二十年を少し過ぎた頃でした。


 バレアレスメイドハウスは、創設以来一人も寵妃を出せず、メイドハウスとしてはほとんど機能していなかったのです。

 名誉清女さんが何人かいるだけで、ハウス・バトラーは空席、小さいコテージのような事務所があるだけです。


 このマルスのバレアレス領域は、もともとテラのテンプル騎士団の国家、つまり法王領の国家と呼ぶべきものが、マルスに国家移住してきた領域で、マルスでは珍しいカトリックが主流の地域です。


 国家移転をしている関係上、全ての歴史的建造物なども、二次移転でマルスへ移設されており、イビサの旧市街も、そのままマルスにあります。


 首都デモレーにも、パルマ・デ・マヨルカの歴史的建造物などは、軒並み移設されていますので、ニューパルマ・デ・マヨルカともいわれています。


 ここにはアントニオ・ガウディ設計で改修された、王室礼拝堂がある大聖堂もあります。

 バレアレスメイドハウスは、そのラ・アルムダイナ宮に設置されています。


 バレアレス領域には、法王領関係の人々が多く移住しており、その関係でサンマリノ共和国も、バレアレス領域内の一つの自治政府としてそのまま移住しています。


 アンドラ公国も、マルスに移住したフランス領域の大統領と、法王領からの要請を受けたウルヘル司教により、国家移住を決意、ここに自治政府として存在しています。

 

 ちなみにドイツ領域には、リヒテンシュタインが国家移転を希望しましたが、ナーキッドにより拒否、ドイツの一部として全域移転してきています。

 オーストリアもドイツとして、全面移転となっています。


 ベネルクス三国は手をあげなかったので移っていません、ロシア領域はオストプロイセンの関係で地域移転を認め、バルト三国、ポーランド、チェコ、スロバキアは移動してきています。


 マルスにおいてスペイン、イタリアの文化はここにだけ残っている、といってよいのかも知れません。

 イタリア人でもあるベネデッタ・アルクーリにとってはサンマリノだけが、ふるさとと感じる場所のようです。


「このバレアレス領域だけがマルスの法王領、ナーキッド内での勢力も当方は一番小さい、結局は献上品が少ないことに帰結している」


「本来フランスは国家移住のはずが、結局は北フランス、ユグノーばかりが動いてカトリックは動かない、イタリアもスペインも危機感がなく自ら墓穴を掘った、せめてポルトガルと思ったが同じ様なもの」


「バレアレスの人口は百万ほど、これではますます弱小勢力となる、ナーキッド、さらにはネットワーク審議会での発言力も心もとなくなる」


「とにかくバレアレスメイドハウスを稼働させ、献上品を出来るだけ出して欲しい、マルスのカトリックの声を大きくしたいのだ」

 ギヨーム総長は、転籍直後のベネデッタにこのように語ったのです。


 ……私には荷が重いのだけど……どうしたものか……


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