マルスの女たちⅡ 鹿の園のエウローペ 【ノーマル版】
ミスター愛妻
マルスの女たちⅡ 鹿の園のエウローペ
第一章 ティアの物語 明日への道
瞳を開けてね
ティアは瞳を開き、明日を見つめた。
その瞳に友達の危機が見えた。
なんとかしたいと姉に泣きつくと、パリまで友達を迎えに行けと云われた……
ナーキッド撤退決定で、北フランスは治安の悪化が酷く、心配した美子さんがついてきてくれたが、帰りの列車が動かない。
そこで、車でシュノンソーに帰ろうとするが……
* * * * *
その日、ティアは両親と姉に連れられて、久しぶりに外出しました。
十二歳になったティア、フランス第一のお金持ちとも呼べる、ロッシチルド家の次女。
その高貴な容貌は姉とは違い、物憂げな雰囲気が漂っています。
大邸宅の大広間に、家族と寄り添うように集まり、そして、何か空気が動いた気がしたのです。
姉や両親の、息をのむ雰囲気が伝わってきます。
「ディアヌお姉さま、どうしたのですか?」
「これからある方に会うの、お父様やお母様、そして私がその方に誓願するの、だから良い子にするのよ」
「誓願?法王様に会うの?」
「……」
姉のディアヌの返事はありませんでした、その、ある方の前まで来たようなのです。
両親になにか言葉をかけているようですが、英語のようで、ティアにはまだ理解できないのです。
そのあとティアの目に、やわらかい小さい手が触ったような感じがしました。
そして母に手を引かれていると、何か再び空気が動いた気がしました。
母は執事を呼ぶと、ホームドクターを呼ぶように命じました。
そして何やらカーテンを閉めています。
誰かがやってきました、どうやらいつものドクターのようです。
「ティア、先生に眼を見せてあげて、お願い、瞳を開けてね」
静かにティアは瞼を持ちあげます。
「先生?男の方が見える……あれ、見える……」
「ティアお嬢様、目は治っております、見えますよ」
そこへ姉のディアヌがやってきて、
「ティア!見えるの!」
「ディアヌお姉さま!見えるわ!」
そう、ティアは六歳の時、突然目が見えなくなって、以来六年の間、INJAつまり国立盲学校に通っていたのです。
学校との行き帰り以外には、滅多に外には出なかったのです。
母と姉は、何か深刻な話をしています。
そしてホームドクターに向かって、今日は静養させますとか云って帰らせています。
ドクターが帰ると、ティアを振り返り、
「先ほどのところへ行きますよ、お父様がお待ちですよ」
すると突然、三人の空間が揺らぎ、周りが変化しました。
荒涼とした場所で、夜なのでしょう……
ただティアたちの居る、そのあたりが仄明るく、幾つかのテーブルとイスが並び、幾人かの人々が話をしています。
「ティア、あれが見えるでしょう、テラよ、私たちの星なのよ、ここはね、ルナなのよ」
ディアヌに云われ、なにか自分が夢を見ているような気がしたティアです。
「ティア、大事な話があるの、良く聞いてね」
少し難しい顔をして、母が声をかけます。
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