[1] 姉と妹と幼馴染
「神様はいますよ、ミハル」
諭すように、姉さん――諏訪ハクアは言う。
「……いないだろ、姉さん。だって、会ったことないし」
ぶっきらぼうに、私――諏訪ミハルは答える。
「いいえ」
姉さんは、優しく否定する。
「います。私たちのことを、ずっと護ってくれているのですよ」
そして、私の手を柔らかく握って、微笑むのだ。
* * *
山陰地方、日本海に面する寂れた漁村。
ここが、私の故郷。
多少の海産物は獲れるがそれ以上のものはなく、学校は一つか二つ、住民も老人が大半で、その殆どが顔見知り。
建物は朽ち、道路はひび割れ、電波もロクに届かない。
そんな、時代に取り残された一田舎の、神社の巫女などという、より前時代な職に就いているのが私だ。
尤も、齢十五の私はまだ見習い。実際に神事を執り行っているのは、私の姉、諏訪ハクア。
少々浮世離れした女性ではあるが、誰よりも優しい、私の大切な姉さんだ。
色の抜けた白髪と、透き通るような白肌を持つ姉さんは、周りから『神の使いだ』と崇められ、そのように育てられてきた。
姉さんはその期待に違わず、よく学び、礼儀作法を身に付け、未だ十八歳ながら、村の祭事や神社の経営をも取り仕切る、立派な巫女となっていた。
そんな姉さんのことを誇りに思っているが、同時に不憫にも感じていた。
私は神の存在を信じていない。
巫女失格だとは思うが、それでも私は現実主義であり、この目で見たものしか信じない。
神様だとか妖怪だとか、そういう超常的な存在は、この十五年生きてきて一度たりとも見たことはないし、巫女だからといって、何か特別な力を施せた事がある訳でもない。
だから、そのような存在しないものに縛られ、奉仕を余儀なくされる姉さんを見ていると、やるせない気分になる。
けれど姉さんにその思いの丈を漏らすと、いつも諭される。
神様はいるのだ、と。
目には見えなくても、見守ってくれていて。
私達の知らない所で、護ってくれているのだと。
穏やかに笑っては、そう語るのだ。
その言葉には不思議と説得力があって、私の言いたかった事は、飲み込まれるようにして消えてしまう。
だから私は、神様なんて信じないけれど。
それを信じる姉さんを――姉さんが信じるそれを、信じようと思った。
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