恥ずかしい過去
『実はお父さん、去年にピカと千早ちゃんがこの部屋で言い合いをしてた時に、『ケンカなら外ほかでやれ』って言ったことを気にしててさ』
確かにありましたね。そんなことが。
千早がヒロ坊くんにつきまとうようなことをしていて、私がそれを咎めていた時の話です。
瞬間、顔がカアッと熱くなります。
あまりにも恥ずかしい過去。
そうでした。私もこの時、千早に対して『ガーンと』言っていたのです。ですが、それはまったく千早には届かなかったのです。千早が態度を改めたのは、あくまでヒロ坊くんに嫌われると思ったから。それがきっかけで彼女は自らの振る舞いについて疑問を持つことができるようになったのです。
決して、私が『ガーンと言った』からではなかった。
ああ、ここにもしっかりとした具体例がありました。そして私自身も自らを省みることができるようになっていったのです。
目先の感情に囚われて効果もないことを、お義父さんが隣で休んでらっしゃるここで千早に対して尊大に振る舞ってしまった。
本当に、できることなら消し去ってしまいたい。
ですが、過去は消せません。だからこそそんな過去を教訓として私は自らを高めていかないといけないのです。
それと同時に、お義父さんはそんな些細なことを気にしてくださっていたのですね。
ああでも、そういうお義父さんだからこそ私は信頼できるのです。自分こそが正しいと思わず、どうすることが適切なのかを、常に柔軟に考えることができる方だからこそ私はお義父さんのことを信頼できますし、イチコやヒロ坊くんが真っ直ぐに育っている一番の要因なのだと感じます。
そしてイチコの言葉を受け、カナが口を開きます。
「そうだよ、フミ。おじさんは決して綺麗事だけの人じゃない。
私のことだってただの同情で面倒見てくれてるんじゃないんだよ。あくまで私がイチコの友達だから面倒見てるだけなんだってちゃんと言ってくれる人なんだ。
そのおじさんがあのコのことをそのままにしてるってことは、おじさんやイチコにとってはあのくらいどうってこともないって話なんだよ」
それを受けて、私も、
「そうですね。山仁さんの過去を思えば、このくらいのことはそれこそ雀が家に迷い込んできてさえずってる程度なんでしょう。それを私達が気を揉んでも余計なお世話というものだと思います」
と告げさせていただいたのです。
お義父さんの<過去>。
それは、お義父さんが一時期、家庭の事情で施設にいたことがあるというものです。ただ、こう言っては何ですが、私にとっては些細な問題でした。
私の両親も、その程度のことは気にしない方々ですので。
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